幻の宇宙船
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その未知の宇宙船が地球からの観測可能領域で存在を確認されたとき、速度は秒速10キロと記録された。宇宙船からは、規則的な電波信号が発信され、地球側もそれに応えて発信をしたのだが、それには返答はなかった。
やがて、宇宙船は太陽系に近接してくると、はっきりとした意志があるかのように、減速し、地球から三十万キロの距離に迫ってきた。
地球統合政府は、二名の飛行士を載せた宇宙挺を打ち上げ、宇宙船との接触を試みた。
「接触想定時間、60秒前」
コクピットに並んで座る飛行士の一人が言った。操縦席のモニターには、空間にかすみのように漂う何かが映っていた。
「画像がはっきりしないな」
もうひとりの飛行士が言った。
画像が捉えた未知の宇宙船とおぼしき物体は、細長い葉巻形で、宇宙挺の照らす光にも全体像が不鮮明だった。そのうちに、物体はゆらゆらとかたちを崩し、漆黒の宇宙空間の中に溶融してしまった。
しかし、宇宙挺のコクピットの計測器は、そこになにかが存在する兆候を示していた。
「……これは、ダークマター、暗黒物質だ。」
飛行士の一人が言った。
計算上、質量は存在するはずなのに、目では見えない物質に宇宙は占められている。そのダークマターは宇宙の広い範囲に拡散していることは、科学上の定説になっている。
「驚いたな。暗黒物質に影響された現象だ」
飛行士が言うと、
「どういうことだ?」
と、もうひとりが訊いた。
「ダークマターは、宇宙のなかで星や銀河の運動に影響を与えている。ダークマターの占める空間にも惑星があり、知性体が存在しているということだ」
そこで飛行士は言葉を区切り、
「つまり、あの宇宙船はその知性体の存在を証明するものだ」
「……ダークマターの住人か……」
やがて地球各地の天文台が、突如宇宙空間に出現した惑星を捉えた。記録画像のなかで、その惑星はゆらゆらと不鮮明な実態を現していた……。
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