表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
25/38

五   イサーシャの影響力

今回は短め。前半のは誰かの回想です







 彼は、私のヒーローだ。

 

 どん底もいいところの私を掬い上げて、いかなる邪魔者も、傷つきながら必死で私を守ってくれた。


 だけど、ヒーローみたいに特別強かったりはしない。そこにあるのは、ヒーローのように燃える気概だけ。


 大きな背中を見せてくれた彼は、私に優しく微笑んでくれた。


 だけど、傷つきながら浮かべたそれは、どうしようもなく儚げで。だから私は、それを守りたくなったの。


 それから、私は彼に認められるように特訓を始めた。


 彼には絶対に知らせたくない、秘密の特訓。


 それを始めてから――彼は、だんだん、不機嫌になっていった。

 

 それを、私はまだ私が弱いからだと勘違いして、私はもっと特訓する。


 また、彼は不機嫌になる。


 負のサイクルが続いて、いつかサイクルが耐え切れずに壊れてしまった時、私も壊れた。


 でもね、後悔はないの。


 だって、いくら変わってしまっても、あの頃のことは、この胸の中で生きてるから。


 壊れた人形は、壊れていなかった時代を彩るために、


 今もこうして、彼の下にいる。



        ❄︎ ❄︎ ❄︎




 今日、ハロンドが朝食を食べに食堂に足を運ぶと、なんだかがやがやと騒がしかった。

 ハロンドが入り口から一目見ると、唖然とした。食堂の奥の席の辺りで、誰かを囲むようにして密集していた。

 誰も彼もが中に入ろうと躍起になっていて、それはまるで、砂糖にたかるアリのようでもあった。


「なんかあったのかよ?」


 ロファが訝しげに言った。


「ま、行ってみよう」


 ハロンドはその理由をなんとなく分かっていた。


「わっ!」


 タラが群衆の中から弾き出された。

 不満げに群衆を睨むタラに、横から声をかけた。


「タラ。これは一体?」


 タラは目当てのものに熱中するあまり、ハロンドたちに気が付かなかったようで、とても驚いたように跳ねた。


「びっくりさせないでよ、もう!」


 今度はハロンドを睨んできた。

 ハロンドは苦笑した。


「そんなつもりはなかったんだけどね。で、あれは?」


「今日、女子寮に突如ものすごい美人が現れてね、その人見たさにみんな押し合いへし合いしてるの」


 ものすごい美人と言われれば、思い浮かぶのはあの人しかいない。


「あー。学年会議にいたなー。確か名前はイサーシャだっけ」


「え!知ってるの!?」


「そりゃあね。いたし」


「ええー。いいなー」


 タラは心底羨ましげに言った。


「いや、これから嫌でも見れるぞ。授業とか、たくさん機会がある」


「なんか元気になってきた」


 ロファが茶々を入れる。

 

「単純すぎるよな、タラって」


「ロファは引っ込んでなさい」


「俺だけ扱い酷くない?」


 無駄話をしながら、自然と足はカウンターに食べ物をとりに行っていた。

 

 ハロンドたちが氷のように無表情な食堂のおばさんの前に立つと、注文なしで高速でお盆に乗った朝食が出てきた。もちろん、朝食はほかほかだ。

 一週間もあれば、このシステムにも慣れるものである。

 お盆に乗った朝食メニューを受け取り、手頃な席に向かっていると(今日はイサーシャに人が群がっていたため席がガラ空きだった)、綺麗な声がハロンドの耳に入った。


「ハロンドさん」


 昨日聞いたばかりだ。間違える理由もない。これはイサーシャの声である。

 反射的に振り返ると……すぐに後悔した。

 イサーシャは群衆を掻き分けてこちらに向かってくる。その堂々とした雰囲気に、彼女の進路上にいた生徒が、思わず道を開けていた。

 その立ち振る舞いに、思わず目眩がした。もしかして、この少女は自分に色目を使うつもりなのか?


「……なあイサーシャ、それに男を誑かす意図はないんだよな?」


 その問いに、イサーシャはきょとんとした面持ちで答えた。


「何をおっしゃってるんですか?」


 ああ駄目だ。無意識だ。自分の溢れんばかりの魅力に気がついていない。


「まあそれは良いとして、どうし……」


「なあなあ、今日一緒にご飯食べないか?みんなと食べる方が断然良いだろうしよ!」


 ハロンドはロファに割り込まれ、ロファに冷たい視線を送った。ロファは気づかないふりをして、イサーシャの返答を待った。


「そうですね。一緒に食べましょうか」


 いや、ロファはハロンドの視線に気づけなかったのかもしれない。なにしろ、それとは比べ物にならないほどの妬みと嫉妬の目線が、後ろから突き刺さっているのだから。

 イサーシャはそれさえも気にならないのか、微笑を浮かべて了承していた。

 タラもロファに冷え冷えとした目線を送っていた。



「なんだか、質素な食事ですね。最強を目指す学校なのですから、もっと食には力を入れているのかと思っていました」


「ああ、それは俺も思ったぜ!けどまあ、順調に強くなれてるし、問題ないだろ」


「そうなのですか?素晴らしいです!」


「えへん」


 イサーシャに褒められたロファを、ハロンドとタラ、その他大勢が冷めた目で見ていた。


「とはいえ、栄養バランスなんて欠片もない食事をして、体調を崩したりしないのでしょうか?」


「ああ、それは大丈夫だと思うよ?」


 今度は、目玉焼きにこしょうをかけていたハロンドが答えた。

 

「そうなのですか?」


「うん。みんな、緊張が張り詰めて発熱したとか、破傷風とかも一切かかってないしね。多分、体調管理のレリックでも仕組んでるんじゃないかな?ここ、レリック天国だから」


「なるほど。ここには、たくさんレリックがあるのでしょうね」


 イサーシャは行儀よくご飯を口に運んだ。

 その時、タラが少し大きな声で言った。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったよね?私は()()()()()()()()、タラです!」


 親友、というくだりを強調して言った。イサーシャに分からせているようだった。


「俺はロファだぜ。こいつらの親友してる」


イサーシャは頷いて、返事をしようとした瞬間、邪魔が入った。


「ああ、俺も自己紹介が必要かァ?俺はガンムだ」


「……っ」


 ハロンドはガンムを警戒しながら、目玉焼きの黄身にかぶりついた。ロファとタラも警戒心を丸出しだ。

 しかし、イサーシャは気にせず笑みを浮かべて返事をした。


「ご存じかもしれませんが、私はイサーシャ。お願いいたします」


 純粋無垢なその笑顔に、タラ、ロファ、ガンムは息を詰まらせた。完全に毒気を抜かれたのか、タラはむぅという顔になり、ロファはやれやれといった風に頭を振りながらも顔を赤く染め、ガンムでさえけっと舌打ちして去っていった。

 イサーシャの凄まじいスマイルパワーに、ハロンドは笑いを堪えていた。

 

 その後、質問してみた。


「なあイサーシャ、何で僕らと食べようと思ったの?」


「私に唯一群がって来なかったので、静かに食せるかなと」


 妥当な答えが返ってきたのだった。

評価してくれそうな顔をしているそこのあなた!ブックマークなどもよろしく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