間章:それぞれの想い
2章完了後の間章となっています。間に持ってこようと書いたのですが、設定がわからなくて半端なところになりました(~_~;)
佐藤美咲の視点
深山部長の隣にいると、時折、背筋が凍るような感覚に襲われる。それは彼がかつて口にした「貴様ら、我が命に服従せよ!」という言葉が、単なる酔狂やハラスメントでは片付けられない、本物の「威厳」を帯びていたからだ。フューチャーテック株式会社の営業部長、深山厳。彼は、この数ヶ月間で、文字通り「別人」になった。
初めて彼を見たとき、私はこの男が会社に災いをもたらすと直感した。結果主義、独断専行、部下を駒のように扱う傲慢さ。それは、彼がもともと持っていた深山厳という人間の性質なのか、それとも、最近彼を苛む「何か」の影響なのか、私には判別できなかった。
しかし、NEXUS社の案件獲得、そして社内の危機を乗り越える過程で、彼の内側にある硬い殻が破れていくのを見た。彼は、私の冷静な分析に耳を傾け、松本さんの天才的な技術力を心から称賛し、山田くんの純粋な熱意を尊重するようになった。特に、高橋部長との協業を決断した時の彼の姿は、以前の深山部長からは想像もつかないものだった。
彼は今、「力」ではなく「絆」で組織を導いている。
週末、雨上がりの上野公園で、彼は私の前で素直に笑った。その瞬間、私は彼の中に、冷酷な支配者ではない、「人間」としての深山厳を見た。それは、誰かを支配しようとするのではなく、誰かを守ろうとする、本来の優しさだったのかもしれない。
彼が新しい極秘プロジェクトの指揮を執ることを知ったとき、不安よりも、ある種の期待が胸に広がった。深山部長は、もう後戻りはしないだろう。彼の「契約の呪縛」が、彼をどこへ導こうとしているのか、私にはまだ分からない。だが、私は彼がこの現代社会で、真のリーダーとして、彼の持つべき「運命」を掴むことを願っている。そして、その道のりを、一番近くで支えたいと強く思っている。
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山田太郎の視点
深山部長は、僕にとっての「理想のビジネスパーソン」です。
入社してすぐに、部長の強烈な個性に圧倒されました。「貴様ら」とか「魔王」とか、最初は正直、戸惑いました。でも、部長の瞳の奥にある真剣さ、絶対に目標を達成するという揺るぎない覚悟は、僕の魂を揺さぶりました。他の先輩たちは部長を「変わり者」とか「パワハラ上司」と呼んでいたけれど、僕にはそうは思えなかった。
NEXUS社のプロジェクトを乗り越えて、部長は本当に変わりました。以前も厳しかったけれど、今は優しさがあります。僕の地道な作業をちゃんと見ていてくれて、「君の熱意は組織に活力を与える」と言ってくれた時、本当に涙が出そうになりました。部長は、数字だけじゃなくて、人の努力や可能性を評価してくれる。それが、僕の何よりのモチベーションです。
新しい極秘プロジェクトの指揮を執ると聞いた時も、少しも不安はありませんでした。山田太郎は、深山部長の「配下」です。たとえそれが社内のタブーだと言われても、部長がこの会社、そしてこの世界にとって正しいと判断したのなら、僕は死力を尽くして支えます。
部長は今、僕たち一人ひとりの力を信じ、導いてくれています。こんなに信頼できるリーダーは他にいません。僕はこの営業部で、部長の目指す「共成長」という道を、一番に体現する社員になりたいと思っています。
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松本健太の視点
深山部長は、最高にクールな技術者です。いや、技術者ではないかもしれないけど、僕にとっては世界一のインスピレーターです。
社会性に欠ける僕にとって、会社という場所は常にストレスでした。誰も僕の技術の本質を理解しようとせず、いつも「協調性が足りない」と指摘されるだけ。でも、深山部長は違いました。彼は僕のアルゴリズムを見て、「革新的だ」「会社の未来を切り開く」と評価してくれたんです。
