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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
32/38

十二   ハロンドはファーと話したい

 期末がもう近くなってきました。投稿遅くなるかもしれません。え?これまでも十分遅かったって?(汗

「今日は納豆ご飯か。いや、納豆地味に嫌いなんだけど。ていうか納豆とご飯だけとか適当すぎない?」


 ハロンドはぶつくさ言った。


「文句がすごいですね、ハロンドさん」


 タラがイサーシャ風に少し嫌味に言った。少しは機嫌が直ったものの、完全に直ったわけではないようだった。


「悪かったって、タラ」


「どこが悪かったのか、分かってないのに?」


 ちなみに、ハロンドは鈍すぎて何処が悪かったのか、気づけていない。

 いや、もし鋭くても膝枕は当たり前という思考の持ち主だ、気づけなかったかもしれない。

 ハロンドは正直に聞くことにした。


「……済まない。どこが悪かったのか、教えてもらえるかい?」


「……本人に聞くの、それ?」


 どこかで聞いたなとハロンドは思った。ああそうだ、イサーシャに膝枕された時だ。


「いや、ハロンドが悪かった場面、バリバリ思い出してるじゃねーか」


 ロファが呆れたように、ハロンドに聞こえない声で呟いた。

 ハロンドは、女心は直接聞かれるのが嫌なものなのか、と邪推していた……。



 昼食セットのお盆を置いて、テーブルにつく。イスは通常通り四つ。ハロンドたちは四人なので、ちょうどよかった。それぞれ座る。


「食べよっか!」


 タラが言った。三人は手を合わせていただきますをしようとするが、一人、そっちのけで違うことをしていたので止めた。

 ハロンドは、五個目のイスを隣から移動させていた。


「ハロンド、何してるの?」


 ハロンドたちは四人だから、当然、五個も椅子はいらないはずだ。


「ファー用のイスだよ」


「ッ!あんな奴のイスなんか、いらねえだろ!」


 ロファがそう叫んだ。苛立っているようだった。

 確かに、ファーがやっていることはマイナス要素しかない。今だって、遠目から監視しているはずだ。ファーのする行為はストレスでしかない。

 だが、ハロンドはにこやかに言う。


「心が狭いと嫌われるよ?もっと寛容にいこうよ」


「でも……」


 タラが不安そうに言った。だが、イサーシャが言った。


「まあまあ。ハロンドさんが言うのです、信用してみましょう」


「……まあ、そうだね」


 タラは渋々と言った感じで頷いた。

 案の定、ファーはこっちにやってきた。


「きたぁ……!」


 露骨に嫌悪感むき出しで、タラが歯軋りする。いい加減、歯がすり減るぞとハロンドは思った。

 ファーは五つ目の、自分用と思われる椅子を見つけると、意地悪そうにニヤリとする。


「へぇ。どうぞ私たちを罵って下さいってか?Mかよ」


 タラが我慢ならなそうに口を開くが、ハロンドが先に発言していた。


「いや、Mではないと思うけど。今日も来るかなと思って」


「ふん」


 ファーは不機嫌そうにハロンドを睨みながら、椅子に座った。

 タラは一瞬ファーを睨んだが、はぁと嘆息して納豆をかき混ぜ始めた。もう諦めたのだ。あきらめて、全てはもうハロンドに任せよう。そんな信頼でもあった。

 それは、もはや固い絆と言えるのかも……しれない。


「そういえばさ、今日ファーさ、強かったよね!クランも1ランク上がってたし」


 ハロンドはにこやかにファーに話しかけた。だが、ファーは変わらない塩対応。


「米喉に詰まらせて死ね」


「つっこみ辛辣ー」


 ハロンドは悲しそうな仕草をして笑った。ファーの塩対応を冗談として受け取ったようだった。


「どうやって勝ったの?詳しく知りたいなぁ。相手はーーー」


「臭え口閉じて呼吸止めろ」


「え?何て?」


「黙れっつってんだよバーカ」


 ハロンドは困ったように頭を掻いた。


「もう。教えてくれてもいいのに。つれないなぁ」


「脳味噌散乱死しろ」


 ハロンドは話題を変えた。


「ていうかさ、ファーはもうイリスとやった?にしても反則だと思わない?あのえいしょ――」


「うぜえんだよ話しかけんな」


「あ、そんなに同調してくれるの?ありがとう」


 イサーシャは、ハロンドが執拗にファーに話しかける様子を、じっと見つめていた。

 あまりに不可解な光景だったから。


 (貴方は一体、何がしたいのですか?)


