表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/35

#3 全力

「今夜は死ぬにはいい夜だ。お前も、そう思うだろう?」


 杖の先には、子どもの頃から幾度となく空想した魔王が立っている。


 魔王がいない世界に英雄はいらない。

 では、魔王がいるならば……?


 俺はなるんだ。本物の英雄に。


猛襲せる雷霆エクスぺディ・フルメン!」


 杖から、何十本もの稲妻が撃たれた。

 バリバリという轟音が空間を引き裂く。


「甘い」


 魔王の結界は俺の攻撃をものともせず弾き返した。


 やはり、電撃ではだめか。


 職業柄、普段は非殺傷性の高い電撃を用いている。

 しかしこの戦いは”いつも”のそれではない。命の獲り合いである。そんな甘えた事をしている場合ではないのだが、ついクセが出てしまった。


 再び杖を構え、全身に力を込める。


滅せる光(ルクスインテル)!」


 渾身の一撃。

 俺の出せる最大火力。地力で下回るなら、狙うは短期決戦による大番狂わせだ。


 杖の前に方陣が展開され、人間を包み込めるほど巨大で、強烈な白光が放たれた。


 魔王の結界が白光に包まれる。


 視認はできないが、手ごたえはあった。


 

 このまま押し切る。

 出力を上げつつ、指向性を強めろ。


 出力の上げ過ぎで脳がオーバーヒートを起こしたらしい。目、口、鼻……孔という孔から血が流れ出る。


 関係ない、征け。

 更に出力を上げろ。

 もっと、もっとだ。


 

 

 気づけば、アパートは跡形もなく崩れ去っていた。


 俺たちの身体が月光に照らされている。

 杖の先からは、もう何も出ていない。


 これが限界、か。



 魔王が結界を解き、こちらに近づく。


「お前、防御結界で、倒れていた連中を守ったのか」


 よく気づいたな、と感心する。


 アパートが崩落するほどの衝撃があったにも関わらず、犯罪者集団が全員生きているのは、そのためだった。


「相当の意識をそちらに割かれただろう?」


 魔王は少し首を傾げた。


「真に全力を出せば私に届いたかもしれない。何故そんな事をした。お前にはどうでもいい連中だろうに」


 俺は笑った。苦笑でも、乾いた笑いでもない。腹の底から、短く笑った。


「分かってねぇな、魔王」


 意識が遠くなる。杖を落とさないよう、強く握った。


「英雄は巻き添えを出さないんだ」


 魔王は口角を上げた。


「気に入ったぞ、お前。私の眷属にしてやろう。なれば生かしてやる」


 空を見上げ、月を眺め、そして答える。


「断る」


「そうか。そう言うと思っていた」


 魔王が俺に更に近づく。


「ならば、お前に最大限の敬意を払い、私自身の手で殺してやろう」


 右腕を天高く掲げる。

 満月と掌が重なった時、その指は光をまとった。


「さらばだ。この時代の英雄よ───」


 掌が俺の心臓目掛けて振り下ろされる。


 今だ。


 俺はコートの内側から素早く首輪を取り出し、魔王の首に押し付けた。瞬時に装着が為される。


「”止まれ”」


 魔王の掌は、俺の肩の上で止まった。コートに若干食い込んでいる。


 魔王の顔が露骨に動揺した。


「命令を聞かせる魔導具……!?バカな……貴様……!?」


 俺は笑った。今度も腹の底から、今度は盛大に。


「油断したな」


 俺の笑い声が、夜空にこだまする。


「俺は卑怯な手なんて使わない、紳士的な戦士だと思っただろう!?残念だったな。大好きなんだよ、()()()()()!」


 魔王の顔がみるみるうちに紅潮し、青筋が浮かぶ。


「お前に近づけないのだけが問題だった。自分から詰みにきてくれてありがとう!流石に不完全な拘束だが、チェックメイトには十分だろう!?」


 魔王は一瞬怒鳴りそうに口を開けたが、すぐに閉じた。若干の笑みが浮かんでいる。


「いいのか?英雄はこんな事をするのか?」


「いいんだよ。俺は英雄じゃない。ただの、しがない()()()公務員だからな」


 魔王の口が大きく開いた。口角が、裂けんばかりに上がる。


「ハハハハハ!!!いいぞ、お前、最高だッ!!!認めてやる。お前は英雄にふさわしい。今だけは従僕の立場に甘んじてやろう!!!」


 急速に、俺の意識が遠のき始めた。

 安堵が身体のダメージを思い出させたのだ。


「おいおい()()()()、もうダウンか?命令をしないと、ほっぽり出してどこかへ行ってしまうぞ?」


 せせら笑う魔王。

 俺は地面に倒れ込み、声を振り絞る。


「俺のそばを離れる事と……魔術の使用を、禁ずる……」


 言い終わるや否や、俺の意識は闇へ誘われた。



       ◇



 少女は、倒れ込んだ男を静かに見下ろしていた。


「馬鹿な男だ。こんなもの、いつでも外せるというのに」


 自らの首にかかった輪を持ち上げる。


 しゃがんで男の顔を覗き込むと同時に、ふと笑みが漏れた。


「いい顔で眠るじゃないか。満足という事か?」


 男の顔も、また、笑っていた。


 月光が2人を照らす。

 月を見上げる少女。


「見ているか、フェイ。折角の2度目の人生だ。お前の分まで、私は幸せになってみせるぞ」


 静かな声だ。

 少女が月に何を見出したのかは、誰にも分からない。


 倒れている男へ向き直る。


「決めた。お前の()()()()英雄譚に、まだ付き合ってやろう。だが、私の2度目の物語にも付き合ってもらう。私は存外、お前が気に入ったのでな」


 遠くから、警官がこちらへ駆けてくるのが見えた。恐らく近くで待機していたのだろう。


「誇るがいい。お前は、英雄にふさわしい男だ」


 静かな夜。1人の勇者と小さな魔王の、静かなる戦いが幕を閉じた。

 幾万点の作品群より本作を見つけて下さった上、ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます!

 コメント/評価/ブックマーク等頂けますと、作者のモチベーション向上に繋がりますので、是非よろしくお願い致します!_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