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求古綺譚 Lucky Lore

求古綺譚:雪輪兎 Lucky Lore: Snowflake and Rabbit

作者: いろは

求古綺譚:守紋の記憶 Lucky Lore: Echoes of the Lost Realms に登場する守紋「雪輪兎」の物語です。

 むかし、むかし、ある所に二匹の兎がおりました。

 白い兎はいたずら好きでした。子供の頃からいたずら好きだったので、困った母親から因幡の白兎の話を何度も聞かされておりましたが、全く気にも留めず、いたずら三昧の毎日でした。

 一方、隣に住む耳の長い兎は、小さい頃に、叔父さん兎が亀と競争して負けた話を母親から何度も聞かされておりましたので、毎日、真面目にコツコツと働いていました。

 ザクッ、ザクッ。

「おや、今日もお隣さんが畑仕事をはじめたようだわ」

 白い兎は家を出ると、家の前にある畑を耕している耳の長い兎の方へ行きました。

「おはよう、耳の長い兎さん。今日もお天気がいいですね」

「おはよう、白い兎さん。今日もいいお天気ですね」

「ところで、耳の長い兎さん。手袋を反対から言ってみてもらえますか?」

「…ろ く ぶ て」

「ろくぶて、ですね!分かりました!」と白い兎は、耳の長い兎さんをポカ、ポカ、ポカ…と6回たたきました。

「な…なにをするんですか!」

 耳の長い兎はびっくりして、後ずさりしました。

「ろくぶて。6回ぶって。と言ったじゃないですか。あははは」と白い兎は、笑いながら家へと帰っていきました。

 次の日、耳の長い兎が井戸で水を汲んでいると、トントンと右肩を叩かれました。

(誰でしょう?)

 と、右側に振り向くと、誰かの指がほっぺたに当たりました。

「あははは」

 笑いながら走っていく白い兎の後ろ姿がありました。

 また次の日、耳の長い兎は川に釣りに行きました。

 釣った魚を入れるために、手桶に水を汲もうと手桶を川に入れると、手桶の底がボコッと流れていきました。びっくりして手桶を見てみると、横側にあかんべーをした兎の絵が書いてありました。

 耳の長い兎はしくしく泣きました。

 しくしく泣いていると、

「どうされたのですか?」と聞こえてきました。

 顔を上げてみると、川には鯉に乗った仙人がいました。

 耳の長い兎は、仙人に言いました。

「ここに越してきてから2週間。毎日、毎日、隣の白い兎さんにいたずらされております。はじめは、膝カックン。それから、水と騙されてレモン汁がたっぷり入った水を飲まされたり、納屋を開けると納屋いっぱいに風船がぎゅうぎゅうに詰め込まれたり(それはそれで大変な作業だったんじゃないかと思いますが)…。いったい、いつまで続くんでしょうか」

 話を聞いた仙人は、

「分かりました」と言うと鯉に乗ったまま、白い兎の家の方へ行きました。

 トントントン。

 仙人は、白い兎の家の扉を叩きました。

「はい。誰ですか?」と、白い兎が出てきました。

「白い兎さん、仙人の宴への招待です。今から行きますか?」

 鯉に乗った仙人を見た白い兎は、びっくり喜びました。

「はい、はい、行きます!」

「では、私の後ろにどうぞ」

 白い兎は、ぴょんと鯉に乗りました。すると、鯉は仙人と白い兎を乗せたまま、ぐんぐん空へと上がっていき、ぴゅーんと山の方へ飛んでいきました。いくつもの山を通り過ぎ、白い山が見えてくると、仙人はその山のてっぺんに降りました。

「ここで宴があるのですか?」

 白い兎は嬉しそうに、ぴょんと鯉から飛び降りると周りを見まわしました。しかし、真っ白い雪が積もっているだけで、周りには何にもありません。

「仙人さま、何もありませんよ。私を騙したのですか?」

「いたずらですよ」といって、鯉に乗った仙人はびゅーんと飛んで行きました。

(きっと、すぐに迎えに来てくれるわ)

