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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
33/38

十三   ガンムとファー、ソールと私

「おいお前、この失態、どう弁明するつもりだァ?」


 暗闇に響く、苛立った声。それはどう考えてもガンムのものだ。


「弁明のしようもありません」


 こちらはファーの声に聞こえる。だが、感情のこもらないその声は、どこか別人にも聞こえた。


「しようもない、だとォ?舐めてんのかァ?」


「……」


 答えない。


「まあまあ、大目に見ようよ。彼女は優秀で、使える駒だ。一回や二回、誰でも失敗するさ」


 この声は、サランのようだった。


「……ち」


 ガンムは、サランにあまり強く出られないようだった。


「今回はサランに免じて見逃す。だが、次はねェからなァ?次、ハロンドの野郎と馴れ合いでもすれば……」


 暗闇に、何かが煌めく。


「お前に、先はねェからなァ」


「……肝に命じておきます」


「主従喧嘩は終わったかい?」


 雰囲気にそぐわない気楽な声でサランが聞いた。


「……ああ、終わった。で、なんだァ?そう聞くってこたァ、何か言いたいことがあるんだろォ?」


「察しがいいね。えーとね、ハロンドたちへの妨害、監視についてなんだけどさ、ちょっと方向性を変えたいなと思ってさ」


「方向性を変えるゥ?」


「うん。どうやら、ハロンドは暴言の耐性が高いみたいだしね。だから、代わりに授業の実技分野で妨害を仕掛ける」


「具体的には?」


「僕たちがハロンドの敵に回って、三つ巴の戦いにするとかさ」


「……」


 ガンムはサランの提言を吟味しているようだった。


「それと同時に、僕たちの味方である他のクラスメイトに、毎食、ハロンドたちの近くに座ってもらって、ハロンドの悪口を噂してもらう。ハロンドたちに聞こえるように」


「なるほどなァ」


 ファーは一人でハロンドに接近しすぎて、ハロンドに主導権を握られてしまった。だが、今回は一定の距離をとって、大人数で精神攻撃を仕掛けていく作戦だ。しかも、あわよくば仲間割れも狙える。


「……で?()()の目的はなんだァ?」


 ガンムが一段低い声で聞いた。サランは困惑気味に眉根を下げる。


「どういうこと?意味が分からないよ」


 ガンムはサランを睨みつけた。どうやら、サランがしらばっくれていると思ったようだった。

 そしてーーため息をついた。


「……それで妥協してやる。ファーもそのように動けよォ?」


「承知」


「ありがと」


 そして、足音。

 足音は、三方向に分かれていく。



「変わった……」


 一人。暗闇の中で、ファーが呟いた。


「正解は、何なのか。()()()、私は……」


『絶対』が、揺らぎ始めている。

 そんな感じだった。


「ああ……」


 僅かに差し込む月光に、影が差し込む。自分の胸を抱いたようだった。ちょうど、昼食の時のように。

 昔に固めた意思と決意が、揺らいで溶けていくような気がして、それを留めるようにぎゅっと胸を押さえる。

 月光が、眩しい。

 太陽の光が反射しているに過ぎない、陽光に比べれば微弱なそれが、今は輝かしいものに見えて仕方がなかった。

 ファーは、月光を避けるように、ゆっくりと歩き出した。




「ハロンドは絶対に潰す。全ては、そこからだァ」




「妥協してやる、か。ふふ」





 三者三様。それぞれの思惑を抱いて、彼らは己の道を歩く。






 ❄︎ ❄︎ ❄︎


 《???視点》





「あ!ソール、どうしたの?遅かったねー」


 私は、ソールのお父様に呼ばれてしばらく帰ってこなかったソールに、ちょっと頬を膨らませて言った。

 まあ、本当に不機嫌な訳でもない。じゃれあいの一環だ。

 けど、いつも返ってくる軽口がこなくて、私は首を傾げた。


「ねえ、何かあった――」


 私は思わず息を呑んだ。そして空気を読めない自分を責めた。

 それほど、沈痛な顔をしていたから。

 ソールが、重い口を開いた。


「兄貴が二人とも、死んだ」


「っ――」


 私は目を見開いた。

 猛省した。

 さっき、私は思いやりもなく、いつも通りに話してしまった。

 そして、言いたくない訃報を、自分の口で言わせてしまった。

 友達失格だ。


「ごめん」


「いいんだ。誰も悪くない」


 そう言うソールは、可愛くなかった。

 だから、私は無言でソールを抱きしめた。

 ソールは何も言わなかった。

 私の服が濡れていったけど、全然気にならなかった。



「おはよう」


「おはよう」


 悲しいことがあった次の日だけど、変に気を遣われるのも嫌だろうと察して、私はいつも通り接した。ソールは少しぎこちなくて、目の辺りも赤いけど、私はノータッチを心がける。


「今日もウインナーがあるよ!嬉しいねー」


 私もソールも、好みは一致している。肉だ。その中でも、豚肉とか牛肉とかじゃなくて、ウインナーやハムみたいな加工品が好きなんだ。

 私が話しかけても、ソールは上の空。むぅ。

 しょうがないから、私は自分のウインナーを一つ、ソールにあげた。


「私の、一つあげる」


「ありがと」


 ソールは微笑んだ。笑ってくれたことは嬉しかったけど、心からじゃないみたいで、私は満足することは出来なかった。




 それから、ソールは笑うことが少なくなっていった。

 表面上はいつも通りに接してくれるけど、ふとした時にぼうっとすることが多くなった。


 私はソールにばかり付きまとっていたから、亡くなった二人のお兄さんとは毎食顔を合わせるくらいで、詳しくは知らなかった。親しくはなかったけど挨拶は交わすし、たまに『二人は本当に仲がいいね』と言われたこともある。先日まで普通に生きていた二人が突然いなくなるのはショックだった。


