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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・序章
7/38

六   数学教師、セロ=ナーク






「おい、おきろって!じゃなきゃ、あの怖い先生たちに罰下されるって!」


 そう言いながら、誰かがハロンドの肩を揺すっていた。けれどハロンドは起きない。


「おい、聞いてんのか!?」


「んぁ……。おはよう……?誰?」


 ハロンドはあくびをしながら起きる。辺りを見渡すと、十数個、自分の寝ていた布団と同じものが敷かれていた。恐らくさっきまで寝ていたのだろう、全ての毛布がぐちゃぐちゃになっていた。

 ここは和室のようだった。


「俺の名前はローファ=ナンスム。ロファとでも呼んでくれ。父親と田んぼ耕して暮らしてた。おはようだぜ」


「おはよう、僕はハロンド。実家は山奥の小屋さ」


 ロファは僕の過去について興味を持った様子で聞いてきた。


「そうなのか!?どうしてど田舎中のど田舎みたいな場所に住んでたんだよ?」


「どうやら、森に捨てられた捨て子だったらしくてね。ついでに記憶喪失になってたんだ。十歳くらいの頃なんだけど」


「マジかよ!?」


 ロファは驚いた。


「じゃあ誰に育てられたんだ?」


「森の小屋に住んでた、魔女みたいな見た目のばあさんだ。ものすごく強かったぞ」


「何だよそれ、おもしれえ!」


 ロファは目を輝かせた。

 ロファがさらに質問しようとしたところで、違う男子が割り込んだ。


「おい、そこまでにしてくれるか?」


「何でだよ?」


「時間が迫ってる」


 ロファは壁の時計を見て、焦ったように言った。


「マジか。ハロンド、急げ!」


 そう言うと、ロファは慌てて三枚の紙を突き出してきた。


「これは?」


「俺たちが起きると壁に貼り付けてあった」


 そのうちの一枚には、僕らのこれからについての決まりが書かれていた。



【デッドエルブ校の規則


1,当校の教師の言葉は絶対。首を横に振ることは何よりの重罪と知れ。

2,当校の教師とお前ら生徒は基本的に対立関係にある。教師は隙を見て生徒を規制の範疇で殺すだろう。

3,但し、教師と生徒の間には規制がある。

 ①教師は生徒を理由もなしに無闇やたらに殺害してはならず、校長の意向の範囲内でのみ生徒を弄ぶことを許される。

 ②もし生徒が教師を殺そうとした場合、教師には該当する生徒を殺害する権利が与えられる。

4,一日のスケジュールはスケジュール表を見ろ。また、部屋の場所は設計図を見ろ。

5,四か月を一学期とし、一学期ごとに当校の教師を一名、殺害してもらう。

6,一学期ごとに三回までしか押せないボタンが一年一組部屋内にある。そのボタンを押しながら殺害したい教師の名を言うと、それから三時間の間、該当教師が殺害可能になる。但しその間、該当教師も戦闘に加わっている人間を殺害可能になる。

7,戦闘に加われる生徒は一度に三十人までとする。ちなみに、全クラス合わせて初期で百人在籍している。

8,ボタンを押す前に、参戦する人間を決めておけ。戦闘を行う戦場へと転移するだろう。

9,クラスごとに違う場所を使っている為、会うことはできない。但し、週に一度日曜に開催される『学年会議』では、20時〜21時までの一時間、各クラスの代表三人ずつの計12人で話し合える。

10,学年会議の出席者は開催される毎週日曜日の20時までに決めておくこと。又、出席者は配布されるボタンを押すこと。出席者は会場に転移するだろう。このボタンは教師を殺害可能にするボタンとは別である。


以上が主な規則である。その他、常識的な行動を求める。あまりに目に余る場合は、厳重に処罰する】



 と書かれていた。


「正気かよ……!ちなみに僕たちは何クラスだ?」


「俺らは一組だ。ボタンも確認した。それより、今は第四項を見ろ」


「ん?ああ」


 ハロンドはスケジュール表と設計図を見た。そして時計も見る。

 今は七時半。教室には八時にいなければいけない。それまでにハロンドは朝食、着替えなど朝の用意を諸々終わらせなければいけない。

 ……なかなか不味くないか?

