3 仮説② 逆にメチャクチャ疲れているのかもしれない
話は少し変わりますが。
そこそこ人気の概念に『姉妹格差』『ドアマットヒロイン』とか、ありますよね。
とあるやんごとなき貴顕のお家に、娘が二人。
でも、毒親な両親は何故か姉(もしくは妹)だけをかわいがり、もう一人の娘である妹(もしくは姉)を虐げる。
世間体もあるから衣食住や教育は最低限与えても、家族の輪からは締め出して無視するネグレクト的パターンから、食事も満足にもらえないで小間使いのようにこき使われ、屋根裏部屋とか家畜小屋のようなところに押し込まれて命も危ぶまれる状況というパターンまで、色々あります。
何故姉妹間でここまで差があるのか、そこはまあお話によって色々ですが。
たとえば、実は姉は先妻(お花畑な恋愛脳の父親の、政略結婚の相手だった気の毒な女性)の子だとか、事情があって引き取った他人の子だとか。
それ以外でよくあるのが、姉妹の母親にとって口うるさい姑だった亡き義母に似ている生真面目な方の娘は疎ましく、自分と似ているちょっと頭の軽い愛嬌だけで生きてる方の娘は理屈抜きで可愛い、とか(この場合、父親は家庭のことに無関心)。
なんにせよ、当の娘にとっては理不尽以外の何物でもない理由で、すんごい格差がある設定のお話群です。
この手のお話はシンデレラと同じく、虐げられている心優しく美しいヒロインをひたすら愛する(ヤンデレ)スパダリヒーローの手により、もしくはそのヒーローと賢いヒロインが手を携えて苦境を乗り切り、薄情な家族と縁を切って幸せになる、という流れになります。
正直な話、私はこちらのタイプのお話の方が共感しやすいですね。
自分を真っ直ぐ見つめ、気に掛け愛してくれる人がひとりいれば十分。
五人も十人も必要ないです(笑)。
まあ、この手の話の場合、なんでまたこんなに都合よく、薄幸のヒロインを見出して一途に愛するイケメンのスパダリが現れるんだよ、とか思ってしまって白けたりもしますが(笑 だからこれはロマンティックなお話なの!)、そこはまあいいとします。
(私の好みは、たとえば。イマイチさえないというかフツメンの執事の息子が、お屋敷の可哀相なお嬢さんに同情から始まった恋を育み、必死で自分を磨いて切れ者の執事となり、お嬢さんの家よりもっと身分の高い家のお屋敷で勤めて実績を出し、苦しんでいるお嬢さんをさっそうと迎えに行く……、とか? 顔はフツメンでも中身は超イケメンだぜって感じの。……うーん。でも、これもなんだかイマイチかも?)
話がズレました。
これは姉妹格差やドアマットヒロインの考察ではなく、ハーレム(逆ハー)考察でした(笑)。
しかしですね、こういうお話がウケているということは。
こういう不満を(薄っすらもしくは濃く)抱いてモヤモヤしている人が、潜在的にかなりいる、ということでしょう。
自分は家族(あるいは属するコミュニティ)に、正しく受け入れてもらえていない、もっと言うと不当に虐げられているというモヤモヤです。
この場合、そう思っている人は家族(コミュニティ)内の人に対し、すごく気を遣って顔色をうかがい、心身をすり減らしている可能性が高いです。
家族(コミュニティ)に気に入られていない子は、気に入られるため涙ぐましい努力をするものですからね。
自分を真っ直ぐ見つめ、気に掛け愛してくれる人がひとりいればいい。
そう思う人もいるでしょうが、家族(コミュニティ)のみんなから大切にされなかった、という思いを深く抱えている場合。
物心ついて以来、愛されるために必死で努力してきた、という慟哭を抱えている場合。
たくさんの人から、無条件で愛されたい!
という願い、執念を通り越してほとんど祈りに近い願いを抱えるかもしれないと、私は不意に思ったのですよ。
無償の、無条件の愛。
赤子や幼児が、もらえてしかるべき愛。
最低限の世話はしてもらった、でも真っ直ぐ慈しんでもらったとまではいえない。
その欠落感が、山のような数の異性から無条件に愛されるという幻想に、萌えを見出すのかもしれない……と。