ライブなライフ
直接触れられるのは苦手。歯医者も美容院も整体もセックスも苦手。直接触れられないのは好き。風もお日様の日差しも花火の音と光も好き。一番好きなのはドラムとベースとギターの音。だからライブが好き。スピーカーからの大音量が下っ腹に響くのがたまらない。クラブでもいいけどやっぱりひとの演奏してる音が気持ちいい。ライブに来た時だけ解放されて元気になる。毎日ライブならいいのに。だけど特別だからきっといいんだ。今だけ、この瞬間だけ、さらされて、連れてかれて、たゆたって、弾け飛んで。溶けて、なくなって。
私は私に固執しすぎるから、手放すのにちょうどいいんだ。頭空っぽにして、ダイブして、モッシュして、サークルくるくる回って、て嘘。隅っこの方でただされるがままになってる。これくらいがいい。特に特別じゃない特別。
今あなたに目の前に座ってもらって、もちろんわたしの心の中でだけだけど、向かい合わせになったあなたに向かって話すように
つらいね、しんどいね、十四の頃から変わらないの、わたしもだよ
はやく大人になりたい、って、もうとっくの昔に大人になってるのにずっと思ってるんだ
早く楽になりたい、色んなことをもうわかって悩んだりつまづいたりしないで、何でもそつなくこなせるように、いつになったらなれるんだろう、恥ずかしくてたまらない
いくつになっても成長とか進歩とか、気づきとか学びとか、つかんだと思えばこぼれ落ちて、乗り越えたと思えば立ち塞がれて、追われてばかりで辿り着けないの
慣れとか惰性とか、諦めも達観もなければ、目覚めも悟りもない
時々現れる生きててよかったと思える瞬間をつなぎ合わせてしにたくない時がないまいにちを生きる
だけど本当に不思議
今、目の前に座っているあなたが生きてることに関しては、わたし嬉しいって思うんだ
世間話は苦手。ニュースもドラマも流行りの歌も天気予報も知らない。難しい話は好き。哲学も心理学もスピもトンデモも好き。一番好きなのは答えのない話。心に触れるほんとうの話が好き。
サウンドチェックのバスドラが子宮に響く。かめはめ波くらったみたいにもうやられてる。みんなはけて、暗転して、ばかでかい音でSEが鳴り響いて。せーのでジャーンて音を鳴らしてライブが始まる。
聴きたいの、頭空っぽにして、話をしよう。眠れない夜に、あなたに目の前に座ってもらって、特に特別じゃない特別な話をするんだ。