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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
30/38

十  ファーの嫌がらせ

「……眠い」


「大丈夫かよ?隈すごいぞ」


「眠い」


「せめて会話してくれ?」


 ハロンドとロファは会話しながら、朝食を食べに食堂に来ていた。

 そこで、女子寮のタラとイサーシャと合流する。


「やほー、おはよー。って、隈すごいね」


 タラにも言われる。


「おはよー。ちょっと考えごとしてた」


「寝不足は良くないですよ?」


 イサーシャも眉をひそめて言った。


「まあね」

 

 ハロンドたちは話しながら、朝食を受け取る列に並んだ。

 今度はタラが興奮して言った。


「にしても、昨日のガンムとハロンドの試合、すごかったなぁ!」


「それ、まだ言う?」


 ハロンドは呆れたように言った。


「本人たちには分からないものよ、他人から見るとどんな感じか。私たちとはまるで次元が違った」


「そーですか」


 ロファは聞き飽きたとでもいうふうに生返事をした。そして、ふと思い出したように言った。


「そいや、あのクラン戦、真剣にやってない組はシンスに徹底的にしごかれてたな」


 ちなみにクラン戦とは、クラスランキング戦の略である。


「そうなの?」


 ずっと熱戦を繰り広げていたハロンドは、周囲を見渡す時間がなかったのだ。


「そうだぜ。そりゃもう、デッドエルブらしく」


 ロファのうんざりした顔を見て、どんな事があったのか想像がついた。


「……それは、なんというか、お気の毒だったね……」


 ハロンドは、しごかれた哀れな生徒に、心の中で黙祷を捧げた。


 朝食セットのお盆を受け取ると、ハロンドたちは固まって一つのテーブルを占領した。

 そして、じっと固まって広い範囲を陣取るガンムら十数人を見据える。


「にしても、ほんと人数多いよな……。どうやってあんなに味方につけたんだ?」


「そんなこと、今はどうでもいいでしょ。……あーあ、やっぱり来た」


 その人物……ファーは、仏頂面で、ハロンドたちの陣取るテーブルへと向かってきていた。手にはお盆がある。監視役として、一緒に食べるつもりなのだろう。

 ファーがハロンドたちに近づくと、タラがにこやかな笑みを浮かべて言った。


「すみませんがお客様、こちらのテーブルは四人用となっております」


 暗に「お前の席はねえよどっかいけ」と言ったタラに、ファーは無反応で、隣のテーブルをくっつけてしまった。そして堂々と隣のテーブル用の椅子に座る。

 その席は、タラの隣。


「きーっ!」


 タラは猛烈に悔しがった。

 その様子をみて、思わずハロンドたちが笑ってしまった。

 その時だった。

 絶対零度の声が場を支配したのは。


「何が面白い?」


 ファーだった。その瞬間、場は、しんと静まり返る。

 数秒後、気を取り直したハロンドが言った。


「そ、そういえばイサーシャ、昨日、めっちゃ強かったよね!」


 この時イサーシャに話しかけたのには理由がある。

 それは単純、一番ファーの邪魔に苛立っていなかったから。


「ああ、ありがとうございます。でも、私なんてまだまだですよ。ハロンドさんに負けてしまいましたし」


「いや、技術面は申し分ないと思うよ?ただ――」


「雑魚が(さえず)んな」


 またもや、場を凍らせるフリザードが巻き起こる。ちなみに、ファーのクランはハロンドやイサーシャよりも下である。

 数秒の沈黙。

 ロファは一瞬、肩を怒らせると、出来るだけ笑顔でタラに言った。


「きょ、今日のごはんさ、いつもより――」


「喋んな下位リーグのカスが」


 ついには、喋らせてさえくれなかった。ガンムとタラは唇を噛み締める。

 本当は、反抗したかった。でも、出来ない。反抗すれば、それがガンムたちに好き勝手やらせる口実となってしまうからだ。

 ハロンドたちは、口を挟むな、と注意するだけでもリスクを負うため、ファーに手が出せない状況となっていた。

 サランの策は見事に嵌まっていた。


「ああそういえばファーさん、あなたも強かったですねえ」


