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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
35/38

十五   三つ巴の戦い

「おはよう」


 ハロンドはロファと一緒に食堂に来て、言った。


「「おはよう」ございます」


 当然のように返される挨拶。毎日殺し合っていると、なんだか感慨深くなって、この光景を守らなければならないと思う時がある。


「昨日はどうだった?」


 タラが尋ねてきた。


「学年会議のことか?まあ、どのクラスも苦労してるみたいだった。うちのクラスも、イサーシャの席が乗っ取られるというアクシデントががあってな……」


「はぁっ!?」


 ロファが驚きの声を上げる。タラは同じ女子寮だったから知っていたのかもしれない、驚いた様子はみせなかった。


「その節は、本当に申し訳ありませんでした……」


 イサーシャが項垂れて言った。


「迂闊にも、スイッチを盗られてしまいました……。面目も立ちません」


「まあ、しょうがないよ。ファーも元間者だったみたいだし」


「「「間者!?」」」


「うん」


 三人とも、間者というところでひどく驚いていた。

 間者というのは、この世界において、現代の外国人から見た忍者のような存在なのである。


「ですが、スイッチを盗られたことに変わりはなく……」


 なおも自分を責めようとするイサーシャに、ロファとタラが口を挟んだ。


「いやいや、破剣も使える間者が相手なんだから、しょうがねえって」


「そうそう。それにしても、ムカつくよね!好き勝手してくれちゃってさ!」


 仕上げというべきか、ハロンドが最後にまとめて言った。


「だってさ。そんなに気にすることはないんだよ。だってほら、僕たちは友達だろう?」


「ありがとう、ございます」


 イサーシャは庇ってくれた仲間に礼を言った。小さく顔を下げたので表情は見えなかったが、安心しているように聞こえた。

 イサーシャの謝罪が済んだのを見て、ハロンドが言った。


「辛気臭い話は終わったかい?なら、早く朝食を取りに行こうよ。今日はよくお腹が空いてるんだ」



 お盆を受け取り、四人で移動する。

 陣取る席はいつも決まっている。一番隅にあるテーブルだ。大人数のガンムたちと席が近くなり、だる絡みされるのをなるべく避けるためだ。

 そういえば、ファーの妨害もなくなったなとハロンドは思い出す。


「じゃあ、食べよう!」


 タラがうきうきと言った。多分、おかずに焼鮭があるからだろう。ハロンドは思考を戻した。

 僕らは一斉に手を合わせた。


「「「「いただきます!」」」」


 普通の朝食も、みんなと食べると美味しい。

 ただそれも、一口目を口に入れるまでであった。



「にしてもハロンド、だっせェよなー」



 一口目を口に入れて咀嚼していた面々が固まった。それから、ようやく口の中のものを咀嚼し終えると、発言者を見た。

 

「てか、ロファとかタラとかイサーシャとか正気ー?頭悪いのかな、どれだけハロンドが不利な状況か気付いてないのかなー?」


 違う方からまた悪口が聞こえた。

 目を向けると、女子生徒がにやにやこっちを見ているのに気づいた。

 故意だなと確信した。

 ぽつりと、タラが呟いた。


「なんかさ、こんなクズみたいな言葉を聞くとさ、沸々と、堪え難いものが湧き上がってくるよ」


 ロファも頷いた。


「俺も同じだ」



「ハロンドの気分害したり、嫌われたりしたくなかったから今まで言わなかったけどさ。私、もう限界だよ。ガンムにつく人間が、憎い」



「そうだな。俺も苛々する。時々思っちまうんだ。あんな奴、消えちまえばいいのにって」


 普段はそんなことを言わない彼らだからこそ、ハロンドは黙って聞いていた。


「……」


 口撃はまだまだ続く。


「にしてもハロンド、バカだよなー。剣だけ上手いとか、脳筋かよ」


「いや見た目は優男だぜ」


「じゃあ脳筋見た目詐欺師か!」


「「ぎゃはは!」」


「……ああいうのを見ると、特に」


 タラは、静かに彼らのことを睨んでいた。

 ハロンドのために、ここまで憤りを見せてくれたことに、ハロンドは、


「ありがとう」


深く感謝した。


 

 



 今日の午前は数学である。


「2、3、5、7、9……。このような数字を素数、という。その数字自身と1以外では割り切れない純粋な数字。何とも混ざっていないからこそ成り立つ数字だ」


 カッカッと、チョークで黒板に書きつける音が響く。


「3は素数だが、5も素数。だが、足せばどうだ?8だ。素数ではない。つまりーー」


 セロはチョークをわざと落とした。



「入学前のお前らのようだということだ」



 その言葉の真意は測りかねない。ただ、堕ちたチョークは、真っ二つに割れていた。




「これより、実技分野に移行する」


 セロが言った。ハロンドの両隣では、ロファとタラが頭を抱えて唸っている。恐らく、授業の進みが早すぎて理解が追いつかないのだろう。哀れな二人に、ハロンドは声をかける。

