#26 回顧せる少女
少女は揺れる部屋の中で、目を覚ました。
窓から、月光が薄く差し込んでいた。
その先には、真っ黒な海がうねっている。
隣では髭面の男が、だらしなく眠っていた。
寝付けない自分に苛立ち、舌打ちをする。
「ゲラニアか……」
男を起こさないように、ぽつりと呟いた。
少女にとって、それは思い出深い大地であった。
オーガ、ドワーフ、オーク、エルフ、ハーピィー……
今もまだ、奴らが、あの大地で生きている。
その事実が、少女を過去へと駆り立てた。
かつてのゲラニアは多民族が混住し、神聖帝国の支配が及ばない地域では、日夜抗争が勃発していた。
少女、黒竜帝エンリルが竜の群れを引き連れ、その一切を蹴散らすまでは。
そして今もまた、彼の地で争いが起きている。
「今度こそ、上手くやろう」
今度こそ正しいやり方で、彼の地の争いを平定してみせる。
もう誰も殺さない。全て、守り切る。
少女は拳を握り込んだ。
薄着の身体に、寒さが浸透した。
風が無いというのに、酷い寒さである。
少女は寒さが嫌いだった。
昔を思い出すからだ。
思い出すのは、勇者との戦いの記憶ではない。
困難を極めた、クルガル帝国の内政でもない。
戦乱の地、ゲラニアを統一するまでの覇道でもない。
想起されるのは、暗い記憶。その暗さが故に、魂に確固として刻まれ、忘れる事ができない思い出である。
そう。彼女はこんな時、自らの始まりの地、ルアンキの冷たい大地を静かに思い出すのだ───
第1部 邂逅篇 完
第2部 戴冠篇に続く




