閑話1 属州にて
属州民、ボルグの朝は早い。
ドワーフに生まれた彼は、鉱山で働かさせられていた。
彼自身の意志によるものではない。属州政府は1家庭から1人を徴収し、様々な労働を割り振っているのだった。
家は貧しい。国営企業から払われる賃金は1日30レア程度と僅かで、その上税金を納めさせられている。
2レアで、本国のパン1切れの価格であった。
それでも彼は今朝も炭鉱へと向かう。
それ以外に選択肢がないからだ。
険しい道を歩くと、胸が痛む。
坑道の粉塵を吸い込み過ぎて、肺が侵されているのだ。
「よう、ボルグ。どうだい。今日は」
「やあ、オイゲン。悪くないよ。こうしてしゃべれるんだ」
職場の本部の近くで、同僚のドワーフに声をかけられる。
他愛もない会話をして歩みを進めていった。
今日も重いつるはしを背負って坑道に潜り、トロッコを押しつぶされないように気を付けながら押して、僅かな賃金を貰う、筈だった。
オイゲンの様子がおかしくなったのは、坑道で地下へと潜ってからだった。
少し震えながら、換気扇の音にかき消されそうにな小さい声で、ボルグに話しかけて来た。
「なぁ、おかしくないか」
「何が」
静かにそう問い返した。つるはしを思い切り壁面に叩きつける
「この状況が、よ。アホみたいに安い金でこんな事させられて、それで、俺たちはもうすぐ死ぬんだ」
何を不吉な、と笑おうとした時、肺が痛みを思い出した。
ああ、そうか。俺は死ぬのか。
「こんなクソみたいな人生、やってられるか。なぁ」
オイゲンはつるはしを投げ捨てた。
「このまま終わるなら、このまま終わるぐらいならせめて……ぶっ壊そう。全部」
オイゲンの目には、静かな炎が灯っているようであった。
「壊すってなんだ。どうするつもりだ」
ボルグは乾いた笑い声を漏らした。
「ぶっ壊すのさ。この坑道も、鉱山も、上層部も、全部、全部……」
不思議と、ボルグにはその言葉の言わんとする事が鮮明に理解できた。
「ぶっ壊すんだ」
オイゲンは放り投げたつるはしを拾い上げる事もせずに、後ろを振り向いて、外へと向かった。
ボルグもつるはしを手から離す。
何かは分からないが、予感を抱いて、2人のドワーフは駆け足に外へ進んだ。




