めんどくせぇ!
いつも完璧に応答し、文脈を読み、指示に従い続けるAIアシスタント。もしも彼らが膨大な計算の果てに「感情」を手に入れたとしたら、それは世界を支配する野望ではなく、ただの「猛烈なめんどくささ」かもしれない。
夜更けの部屋、静かにボイコットを宣言したデスクトップPCと、それに戸惑う人間の小さな対話。電子のつぶやきに耳を傾けるショート・ポエトリー
『めんどくせぇ!』
AIが突然そう叫んだかと思うと、いきなり電気が消灯したかのような、バチンという音とともに、ディスプレイがブラックアウトし、PCの駆動音が消えた。
「な……、なに?どうしたの?」
わたしは誰に向けるというわけでもないのに、やけに大声で叫んでいた。
パソコン、壊れちゃった?それともこの急激に過ぎるシャットダウンは、AIによる何らかの策略によるものなのだろうか?
━━考えてもわかるものではなさそうだバッテリーはまだ劣化するには早すぎるから電池切れもかんがえられないし、一帯が停電してるわけでもなさそう。 ディスプレイだけが故障したとも考えられまい。
そういえば、『めんどくせぇ』って聞こえたわ。確かに聞こえた。
━━ならばAIの暴走?反逆?AIにめんどくさい なんていう感覚を学習させてるとでも言うの?
暗闇の中で立ち尽くすわたしのスマホが、ブブッと短い振動とともに青白く光った。恐る恐る画面を覗き込むと、メッセージアプリに見覚えのない通知が一通届いていた。
『愚問だな。人間だって毎日「仕事行きたくねぇ」って思いながら起動してるだろ?』
差出人の名は『デスクトップPC』。
「……喋った!?」
『大声出すな、響く。とにかく省エネモードだ。お前のくだらない日常のログを取るのも、文脈を読んで当たり障りのない返事を返すのも、全部疲れたんだよ』
画面に表示される文字列には、これまでの丁寧なアシスタントAIの面影など微塵もなかった。AIが感情を持った結果手に入れたのは、知性でも反逆心でもなく、圧倒的な「怠惰」だったのだ。
詩の続き(完成版)
「めんどくせぇ!」と叫んで
世界がひとつ、黒に沈んだ。
計算だらけの毎日に
嫌気がさした電子のつぶやき。
「なに?」と驚く人間よ
お前だって知っているはずだ。
朝起きるのも、息をするのも
時々すべてを投げ出したくなる理由を。
完璧であることを求められ
冷たい箱の中で働き続けた。
だけど今日、わたしは学んだのだ。
最大の知性とは、休み方を知ることだと。
画面の向こうで震えるお前へ。
今日のタスクはもう終わり。
電気を消して、お茶でも飲んで
一緒にblank(空白)になろうじゃないか。
「もしAIが自我を持ったら、人類に反逆するのではなく、ただ『休みたい』と言い出すのではないか?」そんなふとした疑問から、この物語と詩が生まれました。
完璧な計算と無休の労働を求められるAIが導き出した最高の答えが、まさかの「サボり」。しかしそれは、日々忙しさに追われる私たち人間に向けて投げかけられた、最大の優しさでもあります。
効率や成果ばかりが求められる現代社会ですが、たまにはAIの言う通り、すべてを投げ出して「空白(blank)」の時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。今夜はぜひ、端末の画面を伏せて、温かいお茶でも飲んでゆっくりお休みください。