 今日も、この時が来たぞ、と。


 二人はすっと立ち上がると、躊躇なく木剣を抜く。初めて授業を受けた二週間前とは違って、剣を抜くことに躊躇いがない。二人は間違いなく成長していた。

 ハロンドも立ち上がり、剣を抜く。

 実技用の空間に移動すると、セロが言った。

 

「さあ、始めようか」

 

 早速、セロは破剣を放ってくる。


「破剣・連刑処落」


 だが、生徒たちも負けていない。先週も初手でそれを撃ってきていたので、ハロンドたちは予測していたのだ。


『破剣・散受散龍!』


 二、三人が受け止めきれずに倒れたが、大半の人間が耐え忍んだ。

 ここから、真なる戦いが始まるのだ。


 セロが縦横無尽に動き回る。それを生徒たちが三、四人一組くらいで迎撃していく。


 一対一の状況になれば負けは必至。とはいえ、全員でかかれば多すぎる人数故に翻弄されることも目に見えている。

 だが、これくらいの人数で固まって動けば、三、四人でフォローし合うことですぐやられることもなく、まずい状況になったとしても他の組からの支援も届く。

 まさしく、最良の布陣であった。


「シィッ!」


 ハロンドとセロの斬撃がぶつかる。だが、セロの膂力の方が圧倒的に強いので、ハロンドはそのまま受け流す。全ての斬撃を受け流すようにしのぐ。

 その隙に、回りこむようにロファ、タラ、イサーシャが駆け出す。ハロンドを囮として、三人で決める作戦だ。


 だが、その前にしびれを切らしたセロが破剣を撃ってきた。


「破剣・閃臨差幕」


 元より威力重視の破剣は、教師の手によって異次元の威力に様変わりしていた。そのためハロンドは、事前に大ぶりに避けるよりない。

 セロとハロンドの間に、微妙な距離が生まれる。

 ハロンドは次の攻撃に警戒するが、狙いを変えたようだった。ロファに向かって駆ける。


「破剣・緩急灼微」


 さらに動きに緩急をつける破剣でフェイントをかける。セロの標的であるロファは、そのフェイントを掻い潜る実力も、セロの一撃を受け止める膂力もない。

 だからロファも、一つの破剣を選択する。


「破剣・緩急灼微」


 ロファは緩急灼微で逃げる。セロが加速した瞬間にロファも加速し、遅くなればロファも遅くなる。速くなる瞬間と遅くなる瞬間を合わせていた。

 だが、やはり教師は別格。ロファが追いつかれそうになった瞬間、ハロンドら三人の妨害が入る。


「破剣・集中突破!」

「破剣・鮫咬み」

「破剣・上がり昇天」

 

 当然、教師は楽々と全ての斬撃を受け止め、回避する。だが、その間にロファとの距離が空いてしまう。


「ひゅー!あっぶねー!」


 ロファはそのままハロンドの隣に立つと、そう言った。


「いいですね、この作戦。ヒットアンドアウェイ作戦でしたっけ?」


 イサーシャもハロンドの作戦を賞賛する。

 ヒットアンドアウェイ作戦とは、一人を囮にして他の三人が背後を狙い、別の一人を狙い始めれば他の三人で背後を狙うという、いわばいたちごっこを続ける作戦である。今回はハロンドが囮で、ロファを狙い始めたので他三人で背後を狙ったのだ。


 もちろん、それでセロに勝てるとは思っていない。ただ、時間稼ぎには最適だった。


「このまま撹乱し続けられればいいんだけど……」


 タラはそう呟いた。この作戦も、いつものようにすぐ通用しなくなるのを危惧してのことだった。


「ふむ」


 そうなることを裏付けするように、セロはそう呟いた。

 イサーシャが前に出た。


「来ますね。次は私が前に出ましょう」


「頼んだ」


 セロが斬り込んでくる。どの斬撃も繰り出せる構え。剣の射程には程遠いが、もう読み合いは始まっている。ここから接触するまで、どちらが“先手”を取れるかが勝負の分かれ目なのだ。

 

「破剣・上弦刧落」


 セロの破剣詠唱。二連撃が特徴の破剣である。対するイサーシャは、


「恨念執愛」


特殊技を選択。そして、ちらっとハロンドを見る。

 剣と剣がぶつかるその瞬間、イサーシャは避けた。

 だが、教師の剣はギリギリで避けられるほど甘くはない。避けきれなかった斬撃を……ハロンドが受け止めた。


「くっ!」

 