 イサーシャが挑発するように、ファーに言った。


「カスはさっさと死んどけ」


 ファーの暴言は止まることを知らない。

 だが、イサーシャは目をうるうるさせて言った。


「わ、私、ファーさんと、話したかった、だけなのに……」


「構ってちゃんはさっさとくたばれ」


 もはや気持ちいいいくらいの暴言だった。


「私、悲しい……」


 イサーシャが美少女パワーでファーを落とそうとするが……ファーは全く動じない。


「あっそ構ってちゃんは内臓でもぶちまけてろ」


「……っ。ファーさんも、かわいいですねぇ!特にその暴言、愛嬌があっていいと思いますよ!」


 ここまできたら意地なのかもしれない。

 イサーシャはうっすらとこめかみに青筋を立てながら、言った。ハロンドは愛嬌のある暴言とは何か、内心首を捻っていた。


「お前は昨日と同じくブタみたいにブスだよな。悲しいとか言ってイタいと思わないのかよ」


 ファーの変わらないものいいに、ついにイサーシャも堪忍袋の緒が切れようとしていた。


「そんな言い方は、ないんじゃ……」


「ああ、ごめんね、ファーさん。無理やり話しかけたりしてね。やりにくかったよね」


 イサーシャの言葉に、ハロンドが被せる。


「ハロンド……」


 イサーシャはハロンドを責めるような目線で見る。だが、ハロンドは横目でガンムを見てイサーシャに気づかせる。


「……!」


 イサーシャがガンムを見て、愕然とする。ガンムたちは、ハロンドたちの反応を見て面白がり、ニヤニヤしていたのだ。

 端的にいえば、ハロンドたちは、敗北者だった。

 イサーシャは礼儀正しい子だった。だから、表立って歯軋りなどはしなかった。ガンムたちを喜ばせないようにしたのかもしれない。


「まあ、朝食くらい、静かに食べようよ」


 ハロンドはずずっと味噌汁を飲んだ。うんおいしい、というふうに、穏便な笑みを浮かべる。それを見て、ロファとタラは渋々といった感じでご飯を食べ始め、イサーシャは申し訳なさそうにハロンドを見た。

 何か、もう一悶着ありそうな雰囲気だった。


 



「……」

「……」


 ガンムと、ハロンド。

 両者とも、構えたまま動かない。

 様子見だ。

 そして両者とも理解していた。先に動いた方が、勝率が低いと。

 

 先手を取った方が有利。それは定石だ。だから、先に動けば、先手を取れると思うかもしれない。だが、今回は違う。

 先に動けば、その動きから次の動きを予測される。対して、相手はまだ動き出していないため、予測はできない。予測すると次の動きを決められるので、実質的に、後から動いた方が先手になるのだ。


「はッ!」

「シィィッ」


 動き出すのは同時。予測し合える、互角の戦況。だが……


「……」

「く……」


 ガンムは、ハロンドに木剣を突きつけていた。

 ガンムの勝利だった。


「……僕の負けか。次は、負けないよ」


「抜かせ。俺様に、簡単に勝てるわけねェだろォが、バーカ」


 勝負ごとに勝敗はつきもの。そして、何事も全勝という人間はいない。それを知っているのか、ガンムは、負かしたことで煽ってきたりはしなかった。

 ただ、


「サランには、ちったァ感謝しねえとなァ」


 と呟いただけだった。



「次の相手は、私、ということでよろしいでしょうか?」


 イサーシャが誘ってきた。

 どうせいつかやるのだ。ハロンドは了承した。


「構わないよ」

 

 問題は、いかに仲間である彼女を殺す気で模擬戦をするか、である。その美貌も相まって、殺す気でいくのは難しい。


 そして、模擬戦が始まる。


「はっじめー」


「フッ!」


 始まりの合図と同時に、イサーシャが飛び込んできた。


「くっ」


 ハロンドがしっかりと受け止める。ただその衝撃は軽かった。受け止められるのが分かっていながら放ってきたこれは、ジャブというものだろう。

 イサーシャはバックステップをして、また切り掛かってくる。

 

 ハロンドはイサーシャの剣をよく見る。


「ッ!?」


 速い。

 それは、破剣……!

 その斬撃は水平で、首狙いのものだから、“吸首鋭糸”に違いない。

 ……。

 本当に、そうか?