 メイドさんによれば、ソールと二人のお兄さんは、とっても仲が良かったのだという。私が来てからは、三人で何かすることはめっきり少なくなったけど、それでも仲は変わらなかった。

 仲は良かった、いや、良すぎたのかもしれない。何しろ、陽気だったあのソールがこんなにも意気消沈しているんだから。




「ねえソール、今日は何して遊ぼうか」


 私は笑顔で聞いてみる。


「何でもいいぞ」


 いつも通りの答え。けれど、お兄さんたちが死ぬまでは、何がしたいか具体的に答えてくれた。


「じゃあ絵合わせねー!」


 弾んだ声で言った。

 時々、私はソールを元気づけようと空回りしている気がする。

 無理にでもソールに笑いを取り戻したい私と、お兄さんの死を引きずるソール。

 どうか、私の明るさに感化されることを願う。


「分かった」


 ああ、やっぱり、ソールの声には覇気が欠けている。

 きっと誰が聞いても分からない違い。でも、ずっと彼と一緒にいた私には分かるのだ。


 そして、私たちは絵合わせで遊んだ。

 私は楽しかった。なぜってもちろん、ソールと遊んでるから。ソールと遊ぶときは、いつも楽しい。

 でも、ソールは微笑を浮かべるだけで、笑ってるわけじゃないことも、知っていた。


「はー、楽しかった。もう一回する?」


「そうだな……」


 明確な温度差。

 窓から空を静かに見上げるソールと私の間には、小さくて深い溝がある。

 以前は、ソールは私に何もかも打ち明けてくれた。私も私の全てをソールに知ってもらったつもりだ。だからこそ、強固な信頼関係を築けて、友達になれたんだと思う。

 けど、今は違う。


 ソールはいつの間にか、自分の周りに壁を作ってしまっていた。

 自分の殻に、閉じこもってしまっていた。

 私は、そこに手出しができない。

 可哀想なソールを抱きしめてあげたかった。でも、そうしても、心が閉ざされているせいで、本当に抱いてる訳にはならない。


 難しいな。人間関係って、そんなものだったろうか。

 あの頃と同じように、気楽に語り合える仲に戻りたかった。


「合った」


 ソールがぽつりと呟いて、二枚の絵を場に出した。


「おー!どれどれ?」


 空回りした底抜けに明るい声で、私は言った。

 二枚の絵。

 二人の青年の、絵。

 それは、あまりにソールのお兄さんに似ていて。

 ソールは、笑った。

 とても、寂しげに。


 私は胸がきゅうっとなるのを感じた。

 ソールの、悲しげな顔が耐えられなかった。

 でも、初めて感情を表に出してくれたのが嬉しくて、そう思ってしまう自分が嫌だった。


 だから――私は、ソールを抱きしめた。


「ぁーーー」


「可愛くないよ、ソール」


 一人で全部抱えて、時々堪えきれずに悲しげな顔をつくるのは、もう耐えられない。


「私たち、友達でしょう?教えてよ。ソールが何を想って、何を悩んでるのか」


「……」


 ソールは答えない。

 そうだよね。自分の悲しみを、心の内を進んで明かしたい人なんていない。私もソールと友達になったあの時、自分の過去を話すのは嫌ではなかったけど、特段明かしたかったわけでもなかった。

 だから、私も心を決めなきゃいけない。


「そのまま、顔を上げないでね」


 ソールは私の胸に顔をうずめてるから、何も見えない……はず。

 私は、谷間から下着をするするととった。


「え……?」


 頭に当たる胸の感触が変わったからだろう、ソールが困惑気味に言った。

 私は急に羞恥心に襲われ、どもりながら言う。


「友達になった時。私の、む、胸の大きさも教えてあげるって言ったよね!」


 最後は恥ずかしすぎて、半分叫んじゃったけど。しょうがないよね!?

 は、恥ずかしい……。私の、む、胸が、ソールの頭に当たってる……。

 私は羞恥心を精一杯隠して、ソールの耳元でささやいた。



「私も、恥ずかしいの、教えたよ。だから、教えてよ。ソールが何を想ってるのか……」



「……っ……」


 ソールは、私からささっと離れた。

 お顔は赤くて、火照ってる。私ももう子供じゃないから、そこそこに膨らみはある。

 俯くソールを見て、ソールも男の子なんだなぁ、と思い知らされた。

 数十秒後、決意を固めたようで、ソールは口を開いた。


「お、俺……っ」


 何か言いかけて、しゃくり上げる。堪えきれなかった涙が、零れ落ちる。

 それが、全てを語っていた。

 涙にまみれて聞き取りにくい言葉たちを丁寧に拾い上げて、私は優しく、ソールの背中をなでた。

 二人で泣いて、泣いて、泣いた。






 もう、ソールに壁はなくなった。

 ソールはまた、徐々に最高に可愛いソールに戻っていった。

 私たちは親友。友達の時より、ずっと固い絆で結ばれているんだと思う。

 けど、きっと私たちはそれだけで終わらない。

 だって、私は――――






 そして、運命は悪い方向に転換する。





 


 



 

お読み頂いた皆皆様!どうか、評価など色々宜しくお願いします!

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