 ハロンドは貸し与えられた個室に走り、置かれていた服に着替え、共用洗面所で顔を洗って歯磨きをして、食堂で朝食をかきこんだ。

 その途中で、ハロンドは規則について思い返していた。

 要するに、①教師に逆らうな、②ルールを守った上で教師が殺しに来るぞ、③一学期毎に教師を殺せ、ということだろう。

 つまりこれはデスゲームだ。自分たちを遥かに凌駕する力を持つ教師たちを、短期間でどれだけ成長して教師に追いつくか。しかも、成長が遅いと殺されるのだ。


「……ごちそうさま」


 気が重かった。自分の周囲で何人死んでしまうのか。はたまた自分が死んでしまうのか。


「食い終わったか。早く行こうぜ、まだ時間に余裕はある」


 ロファが誘ってきた。

 教室に向かう途中で、ロファが興味津々な様子で聞いてきた。


「昨日さ、お前すごかったじゃん!ガンムとかいう奴と斬り合ってさ!」


「すごいって……。あれくらい普通だろ?」


 謙遜ではない。この学校に呼ばれているのは強者しかいないのだろうし。


「普通?何言ってるんだ?」


 ロファは目を丸くしていた。


「え?」


「俺なんか、真剣さえ持ったことないんだぞ?俺にとっちゃ、お前は憧れだな。ま、学校側から支給された剣があるから、憧れが叶ったとも言えるがな」


「……どういうことだ?」


「ん?」


 デッドエルブは最強を育成するための学校だ。

 そんな学校にロファのような素人が呼ばれている理由が見当もつかなかった。


「着いたみたいだぜ」


 そこには、とても広々とした教室が広がっていた。


「広い、な」


 そこには、とても広い教室があった。

 

「何に使うんだろうな?奥の空間」


 いや、広いのは()()ではない。最後尾の机の後ろに、サッカーグラウンドくらいの空間があるのだ。

 一体何に使うのか。


「多分席は自由席だ。座ってようぜ」


 ハロンドとロファは適当に座った。


「へえ、筆記具は準備されてるんだ」


 机上にある紙と鉛筆、消しゴムを見てハロンドは呟いた。

 偶然隣になった少女が話しかけてきた。


「おはよう。私はタラ=サランっていうの。あなたは?」


「俺はローファ=ナンスムだ」


「僕はハロンドだよ。よろしく」


「よろしく!」


 赤い髪が特徴のかわいい女の子だった。


「ねえ、規則見た?」


「見たぜ」


「なんか、すっごくヤバくない?」


「やばいなんてもんじゃねーだろ、あれは」


「弄ばれるとかどういう意味か怖いわ。ほら私、女だしさ」


 確かに、教師に男は多そうだ。


「あー。まあ、タラなら大丈夫じゃね?」


 ロファはタラの胸を見ながら言った。


「ちょっと!少し控えめかもしれないけどさ、失礼すぎない!?」


 タラは憤慨した。それがおかしくて、ハロンドとロファは笑った。タラは「もう……」と頬を膨らませた。


「学年会議ってなんだろうな。ちょっとよく分からねえや」


 ロファが首をひねった。


「一週間に一回の、代表による交流会って感じじゃない?」


「そうなのか?」


「推測だけどね。一回出席してみるしかないかもね」


「そうだな」


 ロファは頷いた。


「ていうか教師殺せって言ってなかった、あの教師。無理ゲーすぎない?殺すなんて気が重いのなんの」


 タラが暗い顔で言った。


「あー、分かるわ。気が重い以前に不可能すぎて絶望感がはんぱない」


「なんとかなるんじゃねーの?同じ学年に一人くらい強いやついるだろ」


「ロファ、それは楽観的すぎると思うよ」


 ハロンドはつっこんだ。それから、深刻な顔つきに変えて言った。


「でも、もっとヤバい項目があるんだ」


 ロファとタラは他にヤバいことなんてあったかと首を傾げる。

 一番ヤバいのはそこじゃない。


「そうなのか?」


「ああ。第3項の①だ。教師は生徒を『無闇に』殺してはならない、とあった。けれど、裏を返せば教師はーーー」


「ーーー『無闇に』でなければ、生徒を殺せる」


 ロファが引き継いだ。ロファとタラは顔面蒼白になっていた。


「嘘ーーー」


「嘘じゃないと思う」


 ハロンドも、難しい顔をしていた。


「それって相当不味くない?」


「その通りだな。不味すぎる。とにかく、教師を怒らせないようにしないと」

 

