#14 事変 ③
9:40 首都ニューリア 陸軍本庁舎 作戦室
「少数精鋭がいい」
俺は腕を組みながらそう口にした。
「無駄に兵士を連れて行っても足手まといになるだけだ」
フォアマンは、良く分かっている風に首を振った。
「行くのは陸軍の魔術将校7人と、ここにいる3人だけだ。あと一応、首相官邸の中にボーマン1等執行官がいるらしいが……」
「ボーマン!?だめだ、あいつは。魔術省の最右翼の1人だぞ。共犯でもおかしくないや」
「まさか……君が思っているほど、ボーマン君は悪い奴じゃないさ」
「どうですかね」
俺は肩をすくめた。
「俺は西から入ります。他の皆さんは東から頼みます」
作戦室の机に広げられた、首相官邸の間取り図を指差す。
「1人でいいのか?」
「他に人がいられても邪魔なだけです」
実際には、エンリルを隠し通すために必要だからである。
「頼もしいな。まぁ、実際それが良いだろう」
これ以上話す事はない。俺間取り図を畳み、口を開いた。
「それでは、行きましょうか。首相官邸へ」
◇
10:20 首都ニューリア 首相官邸より西に400mの地点
空が曇り出した。
「全く、貴様らは阿呆なのか?」
エンリルが心底呆れた様に愚痴る。
「反乱分子を身内に抱えているのに呑気に演習だあ?危機管理がなっていなさすぎる」
「俺に言うなよ。俺も同じ事思ってるんだから」
この道を真っすぐ行った遠くに、検問らしき物が設置されている。
見張りの兵士が4、5人銃を携えているらしかった。
「強行突破するつもりか?芸がないな」
朝起きてから色々引きずりまわされたせいで、エンリルは不機嫌そうだ。
「しょうがないだろ。魔術馬鹿は考えるとかできねーの」
胸ポケットから杖を抜き出す。
「”魔術の使用を許可する。ただし、周囲の建造物などに被害を出すな”」
俺がそう言うと同時にエンリルは宙に浮き、構えをとった。
「ゆくぞ」
杖を振る。100m先の兵士が倒れた。
敵襲に気づいた兵士たちが、こちらへ向け銃を連射し始める。
防御結界を展開しながら突進する。銃弾を悉く弾き返す結界。
「この銃なるものも中々の威力だ。よく防ぐな、ジョフル」
そう褒めるエンリルは、防御結界を張る事すらしていない。
特に心配はないが。
「雷霆の叢雨!」
杖を振ると同時に、上空から幾重もの稲妻が、兵士たちに降り注いだ。
うめき声を上げ、次々と兵士が倒れる。
「すぐに奥から増援が来るぞ、どうする?」
エンリルは愉快そうに笑い、俺へ試す様な視線を送った。
自分も、自然と口角が上がっているのを感じる。
「もちろん、全部強行突破だ!」
◇
10:25 首都ニューリア 首相官邸前
「こら、貴様。それ以上こちらへ近づくな!」
首相官邸の入口に待機した兵士が、25mほど先の人間へ銃口を近づけた。2組だ。
「首相官邸は、今、我々が占拠している!これ以上近づけば、撃つぞ!」
男は外套を羽織り、フードを被っていたので、顔はよく見えなかった。
心底不思議そうに首を傾げる。
「中には、入れんのか?」
「当然だ!さあ、今すぐ立ち去れ!」
男は、外套の下からおもむろに、布に包まれた棒を取り出した。
剣の様にも見える。
「ならば、無理をしてでも通らせて貰う」
「撃て!」
刹那、金属音が周囲に響き渡った。
男の掲げた棒から煙が上がっている。男は無傷であるらしい。
「弾いた、のか……?」
動揺する兵士。
「───まぐれに決まっている!撃て、撃て!」
他の兵士がそう叫び、銃を構えた。
その瞬間、2人の兵士は同時に倒れた。
鈍い打撃音だけが、その場に残っている。
「しばし眠れ」
いつの間にか、男は兵士の裏を取っていた。
「やれやれ、まさかこんな事になるとはな」
男はフードを外した。
長い金髪が官邸の影に煌めく。
脱がれた外套の下から、アルバロス王家の紋章が現れる。
「今助けに征くぞ、フロイデン」