 白い兎はそれまで待つことにしました。

 夜になっても朝になっても仙人は来ませんでした。不安になってきた白い兎は、ここから帰る方法ないか、辺りを探索してみました。しかし、道はなくどちらに行ったらいいか分からないくらい真っ白な景色が続くだけでした。

 それから、来る日も来る日も白い兎は待ちました。

 はじめは仙人に怒っていた白い兎も、だんだんと寂しくなってきました。

 それからさらに、来る日も来る日も白い兎は待ちました。

 白い兎は、寂しくて寂しくて、涙が出て来そうになりました。そして、子供のころから、一人になるとこの寂しい気持ちになるのが怖かったことを思い出しました。

(だからつい、いたずらをしてたのね…)

(みんなが喜んでいなかったのは分かっていたけど、止められなかった…)

 キラリ――。

 その時、太陽の光が当たり、雪の隙間に光るところがありました。

 白い兎は、そこに行ってみました。雪をかきわけてみると、それは凍った小さな池でした。

 凍った池を覗いてみると、そこには白い兎と耳の長い兎の家が映っていました。

 白い兎は、とても懐かしい気持ちになりました。耳の長い兎が、家の前で草引きをしていました。

(あれ…?)

 よく見ると、耳の長い兎は、白い兎の家の前で草引きをしていました。そこに、狐が通りかかりました。

「耳の長い兎さん、どうしてお隣さんの草引きをしているんだい?」

「やぁ、狐さん。白い兎さんが帰ってきたときに、家も畑も荒れていたら悲しいじゃないですか」

「もう、一か月も経ちますよ」

「そうですね」といって、耳の長い兎は畑を手入れし続けました。

 白い兎は、ぽろぽろと涙が出てきました。

 それからさらに、来る日も来る日も白い兎は待ちました。来る日も来る日も、凍った池を眺めました。真っ白い雪だけの景色の中で、凍った池に映った景色では、春が来て、夏が来て、秋が来ていました。その間も、耳の長い兎は、白い兎の畑の手入れをしてました。ずっと、ずっと、白い兎はそれを見ていました。

 それからさらに、来る日も来る日も白い兎は待ちました。凍った池に映った景色では、冬が来ました。そして、雪が降っていました。

(冷たい…)

 白い兎は、頬に当たる雪に気がつきました。

(ここでも同じように雪が降ってきた…)

 白い雪景色に、白い雪が降っていました。白い兎は、静かに雪を眺めていました。じっと雪を眺めていると、キラキラと光る雪の綺麗な模様が見えました。

「きれい…」

 白い兎は、思わず声が出ました。

「それは、雪の結晶といいます」

 声の方を振り返ると、そこには鯉に乗った仙人がいました。

「帰りますか?」

 白い兎は、少し考えてから答えました。

「いいえ。帰りません。耳の長い兎さんに、私の家も畑も差し上げることを伝えてもらえますか?」

「分かりました。伝えましょう」

 鯉に乗った仙人は、続けました。

「ここでの修行を終えたあたなは、これから守紋となって、人々を守護する役目もできますが、どうされますか?」

 白い兎は迷わず答えました。

「今まで迷惑をかけることばかりしていたので、これからは役に立つよう生きていきたいです」

「分かりました」

 鯉に乗った仙人が、琴を音を響かせると、降っていた一つの雪の結晶がふわっと大きくなっていき、白い兎を優しく囲みました。

「これからは、雪輪兎(ゆきわうさぎ)守紋(しゅもん)となり、人々を守護するとよいでしょう」

「雪輪兎…」

 そう、つぶやくとくるりと回転して、一枚の真っ白い守紋符(しゅもんふ)となりました。鯉に乗った仙人は、その守紋符を手に取ると、びゅーんと飛んでいきました。

 それから、雪輪兎は何人もの主人を守護していきました。そうして、長い長い時代が過ぎていったある日、コードノヴァという時代に名前のない店にいました。

 カチャリ…。

 扉が開く音が聞こえてきました。

(珍しいわ。あの猫が人を引き入れてくるなんて)

 雪輪兎は、守紋符のままでカウンターの机の上にいました。

「扉を閉めて」

 店主が話しかける方を見ると、少年が一人立っていました。

 それが私、雪輪兎と(ゆう)との出会いでした。


 おわり

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