 いくら話しかけたって無駄だ。ファーの塩対応はそれだけでやめさせられるものじゃない。このまま話しかけても、無駄に精神を消耗するだけだ。

 なのに、ハロンドは話しかけ続ける。


「そういえば僕、一回もファーとは対戦したことな――」


「黙って呼吸止めろ」


「あ、ファーも僕と戦ってみたいんだ。ありがとー」


「はっ!?んなこと言ってねえしざけんなブス」


「照れ隠し?ははは、可愛いねー」


「……っ」


 どうしてだろう。

 ファーの暴言が受け流されて、いつのまにかハロンドが先手を取っている。


「そういえば、イリスの詠唱隠蔽、僕もつか――」


「馬鹿が無理なことをさえずんな」


「あ、使わなくて十分強いってこと?ありがとう!」


「……っ!」


 いや、違う。

 むしろ、消耗しているのはファーの方だった。今だって、さっきだって、言葉に詰まった。

 何故だろう?

 何故、何故ハロンドは、ここまで粘り強く話しかけられるのだろう?


 (あ……)


 イサーシャは、思い出した。






 膝枕でハロンドを慰めた直後のことだ。


「絶対に勝つぞ。絶対に」


「ええ」


 イサーシャは力強く頷く。

 ハロンドは、次の相手を求めて歩き出す。だが、三歩くらいで止まった。

 ハロンドは振り返ると、今思い出したかのように、イサーシャに言った。


「ねえ、ファーのこと、どう思う?」


「……正直、好印象ではありません」


 目を細め、イサーシャらしく、オブラートに包んで答えた。


「そっか。僕はそれが当然だと思う。でもさ、僕はね、可哀想だと思った」


「え」


 イサーシャは思わずそう言った。

 ハロンドはその返答を予想していたので、苦笑した。


「何となく、雰囲気が悲しそうだったんだ。そう思った瞬間、何を考えてるんだ僕は、と自問した」


「……」


 イサーシャは口をつぐんでいた。


「けどさ、勘違いじゃなかったかもしれないんだ。ファーの『塩対応』っていう鉄の仮面の下に、悲しみに暮れたただの少女の気配がしたんだ」


 そういえば、二日目のとき、タラも言ってたなと付け足した。


「けどやっぱり、ただの勘違いかもしれない。だとしても、放って置けないよね」


 そう言うハロンドの顔を見て、イサーシャは息を詰まらせる。それは、慈愛に満ちた、イサーシャたち三人の心を囚えて離さない、優しさに満ちた表情――。

 もうイサーシャに干渉できることは、ないのだろう。

 放って置けないとハロンドは言った。ならば、ハロンドならば、きっと何とかするはずだ。不思議なことに、イサーシャには確信があった。

 イサーシャは、深く、息を吐ききった。


「……そうですか。なら、ファーさんの対応、任せてもいいですか?」


「そのつもりで切り出したんだ、いいに決まってる。任せてよ」


 そう言って、ハロンドはまた歩き出した。

 だが、今度はイサーシャが止めた。


「待って」


 ハロンドは再度振り返る。

 イサーシャは、笑みを浮かべて言った。


「何かあれば、私たちを頼って下さい。仲間ですから」


 ハロンドも、満面の笑みだ。


「知ってる」





 ハロンドは、優しさの人間だ。

 優しくて、時に優しすぎて。クラス一と言える実力も備えているが故に、それは諸刃の剣と化している。

 だが、その優しさは本物だ。

 その優しさがファーに向けば、例え一日中暴言責めされても決して砕けることのない、最強のメンタルとなるだろう。

 全ては、可哀想なファーを助けるために。


「僕さ、今日ガンムに負けちゃったんだよねー」


「…あっそ。雑魚はガンム様に斬首されとけ」


 一瞬開いた間。それを見逃すほど、ハロンドもイサーシャも鈍くない。


 (ガンムに反応した?もしかして、何か、ある?)


