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『魔王、異世界から出社!〜異世界の支配者が日本で学んだこと〜』  作者: 夏目颯真
第3章: 「魔王のビジネス戦略」

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第2話: 「高橋との協力」

「高橋部長が、まさかここまで固辞するとはな……」


深山厳は、社長室を出て自らのデスクに戻る道すがら、思わずそう呟いた。志村社長から「異界技術応用研究プロジェクト」の指揮を任されたが、その直後、高橋剛がプロジェクトへの強い反対意見を表明したのだ。昨夜の彼の険しい顔、そして「あのプロジェクトは社内のタブーだ」「多くの犠牲者を出した」という言葉が、深山の脳裏にこびりついて離れない。異世界の力による支配を旨としていた魔王ヴァルガスならば、反対意見など一顧だにせず、力で押し潰していただろう。だが、深山は既にそんな単純な思考から脱却しつつあった。社内政治という名の迷宮を切り拓くには、異なる道が必要だと、彼は学んでいた。


「魔王様、高橋部長の反対は予想の範囲内では?」内ポケットから顔を覗かせたシャドウが、冷静な声で尋ねた。


「ああ。しかし、彼の言葉の奥には、単なる保守性以上の『何か』があった」深山は小声で応じた。「まるで、彼自身が過去の惨状を目の当たりにしたかのような……」


シャドウは静かに頷いた。「それは、彼の中に眠る『光の勇者』の記憶が、彼を突き動かしているのかもしれません。彼は過去に、同じようなプロジェクトが引き起こした悲劇を知っているのでしょう」


深山は自席に着き、深く息を吐いた。高橋の反対は、単なる業務上の意見の相違ではない。それは、魂の因縁、そしてこの会社に刻まれた深い傷跡が引き起こす、避けられない軋轢なのだ。しかし、このプロジェクトは、二つの世界の命運を左右する。高橋の反対を乗り越えなければ、成功はない。


(力で押し通すのは、もはや我が道ではない。では、どうすれば……)


深山の脳裏に、佐藤美咲の冷静な分析と、松本健太の純粋な情熱、そして山田太郎のひたむきな忠誠心が浮かんだ。彼らは深山の新しいリーダーシップを信じ、共に歩もうとしている。このプロジェクトを成功させるには、彼らとの「絆」を深めると同時に、高橋のような「反対派」の心をも動かす必要がある。それが、彼独自の「魔王流営業術」の真価が問われる場面だ。


「部長、何かお悩みですか?」


いつの間にか佐藤美咲が隣に立っていた。彼女の瞳は、深山の思考の深さを察しているようだった。


「ああ、佐藤さん」深山は正直に答えた。「高橋部長のことだ。彼が『異界技術応用研究プロジェクト』に強く反対している。過去の混乱と犠牲を理由に、社内でもタブー視されているらしい」


佐藤の表情がわずかに引き締まった。彼女もまた、神崎律子から受け取った資料で、社内の力学と高橋の立場を把握していた。


「彼の懸念は理解できます」佐藤は静かに言った。「過去の悲劇を知る者にとって、そのプロジェクトは、パンドラの箱を開くようなものなのでしょう」


「では、どうすれば彼の協力を得られる?あるいは、少なくとも彼の妨害を防げる?」深山は問いかけた。


佐藤は少し考え込んだ。「彼の反対が個人的な感情だけでなく、会社、ひいては世界を守ろうとする信念から来ているのであれば……力による強制は逆効果です。彼の恐れを理解し、その上で、このプロジェクトが『守るための力』であることを示すしかないでしょう」


「守るための力、か……」深山は佐藤の言葉を反芻した。それは、彼自身の「契約の呪縛」が「束縛」から「導き」へと変化した本質と重なるものだった。


「具体的には、どうすれば?」


「彼にとって、最も信頼できる情報源から、このプロジェクトの真の目的と安全性を説く必要があります。そして、彼自身のトラウマと向き合ってもらう機会を作る…」佐藤はそう提案した。


深山は頷いた。まさに「対話と信頼」に基づく戦略だ。かつての魔王ならば、敵の弱点を突いて操ることを考えただろうが、今の深山は「理解」と「共感」で相手を動かすことを模索していた。


その日の午後、深山は社内の会議で高橋と顔を合わせた。高橋は深山とは目を合わせようとせず、終始険しい表情を崩さなかった。会議の議題はNEXUS社との今後の連携についてだったが、高橋は終始、最低限の発言しかしなかった。その態度から、彼が「異界技術応用研究プロジェクト」への反発を、深山だけでなく周囲にも示していることが見て取れた。


会議後、深山は高橋に声をかけた。


「高橋部長、少し時間をいいか?」


高橋は一瞬ためらったが、やがて頷いた。「……わかった」


二人は、人の少ない給湯室へと移動した。湯気の立つコーヒーを手に、深山は切り出した。


「君が『異界技術応用研究プロジェクト』に反対するのは、過去の経験から来ているのだろう?」


高橋の表情が凍りついた。彼の目が深山を射抜く。「なぜ、そんなことを…」


「志村社長から聞いた」深山は正直に答えた。「過去に、この研究が社内で大きな混乱を引き起こし、多くの犠牲者が出たとな」


高橋は顔を歪ませ、コーヒーカップを握る手が震えた。彼の瞳の奥には、遠い過去の惨劇の記憶が鮮明に蘇っているかのようだった。


「あの時……私は、多くの仲間を失った」高橋は絞り出すような声で言った。「異世界からの『影響』が、制御不能になったんだ。まるで、この世界に亀裂が入ったかのように……」