 少しの間、沈黙があった。考えても無駄だと思ったのか、重い空気を取り払うように明るい口調でタラが言った。


「ハロンド、昨日は強かったよね。あとごめんね?私もあの時ちょっとだけ騒いじゃったんだ。半分パニックになってたのかも」


「あの状況だったら仕方ないさ」


 その時だった。


「……チッ」


 何処からか、舌打ちの声が聞こえた。誰がしたのか気になり、辺りを見渡すと、特に二人の男子が目立っていた。一人はオッドアイの大人しそうな少年、もう一人はーーーガンム。

 ガンムは僕と机二つ離れていて、苛ただしげな表情をしていた。犯人は恐らくガンムだろう。


「僕、ガンムに嫌われちゃったかな」


 ハロンドは心配そうに呟いた。


「そうなんじゃねえの?逆に昨日の今日で仲良くなってたらびっくりだわ」


「確かになあ。あれは呪われても文句は言えない。申し訳なさすぎる。ん?何してるんだ?」


 ガンムの周りに、男女十数人が集まっていた。


「……昨日は本当にごめんなさい」

「完全にパニックになってた」

「状況が掴めなくて、大声で質問しまくっちゃった。ごめんなさい」


 どうやら、昨日、冗談にならないくらい重い処分を受けたガンムに謝罪しているらしい。


「……僕たちも行こう」


 ハロンドが見渡すと、行っていない生徒は自分たちの他に、オッドアイの少年と、目つきの悪い少女だけだった。

 特にオッドアイの少年が目を引いた。

 派手な緑の髪に、緑と黄色のオッドアイ。とんでもなく目立っているが、その少年の纏う陰キャの雰囲気に誰も寄ってこない。あの見た目の派手さで誰も寄りつかないのはある意味すごかった。


「そうだな。流石に悪いことをした」


 ハロンドが立ち上がろうとした時だった。


「黙れェ!!」


 ガンムが叫んだ。その声に誰もがびくっと静止する。


「なあ、お前。想像したことがあるか?」


 ガンムは怒りに震える声で近くの男子にそう言った。


「え、あ、いや……」


「両手足を斬られた痛みはよォ、謝られたことで帳消しになるようなものじゃねェんだよ。あの痛みは一生忘れねェ。俺はお前らを一生恨むぜェ。今ここで、晴らさせてもらいたいほどにーーー!」


 ガンムは剣を抜こうとしたのか柄に手を当てた。

 まずい、と思った瞬間に、ガラガラ、と誰かが入ってきた。


「座りなさい。二分前着席も知らないのか?」


 男子や女子が入ってきた扉とは違う、教師用の第三の扉からだった。

 そして、威厳に満ち溢れたその声は、全生徒を硬直させるのに充分だった。

 ガンムの周りの人間は、硬直が解けた人間から急いで自分の席に戻った。


「分かってると思うが、これから数学の授業を始める。そこのお前、号令かけろ」


 その教師は筋肉隆々だった。見るからに戦闘派で、勉強ができるような雰囲気は微塵もない。そして、頭に毛は一切なかった。

 何よりも特筆すべきなのが、震えるような威厳。生徒は、ネズミが天敵の猫を目の前にした時のような心情を覚え、内心震えていた。


「き、起立!き、気を、つけ!これから、数学の授業を始めます!礼!着席!」


 指名された生徒は怯えながらも言った。


「よし。まずは自己紹介だな。俺はセロ=ナークという。数学教師だ」


 セロは淡々と自己紹介を終わらせた。


「では授業を始める」


 生徒は身構えた。


「これは数学だ、危険なことはしないので身構えなくていい。今回の課題はこれだ」


 セロは黒板に数式を書き始めた。

 ……長い。

 ようやく書き終わると、セロは言った。


「これを45分以内に解きなさい。解けなければ、その後の時間に災難が降って来るかもしれないな」


 

 その数式には二桁以内の数と、足し算と引き算しか含まれていない、簡単なものだった。ただ、それがものすごく長いだけ。


「……なんか、小学生の作った問題みたいだな」


「おい、そんなこと言ってセロを怒らせたらどうすんだよ!」


 ハロンドとロファがこそこそと囁き合った。


「相談はありだ。始め!」


 ハロンドたちは解き始めた。

 ハロンドは開始5分ほどで終わった。

 (長かったな……)


