よわい
実際にはそんなに大きくないのだろうけれど。
どうしたって、筋肉も骨も体形も線の細い自分よりもすべてがすべて二倍も三倍も大きく見える。
肉体だけじゃない。
生き方も、魂も、心も。
褒められたものではないのかもしれないけれど。
大きくて、強くて、しなやかで、揺らがなくて、恐い人。
完璧な人間というのは色々あるだろうけれど、この恐い人も絶対に完璧な人間だ。
なのに、
ぐらついて見える時がある、なんて。
危うくて、支えなくてはいけないって。どうしてか。思ってしまう時がある、なんて。
「もしかして、君が天使と巨人と悪魔を完全に肉体に下ろす事ができるまで、律希ともどもお世話になりたいですっていう情けない、もとい、現実的な懇願だったのかな?」
オークション会場の三階席、主催者のみが出入りする事ができる個室にて。
木の実はシックな革張りのソファに座り、膝に卯のゑを乗せたまま、未だ頭を下げ続ける暖を真正面から見た。
「まあ。私たちが律希の援助を断ち切れば、安心して修行して眠って食べて談話する場所がなくなる事は確かだね。君は大学に行く事もお父様に会う事も叶わなくなる。ずっとずっとずっと。君たちは狙われ続ける。君が天使と巨人と悪魔を完全に肉体に下ろす事ができるのが先か。はたまた、囚われの身になって、君たちには考えも及ばないような残虐無比な事をされてしまうのが先か。律希はその限りではないだろうけれど。君は後悔するだろうね。私たちの援助を断ち切らなければよかったって。君はどうしたって、弱いから。私たちと違って」
「はい。全くその通りです。僕は弱い。人類史上最弱だって。胸を張って言えるくらいに、弱いです。律希さんが守ってくれているから、僕はここで生きていられている。そして、律希さんを守っているのは、木の実さんと卯のゑさんです。僕では、律希さんを守る事はできない」
「うん。そうだね。君だけだったら、どうしたって律希を守る事はできない。でも、幸か不幸か。君は君だけじゃない。ほんの少しだろうが、君は天使と巨人と悪魔の力を借りる事ができる。ふふ。全く本当に。選ばれた人間ではないなどと。どの口が言えたものかな?」
思わず柄を掴んでいた暖。
重圧に変化はない、殺気もない、身体を動かしたわけでもない。
にも拘らず、木の実の何かが変化しては、暖は命の危機を察し、頭を下げたまま柄を掴んでしまったのである。
「ふふ。君はほんとうに、」
よわいなあ。
(2025.1.1)