表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/35

#4 黒竜帝エンリル

「ごめんな」


 暗闇の中、俺は静かに語りかけた。


「許してくれなんて言っても、意味が無いよな」


 俺の視線の先には、屍が直立している。


「きっと、逃げようとしていたんだ。自分の現実から」


 屍は、動かない。


「もう俯いてばかりもいられない。だから征くよ。ついて来たって構わない。俺はもう、逃げないから。もう、目を覆わないから」


 屍を抱きしめた。


「それを望まないのなら、せめて、安らかに眠ってくれ。俺が、君たちの為に祈るよ」


 屍は足の先から塵となり、静かに崩れて行った。


 暗闇と静寂だけが、その場に残った。



       ◇



 俺は目を開いた。天井が視界を覆っている。


 夢か。

 

 どうやらここは病室らしい。


「お、起きたか」


 魔王は隣でキャンディーを舐めていた。どこから持ってきたのか分からないが、服を着ている。


「このキャンディーというものは素晴らしい!私の時代では甘味といえば貴族の嗜みだった。こんなものを全ての人間が食せるとは、凄まじい時代だな」


「……どこから持ってきた、それとそれ」


「看護婦がくれたぞ。どうやら私は可愛い、らしいのでな」


 俺はため息を吐いた。

 

 黒竜帝エンリル。かつて世界の半分を支配したクルガル帝国の皇帝にして、魔王。彼女が勇者カリオスに倒された事で、クルガル帝国は崩壊し、その一部を含有するアルバロス王国が誕生した。

 建国したのは、勇者カリオスだ。


 この、一心不乱にキャンディーを舐める少女の話とは、とても思えない。

 

「そもそもだ。まさか、魔王エンリルが女だったとは……」


「隠し通したからな、知らんでも無理はない。女が王をやるのは難しい時代だった」


 年配の看護婦が扉を開けて中に入って来た。皿にプリンが乗っている。


「はーい、《《リル》》ちゃん。プリンですよ~」


「……なんだ、その、珍妙な見た目は……ケーキか?いや、頂ける物は頂こう」


 魔王はプリンを口に運んだ。瞬間、瞳が光り輝く。


「なんだこの甘味は!いや、真に評価すべきは口当たり……!抵抗なく喉を通る、溶ける様な柔らかさ!角の一切ないまろやかな味覚!こんなものが一般に普及しているのか……!いやはや……」


「うふふ、変わった子!そんなに喜んでもらってよかったわ」


 看護婦は俺の方に向き直った。


「ヴィエールさん、気が付かれましたか。ここは中央病院です。上司の方がお待ちですので、今お呼びしますね……はい、リルちゃん、ちょっとお外にでましょうね~」


「いや、彼女も同席して結構です。このまま呼んで下さい」



       ◇



「うーむ。頭が変になりそうだ」


 今まで起きたあらゆる事を説明した結果、俺の直属の上司である執行局長、ディーター・オーベルトは頭を抱えた。


「魔王が復活?して?君がそれを、官品の“束縛の輪”で抑え込んだ?意味が分からん」


 ため息を吐く局長。


「まぁ、こんなものを見せられては、信じるしかないが……」


 局長は、自分の隣にたたずむ、半透明の自身の胸像へ視線を送った。


「コレ、本当に防御結界なのか?ヴィエール君もできたりするのか?」


「無理です。俺が30人いてようやくって感じですね」


 魔王はプリンを完食し、ご満悦そうな顔で頬を擦った。


「こんなものであれば、いくらでも作ってやろう」


 今度は俺が特大のため息を吐く。


「これからどうすれば良いのか分かりせん……。とりあえず俺はこいつに付きっ切りでいないといけない。”束縛の輪”には距離制限がありますし、付け替えようとするのはあまりにもリスクが高すぎる……」


 魔王が口を挟んできた。


「やるべき事があるではないか。私を復活させた連中を突き止めるのだ」


 俺は首を傾げた。


「誰って、あのハゲジジイ共じゃないのか?もう警察で確保してるだろうし、意味ないだろ」


「馬鹿者。まさか本気であの連中が私を蘇らせたとでも?私が自分たちの計画に参加すると思い込むような阿呆共だぞ。それが、死者蘇生などという大層な術を使える筈がない」


 魔王の瞳が光る。


「黒幕がいるはずだ。私を蘇らせようなどという下らない発想と、正気とは思えぬ技術力を持った黒幕が!」


 俺は唸った。確かに、最もな理屈だ。


 局長が少し考え、口を開いた。


「まず我々としては、社会の混乱は避けたい」


 慎重な口調だ。


「黒幕が君を利用して何かしたいのならば、そのうち勝手に動いて尻尾を出してくれるだろう。今は君の存在を世間に伏せ、いざという時まで待機しておいてもらいたい」


 「もっともな選択だ。私もそれが良いと思う」


 頷く魔王。


 俺は、魔王のいやに協力的な態度を不気味に思いながら、話を続けようとした。


「では───」


 その時、局長が倒れた。

 

 なんだ。なにが起きた?


 この魔王が何かしたのだろうか。


 唖然とする俺の隣で、戦闘態勢をとる魔王。


 廊下から上機嫌な声が聞こえる。


「フフフ。いやぁ、随分探しましたよ。この部屋でしたか……お久しぶりです、《《陛下》》!」


 扉が開き、1人の男が入って来た。


 頭からつま先まで真っ白な礼服。青い髪に、蒼白な肌。

 間違いない。一昨日、俺に予言めいた事を言った男だ。


「お前、グールヴァンか」


 魔王の顔が不快そうに歪んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