 本当にあるのだろうか?仮面の下の素顔が。


「あはは、さすがに斬首はないと思うけどなー。君の主人、本当に強いよね」


 ファーは、主人の話となると、僅かに動揺するようだった。

 ほんの僅かだが声が上ずっている。


「そうかよ」


 ハロンドはファーの口調について、前々から思っていたことを言った。


「やめた方がいいよ、その口調。可愛い女の子なんだから」


「ああ!?可愛いとか舐めてんのか!?」


 ファーは激高した。だが、声はガンムに聞こえないようにか、少し抑えられていた。


「ああ、ごめんごめん。ちょっとからかってみただけ」


「……っち」


 ファーは舌打ちして、米をかきこんだ。

 そんな様子を見て、ハロンドは微笑を浮かべる。


「ふふ、何か楽しいな」


「楽しいって……っち」


 ここで更に暴言を吐いても、それは相手を喜ばせるだけだと思い、呑み込む。代わりに、きつくハロンドを睨んだ。


「そういえばさ……ん?どうしたの?」


 ファーが、机の下でハロンドの足を思い切り踏んでいた。


「もう、痛いなあ」


 そう言って、ハロンドは易々と抜ける。ファーは舌打ちしてハロンドのすねを蹴っ飛ばした。


「いったあ」


「雑魚が」


 ファーが嘲笑する。

 だが、ハロンドはそれをじゃれあいの一環と捉えて、


「やったな!」


 と踏み返そうとした。


「舐めんな」


 ファーは瞬時に足を避け、もう片方の足でハロンドの踏み返そうとした足を踏みつけた。


「甘いね」


 だが、その踏みは浅く、すぐ抜けられる。逆に、もう片方の足で強く踏みつけられた。


「!」


 ハロンドの片足は囮だった。ファーの足を誘うための餌。ぎりぎりまで引きつけて、これ以上ないくらいじのタイミングで引いた。

 ファーはもう片方の足で踏んでいる足を蹴る。ハロンドは避けるが、ファーも抜け出して、また振り出しに戻った。


「むぅ」


 ハロンドは逃したことに悔しそうに呟いた。


「舐めんな雑魚餓鬼が」


 ファーは睨む。けれど、そこに相手を侮蔑する色はいくらか薄まっていた。

 張り詰めた雰囲気は、皆無だった。

 イサーシャは息を呑んだ。

 ハロンドの人心掌握術は、ファーを上回り、場を和ませることに成功したのだ。

 それはとても困難なことだ。

 なにしろ、相手は自分たちを苛立たせることを目的としているのだから。

 イサーシャは、自分の選んだ人間の凄さを思い知った。

 

 ハロンドは嬉しそうに笑って言った。


「でも、安心したよ。ファーもそんなふうに楽しむんだなって」



「……っ」



 そう言われたファーは、大げさなほどに反応した。

 愕然としたように、立ち尽くして……いや、座り尽くして。

 自分の胸を押さえて、じっと見下ろした。

 そこに何を見たのか、歯を食いしばるように耐え忍ぶ仕草をした。


 その一連の奇妙な行動に、イサーシャたちは眉をひそめる。

 ハロンドは心配そうに声をかける。


「ファー?」


 ファーは震える声で威圧する。震えていたので、圧はあまりなかった。


「話しかけんな。さっさと、死ね」


 ファーは、まだ半分も食べていないお盆を持って、さっさと返却口へと向かった。

 その背中は、ひどく寂しげに見えた。

 


 

 

 

 


 



 

 よければ、評価諸々よろしくッ!星1でもいいからね!

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