【プロローグ(第1巻)】
【作者よりご挨拶】
新たな悪役令嬢救済シミュレーションへようこそ!
第一巻では、登場人物たちの幼少期を描きます。
乙女ゲームの常識を覆す、新たな挑戦!
俺は海外任務から数ヶ月ぶりに日本の自宅へ帰ってきた。
20代半ばの現役軍人で、対テロ特殊部隊に所属している。休暇中だったから、ゲームを買い漁ることにした。
セール中だったせいか、気になったタイトルを片っ端から購入。ひと通りプレイし終えた後、奇妙なゲームを見つけた。
『戦火の恋に希望を』――略して『戦中~』
英語版タイトル『Kiss-War~』の方が好みだ。1800年代の西部戦争を題材にした古い映画風かと思いきや、全然違っていた。
起動した途端、べたべたのイントロが流れてきて「女向けゲームか?」と思った。実際そうだった。いわゆる「乙女ゲー」というジャンルらしい。
返品しようかと思った瞬間、キャラクターデザインに目が釘付けになった。
瞳の形、髪、衣装――どれも魅力的だが、決め手はクレジットの「赤髪」という名前だ。
成人向け界隈で有名な絵師で、女性キャラの描き方が圧倒的にうまい。美しさだけでなく、エロティシズムが半端ない。
巨尻、くびれ、爆乳……このタッチは一発でわかる。
ゲーム内では乳量が抑えられていたが、依然として男性受けするサイズだった。
急いでネットで検索すると、やはり彼女の作品だった。「女性が男性向けエロ絵を描くって変?」と思ってたが、どうやら普通らしい。
SNSには18禁コンテンツが溢れており、有料会員だけがフルイラストを見られる仕様だ。
ゲームの評判を調べると、ほぼ好評だった。
「キャラが立ってる」「脚本の捻りが効いてる」
男は女キャラに、女は男キャラに夢中になるらしい。
「胸がデカすぎる」と文句をつける欧米人もいたが、すぐに他のユーザーに黙らされていた。
「まあ、プレイしてみるか。損はないだろ」
◇
「エリザ、リディを傷つけるなんて!」
「殿下、誤解です! あの女性が悪いのです」
「その汚い口から出る言葉など聞きたくない!」
……待てよ?
「あんな女は認めません!」
「母上、彼女は私が愛する女性です。国民も支持しています」
「殿下……私も、あなたを愛しています」
いや、ちょっと待てって……
「リディ、ようやく結ばれましたね」
「はい、ずっとお待ちしておりました」
「―――はぁっ!?」
コントローラーを床に叩きつけそうになった。
なんだこのクソゲーは?
マジで恋愛ゲームか?
確かに16歳以上対象だが……だが……
こんな糞がたまるかーーーーっ!!
そもそも女向けゲームだから男の俺には関係ない。だが理不尽すぎる。
主人公(いわゆる「ヒロイン」だが、俺からすれば「クソビッチ」だ)の選択肢は全てが毒々しい。
恋愛経験が少ない俺が言うのもなんだが、こいつは明らかに問題児だ。
平民出身のくせに王子に馴れ馴れしく、婚約者がいる男にも手を出す。
年上の男まで狙ってんじゃねえ!
「逆ハーレム」だからってNTRしていいわけないだろ。
ストーリーもクソ――こいつが世界の中心で、全てが彼女のために回っている。
特にムカついたのは、彼女より美しい女性キャラ(全員巨乳)が必ず敵扱いされ、悲惨な末路を辿ることだ。
醜い貴族の奴隷にされたり、追放されたり、虐待されたり……
エリザが最愛の人を奪われながら啜り泣くシーンは、胃が捩れるほど不愉快だった。
頭痛がしてきたので、サイトに酷評を書き込んで返品しに出かけた。
◇
怒りに我を忘れ、周りの囁き声も気にしない。
早くクソゲーを返して、飯を食いに行くぞ。
そのあとは女でも探して憂さ晴らしするか……
と思った瞬間、異変に気づいた。
新宿の街に人影がない。
看板が倒れ、食べ物が散乱している。
不気味すぎる。
曲がり角で誰かとぶつかった。
倒れた相手は血だらけだったが、助けようとすると無視して逃げていった。
ドンッ!
爆音と共に大勢の人間が逃げてくる。
血まみれの者、負傷者を運ぶ者……
「はぁ? ロケ撮影か?」
カメラを探した刹那――
バン!
背中に鋭い痛みが走った。
熱い……力が抜けていく……
血の池に膝をつく俺の前に、もう一人の男が現れた。
アフリカ仮面を被ったテロリストだ。
「クソが……報告書の人数が間違ってやがる」
機関銃の銃口が光る――
サイレンの音が遠のいていく。
ゲームの返品中にNPCみたいに死ぬなんて……
◇
目を覚ますと自室にいた。
「夢か……よかった」
その時、着信音が鳴った。
見知らぬ番号からのメッセージだ。
無視すると、また届く。
ブロックしようとした瞬間、画面が勝手に切り替わった。
《本日の新宿テロ事件で特殊部隊所属の隊員が死亡》
――俺の写真と名前が表示されている。
「……マジで死んだのか?」
驚いたことに、悲しみは湧いてこない。
部隊では仲間の死に慣れていたせいか、自分が死んでも感情が動かない。
画面に新たなテキストが浮かぶ:
《貴方の犠牲的精神を称え、転生の権利を付与します》
「転生……?」
平和な世界? いや、戦いのない人生はつまらん。
かといって階級社会も嫌だ。
ふと床に落ちたゲームを見る。
「このクソゲー世界に転生させろ」
理由は単純だ――「悲劇の悪役令嬢」たちを救いたい。
ゲームでは助けられなかった彼女たちに、俺の第二の人生を賭ける。
返信が来た:
《ランダム転生のため性別・身分は保証できません》
「待て! せめて若い頃に――」
眩い光が視界を覆った。
◇◇◇
嵐の夜。
貴族の城館で、双子の少女が震えていた。
「ふ、ふん……怖くないわよ! ただ髪飾りを探してただけ!」
「お姉ちゃん、それ頭に付いてるよ」
雷鳴が轟くたびに姉妹はぎゅっと抱き合った。
ドアが勢いよく開き、執事が現れる。
「ジェイソン? パパとママは?」
巨漢の執事は涙を浮かべ、こう告げた:
「ご両君……ご両様が、お亡くなりになりました」
その雨音に消える慟哭が、物語の幕開けだった――
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