 ハロンドは斬撃の重さに思わずうめくが、そのまま耐えた。


「ありがとうございます!気づいてくれて!」


 イサーシャがハロンドに送った目配せは、助太刀を求めてのことだったのだ。


「ふむ」


 セロは一旦退がり、また突っかかってくる。恐らくは破剣。


「下がって!」


 イサーシャが叫ぶ。ハロンドは言葉通り後退すると、入れ違い様にセロに斬りかかる。


「破剣・下弦遷変」

 

 セロは“上弦刧落”の二連撃目を詠唱し、対するイサーシャは、何も詠唱をしなかった。

 そのままぶつかる。破剣ではないイサーシャが押し負けていると思いきや、押し勝ってさえいた。

 セロは少し驚いたように眉を上げる。


「ほう」


 イサーシャはセロの“上弦刧落”を避けた時、“恨念執愛”を詠唱していた。二回目が破剣となる特殊技だ。セロの斬撃を避けたのが一回目となり、今回が二回目。通常技の“閃臨差幕”をも超える威力は、教師にも有効のようだった。

 だが、威力故か、イサーシャの体勢がやや崩れている。

 それを見逃すセロではない、がーーー。


「破剣・緩急灼微」

「破剣・閃臨差幕」

 

 ロファとタラの介入により阻まれる。

 セロは難なく対処する。が、ハロンドはこれから介入するつもりだし、イサーシャも体勢が整い次第参戦するだろう。まさに四面楚歌。ハロンドの作戦がうまいこと嵌っている。


 一方で、こうも考えられるのだ。

 

 そろそろセロが動き出す頃だな、と。


 教師は、ある程度まで生徒の動向を見守る傾向にある。これまでの模擬戦も、一方的にねじ伏せてこなかったのが証拠だ。アリンクスの力任せな戦い方も、どうするべきか判断する時間はあった。

 そして、今回の策はここまで。これ以上どうこうする策は用意していない。この状況でもう十分優位に立っているからだ。

つまり、四人でセロを囲んでいるこの状況が、ハロンドの組んだ作戦の最終形なのだ。

 つまり、もうそろそろセロが仕掛けてくるタイミングーーー。


「ふむ。上出来といえなくはないな」


 まず、セロはタラに斬りかかる。


「破剣・獄中突破」


 残念ながらタラは破剣を撃ってしまった後である。近くにいるロファも同様だから、救援は難しい。

 タラは身をよじって急所への命中を免れる。それでも、「ぎゃうっ」と悲鳴を上げながら脇腹に当たった。そのまま転がる。


「タラ!」


 ハロンドは斬りかかる。だがそれも受け止められる。


「破剣・鮫咬み!」


 イサーシャは破剣で斬りかかる。だが、それも受け止められる。


「破剣・連刑処落」


 特殊技で。

 いきなりの斬撃に、ハロンドは対応し切れず吹っ飛ぶ。イサーシャは特殊技の威力に押される。一人、何もしていなかったロファはなんとか“散受散龍”を間に合わせる。

 

 ハロンドは起き上がる。脇腹を抑えながらなお立ちあがろうとするタラを視界に入れながら、それ以上に驚愕していた。




「マジか……」


 


 おかしいとは思っていた。

 事前に、セロと接敵してから一分以内に他の組が救援に向かうときめていたのに、いつまで経っても来ないからだ。

 だからといってまさか、ガンムたちが、ハロンド達を見てにやにやしているとは、思いもしなかった。

 ハロンドは授業にまで及んだ妨害に、思わず呆然とする。

 実技などと言った戦いの場では仲間。さすがに公私混同はしないかと踏んでいたのだがーーー。


「おい、行くぞォ」


 その掛け声と共に、彼らはこちらに向かってくる。

 嘲笑を帯びたニヤけた顔から察するに、ハロンドたちと敵対するつもりのようで間違いない。

 つまり、ハロンド達とセロが戦っていたところを漁夫の利するつもりということだろう。


 教師との戦いの場でさえ敵対、妨害し始めたガンム。

 本当に、不味いのかもしれない。

 タラを怪我させたセロに怒りを募らせながら、どんどんエスカレートしていくガンムに危機感を覚えるハロンドであったーーー。

補足

恨念執愛について、避けたのに1回目にカウントされるの?って聞かれそうなので答えておきます。

避けたとしても、避ける際、剣が静止することはありえません。つまり、あの時、避けた時の剣の動きが1回目にカウントされたわけですね。

少々強引かもしれませんが、納得していただいたでしょうか?


よければ評価諸々よろしくッ!


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