深山は黙って高橋の言葉に耳を傾けた。彼の胸の「契約の呪縛」の紋様が、微かに温かく脈打っている。それは、高橋の言葉に嘘偽りがないこと、そして、深山自身の中の「武将・深山前」の魂が、過去の戦場で感じた「犠牲」の記憶に共鳴している証だった。


「それが、君を『光の勇者』の魂が突き動かしている理由か」深山は小声で呟いた。


高橋はハッとして深山を見た。彼が自分の前世について言及したことに、驚きと同時に、深い理解を得たかのような表情を見せた。


「……君は、俺のことを知っていたのか」高橋の声が震えた。「あの時の、異世界の干渉…それは、魔王ヴァルガス、君の仕業だったのか!?」


深山の胸に、またも激しい痛みが走った。彼自身の過去の罪が、高橋の記憶と感情に触れたことで、より明確に意識されたのだ。彼はヴァルガスとして、力への飽くなき探求心から、数々の禁忌に触れてきた。それが異世界とこの世界を繋ぐ境界を歪ませ、混沌をもたらしたのかもしれない。


「我は……かつて、そうであったかもしれない」深山は、痛みに耐えながら、正直に答えた。「しかし、今は違う。このプロジェクトは、過去の過ちを繰り返すためではない。二つの世界を、そして多くの命を『守る』ために必要なのだ」


高橋は深山をじっと見つめた。その瞳は、深山の言葉の真偽を測るかのように揺れている。


「なぜ、君を信じられる?」高橋は問うた。「君は、かつて世界を支配しようとした魔王ではないのか?」


「私は、変わりつつある」深山は、高橋の目を見据えて言った。彼の声には、魔王としての揺るぎない覚悟と、現代のビジネスマンとしての責任感、そして武将・深山前としての「守る」という信念が融合していた。「力による支配ではなく、対話と協力、そして信頼が真の強さであることを、この世界で学んだ」


深山は、NEXUS社のプロジェクトで、高橋自身も協力者として貢献したことを持ち出した。


「NEXUS社での協業を思い出してほしい。私たちは、互いの強みを活かし、共に危機を乗り越えた。あの時、君は『協力することで、より大きなものが生まれる』と言ったではないか」


高橋の表情に、葛藤の色が浮かんだ。彼の内なる「光の勇者」の魂が、深山の言葉に共鳴しているようだった。


「だが、このプロジェクトは危険すぎる。万が一失敗すれば、あの時と同じように……」


「だからこそ、君の力が必要なのだ、高橋部長」深山は一歩踏み込んだ。「君は過去の悲劇を知っている。その知識と経験が、このプロジェクトを正しい道へと導く羅針盤となる」


深山は続けた。「私はこの世界のルールを全て知っているわけではない。異世界の知識を持つのは松本だけだが、彼は技術に特化している。社内政治の機微、そして過去の経緯を最も深く理解しているのは君だ。君の警告は、私たちにとって不可欠だ。君は、危険を警告する『監視者』として、プロジェクトに関わってほしい」


高橋は深山の提案に驚きを隠せなかった。深山が、自分を「監視者」としてプロジェクトに迎え入れようとしているのだ。それは、単なる協力を超えた、「信頼」の表明だった。


「私は、君を信頼している」深山は、心からの言葉を伝えた。彼の胸の紋様が、再び温かく脈打った。


高橋は深山をじっと見つめた。かつての宿敵から投げかけられた「信頼」の言葉。それは、彼の「光の勇者」としての魂、そして現代のビジネスマンとしての良心に、深く響いた。


「……わかった」高橋は、深く息を吐き出すように言った。「全面的に協力はできない。だが、君のプロジェクトに『監視者』として関わらせてもらう。そして、危険な兆候があれば、容赦なく進言する。それでもいいか?」


「ああ」深山は頷いた。「それが、君に求めることだ」


二人の間に、新たな「契約」が結ばれた瞬間だった。それは、紙切れの契約書でも、力による強制でもない、互いの魂が交わした、真の「信頼」に基づく契約だった。


高橋は、どこか吹っ切れたような表情で給湯室を出て行った。彼の背中には、以前のような寂しさではなく、新たな使命を帯びたかのような、静かな決意が漂っているように見えた。


深山は給湯室に一人残り、残りのコーヒーを飲み干した。苦いコーヒーの味が、なぜか今日は心地よかった。


「魔王様、見事でした」シャドウが内ポケットから顔を出した。「高橋の心を開きましたね」


「簡単なことではなかった」深山は小声で返した。「だが、これも『魔王流営業術』の一環だろう」


シャドウは小さく笑った。「まさに。力による支配から、心による導きへ……魔王様は、真のリーダーへの道を歩んでいます」


深山は窓の外を見つめた。夕暮れの空が、オフィス街のビル群を赤く染めている。高橋との「協力」は、彼の「異界技術応用研究プロジェクト」における大きな一歩となった。しかし、社内にはまだ多くの「壁」が存在するだろう。だが、深山はもう一人ではない。彼には、信頼できる仲間たちがいる。そして、かつての宿敵が、今は新たな「監視者」として、共に道を歩み始めたのだ。


彼の胸の左側にある「契約の呪縛」は、もはや痛みを発することはなかった。それは今、彼が正しい道を歩み始めていることを示す、温かい「導き」となっていた。異世界の思考と現代の思考が融合し、深山厳は真のリーダーとして、社内政治という名の迷宮を、そして二つの世界の危機に立ち向かう覚悟を新たにした。


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