 微かな、違和感。

 あのジャブは、何のために……。


「……ッ!破剣・緩急灼微!」


 イサーシャの首狙いに見えた斬撃は、途中で曲がり、高威力、高速度でハロンドに迫る。

 対するハロンドは、対応し切れない。

 ついにハロンドに当たると思われた木剣は、空ぶった。


「……緩急、灼微」


 イサーシャは不満そうに呟いた。

 そう、ハロンドは、止まった状態から急激に速くなる特徴を活かして、間一髪でよけたのだった。


「恨念執愛、だっけ。あのジャブは、破剣を発動させるための前準備だったんだ」


 昨日、イサーシャが見せてくれた、彼女独自の特殊技。一撃目は通常で、二撃目がものすごく重くなる。あの不可解なほどに軽いジャブは、破剣の前準備だったのだ。

 だとしても、不可解な点がある。


「いつ、詠唱を済ませたんだい?」


「試合が開始する前から」


「確かに、開始前から詠唱してはいけないっていうルールはないね」


 けれど、それは賭けだ。

 もしもハロンドが破剣で速攻を仕掛けてきた場合。一撃目は普通の斬撃だから、迎え打つとイサーシャが負ける。もしハロンドがそのまま破剣を使い続けていたら、イサーシャに勝ち目はなかったかもしれない。

 それほど危ない賭けだったのだ。


「仕切り直し、ですね」


 イサーシャは静かに構える。

 いつの間にか、イサーシャの美貌に対する気後れは消えていた。戦闘に入れば、気にならなくなるのだろう。


「そうだね」


「まさか、避けられるとは思いませんでした」


「必殺といってもいいくらいの威力だったからね、あれは」


 ハロンドはその一撃を思い出し、身震いする。


「ですが、次の破剣・獄中突破」


 次の破剣、と言いかけたと見せかけて、破剣の突き技の詠唱を完了させる。

 不意打ちに、ハロンドは対応が遅れる。


「ッ、破剣・――」

 

 イサーシャが破剣の速度で迫る。

 その詠唱はギリギリで間に合わないことを悟り、ハロンドは詠唱を放棄して、大きくバックステップを取った。

 その途中で、詠唱を済ませる算段だ。


「――閃臨差幕」


 通常技の中で一番威力のある一撃を選択する。

 基本的に、突き技に剣で合わせることは、普通に合わせるよりも難しい。合わせられる場所が少ないからだ。

 それが破剣の突き技になると、さらに困難になる。単純に速いからだ。受け方の難しさだけでいえば、威力一番の閃臨差幕を越えるだろう。

 だから、突き技に対して、避けを選ばずに威力重視の破剣を選択したということは――これで、勝負が決まるということなのだ。


「ハァッ!」


 イサーシャの中段の突き。それは正確無比で、そのままいけば直撃することは確定だった。ハロンドは――スライディングをした。


「!」


 突きというものは、真っ直ぐに届かせるのは得意だが、いきなり縦横に進行方向を変更するのは苦手だ。だから、こういうふうに下に避けられると、イサーシャは即座に対応することができない。

 その隙に、ハロンドは一閃。

 その一閃は、すれすれで当たらなかった。だが、わざと外したことも明確だった。

 

「僕の勝ちだ」

「また、負けですね」


 イサーシャは悔しげに拗ねたような声を出した。

 ハロンドは励ますように言った。


「でも、昨日と違って読み合いが出来るようになったじゃないか。速攻で破剣で来たのには驚いたよ」


 昨日のイサーシャは、対人戦の経験不足を技術面でどうにか補っている印象がしたのだ。成長といえるだろう。


「そうですが……負けてしまいました」


 イサーシャは悔しげに言った。


「しょうがない、そこは経験だ。そういう面では、僕は恵まれていたのさ」


 凄惨な過去はあれども、強くなれたのはそのおかげだと認めるしかないのだ。それには自嘲せざるを得ない。


「本気、出せましたか」


「うん。気が抜けなかった」


 ()、ハロンドは調子が悪いというのもあるが。


「それは良かったです。それはそうと……」

 

 イサーシャは正座をした。

 ハロンドは座るように手招きして、座らせる。

 それから、イサーシャはハロンドの頭を優しく持ち上げて、自分の膝の上に乗せた。


「少し、お話をしましょうか」


「へ?」


 膝枕、だった。

 


 

 


 

 

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