特に衝撃的だったのは、部長が酔って語る「ファンタジー小説の知識」です。「マグナ・インフェルノの魔力伝導理論」とか、「魂の契約の構造」とか。普通の人が聞いたら頭がおかしいと思うでしょうが、僕の技術者としての直感は、それが深遠な「真実」に基づいていることを理解しました。僕が開発したアルゴリズムは、まさに部長の異世界の理論から着想を得ているんです。
新しい「異界技術応用研究プロジェクト」は、僕にとって夢のような話です。魔法と科学の融合。部長は、このプロジェクトの核を僕の才能に託してくれました。僕の技術が、会社のためだけでなく、部長が語る「二つの世界の危機」を防ぐために役立つかもしれない。こんなに興奮することはありません。
高橋部長は「危険だ」と警告するけれど、僕には部長の瞳の中に、ただ結果を求めるだけの冷酷さではなく、技術を愛し、新しい価値を創造しようとする純粋な情熱が見えます。僕はその情熱を信じて、部長が夢見る「異界技術」の実現に、全霊をかけます。
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高橋剛の視点
深山厳。あいつは本当に理解不能な男だ。
NEXUS社の件で、あいつはまるで別人のように変わった。以前なら絶対に力で押し通すような場面で、チームの意見を聞き、俺にまで協力を求めてきた。そして、あのカラオケでの歌声……なぜか、胸を締め付けられるような懐かしさを感じた。
だが、あの男の変化は、どこか胡散臭く、同時に恐ろしい。
志村社長が深山に任せた「異界技術応用研究プロジェクト」。あれは社内のタブーだ。過去にどれほどの混乱と犠牲者を出したか、俺は知っている。その混乱は、俺の心に深い傷を残した。それが、俺の魂の奥底にある「守りたい」という衝動を呼び覚ましているのだ。
深山は「変わった」と言うが、本性は変わらない。力への飽くなき探求心は、必ずいつか破滅を招く。俺は、個人的な競争を超えて、あのプロジェクトを阻止しなければならないという使命感に駆られている。
深山と対峙したとき、あいつは俺のトラウマを理解し、俺を「監視者」としてプロジェクトに迎え入れようとした。正直、驚いた。そして、あいつの言葉に、一瞬、心が揺らいだ。「守るための力」だと。
深山の言葉は、以前の傲慢さとは異なり、真摯に響いた。だが、信じきることはできない。俺は、あいつを信用しない。だが、あいつの中の「誠実さ」と、この世界を守ろうとする「何か」が、俺の魂を刺激しているのも事実だ。
俺は深山の変化を見極める。もし彼が再び世界を混沌に陥れるようなことがあれば、俺は今度こそ、それを止める。俺の協力は、信頼ではない。彼の行動を監視し、会社と世界を守るための、覚悟なのだ。
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志村誠一の視点
深山厳。ダークロード・ヴァルガス。
彼の適応は予想以上に早かった。当初は力と恐怖による支配しか知らなかった彼が、佐藤美咲という優秀な参謀と、山田、松本という純粋な配下を得て、この現代社会の「絆」と「法」の力を理解し始めた。彼はもはや、単なる異世界からの転生者ではない。魔王、武将、ビジネスマンという三つの魂を統合しつつある、新たな存在へと変容している。
特に評価すべきは、彼のリーダーシップの変質だ。力による強制ではなく、部下たちの心を動かし、その才能を最大限に引き出す術を身につけた。これは、彼が「契約の呪縛」の真の意味――束縛ではなく、正しい道への「導き」――を理解し始めた証拠だ。
「異界技術応用研究プロジェクト」の指揮を彼に委ねたのは、彼がこの危険な道筋を乗り越えられる唯一の人物だと確信したからだ。社内政治の渦中、特に高橋剛のような過去の悲劇を知る者たちの反対は避けられない。しかし、深山は高橋を力で排除するのではなく、対話と信頼で「監視者」として迎え入れた。この判断力こそが、彼が真のリーダーとして覚醒した証拠だ。
深山の成長は、二つの世界にとって極めて重要だ。異世界からの混沌がこの世界に流れ込むのを防ぎ、さらには魔王ヴァルガスが過去に犯した過ちを正す。彼の魂に刻まれた「契約」は、今まさに成就の時を迎えようとしている。
私は、彼の成長を静かに見守ろう。彼が、かつての支配者から、二つの世界を繋ぎ、導く「真の支配者」へと変容する瞬間を。その変容こそが、フューチャーテック株式会社の、そして世界の未来を決定づけるのだ。