「はっや」


 ロファは驚いた。

 そこからまた五分後、ロファも顔を上げた。


「俺もできたぜ。確認しよう」


「617だよな?」


「ああ。にしても長すぎだよな」


「分かる」


「私もできたよ!」


 開始20分も過ぎれば、ほとんどの生徒が終わっていた。


「43556745ぉ?」


「あ、全部足し算か!掛け算頑張ったのに!」


 タラは急いで直し始めた。どうやら足し算全てを掛け算で計算してしまったようだ。


「おいおい、初歩だろ」


「掛け算も何個も間違えてるぞ」


「しょうがないじゃん!これ習ったの何年も前だし」


 この国は財政に余裕がなく、学校は六歳の頃の一年間で修了となる。そもそも勉学に励んでも利点がないため、国も普及には消極的だ。簡単な足し算、引き算さえできれば生きていけるから。

 タラは急いで書き直した。

 タラが解き終わると同時に、セロが指示した。


「できてないのは後何人だ?二人か。一番速かったお前、そこの目つきの悪い女に教えてやれ。もう一人はーーー」


 ハロンドが目つきの悪い女に教えることになった。どうやらクラスの中でも一番速かったようだ。


「お。一番だったのか、すごいじゃん。くれぐれも、セロを怒らせるようなことはしないようにな」


「当たり前だよ」


 怒らせる馬鹿がどこにいるのか。

 ハロンドは教えに行った。


「大丈夫そうか?」


 ハロンドはまず声をかけてみた。

 すると、酷い暴言が返ってきた。


「うっせえ黙って窒息死しろ。それかアタシに真っ二つに斬られろ」


 そう言って彼女はキッと睨んできた。

 心がずきっと痛んだ。

 それでも任務は完遂しようともう一度言った。


「あー。いや、セロ教師に教えろって言われてね。教師を怒らせたくはないでしょ?」


「……ちっ。後で首絞めさせろ」


 暴言がすごかった。

 ついでに目つきが殺人者のそれだ。背筋に寒気が走った。


「それは無理だけど。順番に解いていこう」


 けれど、教師に比べればマシなものだった。



「は?36+56はどう考えても82だろーが。脳ミソ爆死してんのかよ」


「いやいや繰り上げしよう?6+6は12だから、十の位は3+5+1で……」


「……………ちっ。後で覚えとけよ?」


 何を?

 もう教え始めて20分くらいが経つが、半分も終わっていなかった。始めは足し算を知らなかったのだから、頑張った方だとハロンドは思った。


「くっそなんでこんなにむずいんだよ。お前答えだけ見せて心不全起こせ」


「時間なくなったらそれもありだけど。限界まで頑張ろう?次の授業のためにもさ」


「ちっ」



 残り時間も僅かとなった頃、彼女はしびれを切らして脅してきた。


「あと一分切ったぞ。さっさと答え見せるか腕切り落とされるか選べ」


 今度は片手が柄を握っている。本当(マジ)なように見える。


「見せる方に決まってる。しょうがない、617だ」


「けっ、指で勘弁してやるよ」


「そりゃ、どう……も?」


 視線がハロンドの指にいったのが怖くなり、仕事を終えたハロンドはさささとロファの方へ後ずさった。


「どうだった?あの子、よく見ればけっこうかわいいじゃん」


 ロファがにやにやしながら聞いてきた。


「いいわけないだろ。なにかとかこつけて殺そうとしてくるわ、足し算さえ知らないわ……。精神的にきつかった」


 特に暴言が。

 タラは意外そうに呟いた。


「え、そうなの。悪い人には見えないんだけどなあ」


 ハロンドも何故かそうかもしれないと思った。






 


 

 授業内容について、書いておきますね。

 一日目午前に数学、午後に剣技科。

 二日目午前に考略科、午後に剣技科。

 三日目午前に歴史科、午後に剣技科。

 四日目午前に保健、午後に剣技科。

 五日目午前に特別授業、午後に剣技科。

 六日目午前に剣技科、午後に自主鍛錬


 というスケジュールになっています。

 六日で一週間、五週間で一ヶ月、十二ヶ月で一年、四ヶ月で一学期ですね。

 少し現実と違うのでご留意ください

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