4 仮説③ 俺(私)のすべてを受け入れて!
仮説①と②から派生して考えたのが、仮説③……になるかもしれません。
ハーレムもしくは逆ハー的設定のエンタメは、昔からあると思います。
古典から引っ張ってくるなら、『源氏物語』なんかモロにそうでしょう。
スーパーイケメンの(薄幸の)王子様が、ありとあらゆる女性を口説き、あるいは口説かれ、愛し愛される。
ハーレムですね。
ハーレムだヤッホーイ♥が主眼のお話ではありませんが(笑)。
私が人生で一番少女漫画を読んでいた時代にも、今なら『逆ハー』とされる設定のお話があります。
私の記憶にある中で一番わかりやすいのは、樹なつみ先生の『花咲ける青少年』かなと。
実はとある王国の王族の血を引いている、大財閥の御令嬢ながら野生の獣のように強くしなやかで真っ直ぐな(だからこそ、人間社会ではちと危なっかしい)美少女のヒロイン・花鹿。
彼女は財閥の総帥(かつ、とある王家の王のご落胤)である父から、それぞれに見所や実力、社会的地位のある青年たちと出会い、彼らの中から自分を愛し、生涯守ってくれる夫を見出せと『夫探しゲーム』を提案される。
そして、偶然に近いように演出された中で出会う『夫候補』の青年すべてを魅了する彼女……。
うん、逆ハーですね♥
彼女がお約束のように男女間の恋愛の機微に疎く、純粋で真っ直ぐであるが故に、彼女に対し好意を持つ青少年たちの心を乱してしまうところも、ま・さ・に、お約束(笑)。
ただ。
現代のラノベやそこから派生したエンタメ作品と、古典を含めた過去のお話で微妙に違うと私が感じるのは。
最終的に主人公が、唯一を選ぶか選ばないか。
という部分ではないかと思います。
えーと。
『源氏物語』はわかり難いかもしれませんが。
ヒーロー光源氏が生涯引きずっていたのは、初恋の女性である藤壺。
そして、彼女の遠縁だということで幼い頃から目をつけ、理想の女性として育て上げた(と源氏は思っている。現在の感覚ではキモイ)紫の上。
源氏にとって別格なこの二人。特に現実的な意味での最愛は紫の上で、他の数多の女人とは違います。
『花咲ける青少年』のヒロイン・花鹿も、出会った青年たちを全員大切に思い、彼らの危機にはひと肌もふた肌も脱いで頑張りますが、夫として選ぶのは当然ひとり。
それも『夫探しゲーム』のオブザーバーとされていた、幼馴染にして華僑の若き財閥総帥・倣 立人。
恋人にして夫であるのは彼だけだと気付いた花鹿は、他の青年たちは大切な友人以上ではない(多分、元からそうだったのでしょう)と理解し、青年たちもそれぞれ、花鹿の判断を受け入れ身を引きます。
こういうハーレムもしくは逆ハーは、仮に途中で主人公の行動にイラッとしたとしても、私はカタルシスを感じ、気持ちよく読了出来ます。
しかし……全部が全部ではないでしょうが。
昨今の傾向として、『あえて、誰かひとりを選ばない』があるのではないかなと思います。
ひとつは発表される媒体の違いも影響しているかもしれません。
それぞれに魅力的なハーレム(逆ハー)構成員?たちは当然、それぞれが素晴らしく魅力的ですから。
各読者の間で、それぞれ好みのキャラにファンがつくでしょう。
仮に、作中で主人公がAさんを唯一の伴侶として選んだりすると、BさんCさんDさん…(以下省略)、のガチ勢のファンが黙っていない、可能性があります。
『なんで伴侶はAなんだ!』
『Bさん(Cさん、Dさん…以下略)が可哀相だ!』
『もうお前の作品、絶対読まないからな!』
……ってな感じに、小説サイトのコメント欄やSNSが荒れまくる、かもしれません。
なろうさんでも、異世界恋愛の作品で感想欄が炎上している現場、私も少しですが見たことがあります。
怖いですよね、アレ。
私みたいな図太いおばちゃんでも、自作の感想欄があんなに荒れたら憂鬱だろうなと思うくらいですから、もっと若い方ならなおのこと。
それを避けるため『あえて唯一を選ばない』は、営業政策上とても有効でしょう。
でもそれだけじゃなく。
『みんなみんな大好き、だから自分は平等にみんなを愛する』
と主人公が(ぼんやり)心で決めているというような、一時期巷でよく言われていた
『最近の幼稚園の運動会は、スタート時からみんなでお手々つないで、仲良くみんなでゴール!』
的な、年寄りの感覚では都市伝説じみた流れになっている……ような気が。
主人公自身はっきり言挙げしないものの、永遠に現状維持のまま、みんなで楽しくワイワイと、あるいは、みんなでうっふんイチャイチャとする流れでラストまで行くパターンが多数あるように思います。
(違っていたらスミマセン、そんなにたくさんのハーレムもしくは逆ハーもののお話を読んでいませんから、偏見の可能性もあります)
ここが……古い人間のひとりである私はキモチワルイといいますか、すっきりしないといいますか。
違和感、そう、違和感があるんです、モチロンそういう作品があっていいと認めた上で。