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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
22/38

二   破剣の通常技訓練②

「じゃあ次はタラの番だね」


「えっ、ロファがされてたことを私もやるの!?」


「そうだけど」


 タラは滅茶苦茶驚いているが、ハロンドはどこに驚くポイントがあるのか分からない。なので真顔で答えると、ロファとタラは呆れた表情になった。


「なんというかハロンドさ、めちゃ強いクセにそっち系は鈍いとか、どこの主人公だよって感じ?」

 

「分かるぜタラ、だとしたら俺らは最初ら辺に死ぬ友人Aと Bだな」


「おお友人B、初っ端からフラグ立てるとはいい度胸してますねえ」


「何言ってるの君たち」


 今度はハロンドがそんなことを言っている二人に呆れ顔を作った。ロファとタラは釈然としない顔をして、(ハロンドにはそう思われたくないなぁ)と思った。

 ハロンドは区切りを付けるようにパンッと手を叩くと、言った。


「時間も惜しいし、そろそろ始めようか」


 ハロンドはそう言って、タラに歩み寄る。


「え、あ、いや、ちょっと!」


 タラは少し赤らめた顔で慌てる。その様子になんだか楽しくなってきたロファは、ハロンドには聞こえない小声で「ちょっとばかし過激だから、覚悟しとけよ?」と耳打ちすると、十数メートルくらい距離を取った。


 ハロンドはいつも通りの笑みを浮かべながらタラの背後に回ると、身体をぎっちり密着させる。ハロンドの体温が直接伝わってくる。

 思わずタラは飛び退いた。


「む、む、無理無理!恥ずかしすぎる!」


「恥ずかしい?どうして?」


 ハロンドは首を傾げる。


「ちょっと身体を重ねるだけじゃないの」


「かさっ……」


 タラは違う妄想をしてしまったのだろう、さらにかぁっと赤面する。ロファは「やーい、恥ずかしがり屋ー」と茶化す。タラは潤んだ目でロファを睨んだ。


「ほらほら、抵抗しないでやるよー」


 ハロンドが近づくと、タラはさっと離れる。なので、ハロンドは困ったように目尻を下げた。


「うーん、そこまで嫌がられたらショックだけど……。しょうがない、ロファ、二人で残りの通常技覚えきっちゃおう」


「分かったぜ」


 ロファはタラを見てニヤニヤしながら頷いた。

 タラはロファの顔を見て、からかっているのが丸分かりでむかついた。でも、ロファに通常技を先を越されるのにはもっとむかついた。だから、叫んだ。


「ま、待ちなさいよ!く、くっついていいから、通常技教えなさい!」


「分かった」


 ハロンドは頷き、タラの方に向かった。

 タラの背後に回り、やや過度に接触する。この時点でタラが茹でダコと相違ない顔色になったのはいうまでもない。ロファは口に手を当て笑いを堪える仕草をして、それをタラが涙目で睨み、ロファは堪え切れないというかのように顔を伏せた(多分笑っている)。

 タラは思わず呟いた。


「わ、私、もう茹で上がりすぎて破剣使えないかも……」


「何言ってるんだ。ほらほら、詠唱」


 ハロンドがタラの耳元で喋るせいで、息が耳にかかってぞくぞくっとした。だが、悪気のないハロンドに指摘するのはそれとなく憚られたし、ロファも我慢していたのでじっと我慢する。


「うぅ……。破剣・散受散龍」


「準備はいいな。ロファ、さっきのタラみたいに斬りかかってきてくれ」


「おう」


 ロファは返事しながらゆっくりと走ってきた。

 その顔は相も変わらずニヤニヤしている。


「うぅ……」


 これ以上赤くなってはロファの思うつぼである。タラは剣をびしっと構えるように意識した。

 何も言わないハロンドに不安になって、タラは聞いた。


「ね、ねえ、そろそろじゃない?もう受けていいよね?」


「いや、まだだ」


 吐息がどうにもくすぐったかった。


 一秒にも満たない時間が経って、ハロンドは突拍子もなく言った。

 

「すごく、幸せだと思わないかい?」


「え?」


 タラは振り向かずに目をしばたいた。


「こうやってさ、君と接していることが、さ」


「〜〜〜っ」


 タラは声にならない呻き声を少しだけ上げて、一秒も経たないうちに無理やり押し殺した。まるで、自分にはうめく権利はないとでもいうように。


「とってもいいなあって思うよ。拙い言葉かもしれないけどさ、君と会えてよかった。君とこの時間を共有できて良かった。純粋に嬉しいよ」


「〜〜っ」


 さっきよりも短かったけれど、またタラは悶絶した。

 ハロンドは一段声を低くして言った。


「でも、そんな僕らの時間を引き裂こうとする不届き者がいる。許せないと思わないかい?」

 

「……!」

 

 タラの目に火が宿る。

 ロファはもうすぐそこだ。


「僕と接している部分に集中するんだ。自然とタラだけの道ができるはずさ。その道の片隅でもいいから、そこに僕がいたらいいな」


 鬼気迫るという表現は、今の彼女のためにある言葉なのだろう。

 そう思えるくらいの気迫で、ロファの一撃をがつんと受け止めた。


「うおっ!?」


 あまりの衝撃に切り掛かった側のはずのロファが仰け反りそうになって堪える。ロファが彼女の顔を覗きこむと、そこには殺気立った、思わず恐怖を覚える顔があった。

 これから起こることがなんとなく予想できて、心の中で(親父、帰れそうにねえわ……。すまん)と謝った。


「ハァッ!」


 タラはそのままロファの木剣をかち上げると、空いた胴に鋭い突きを入れた。ロファは数メートルくらい飛ばされた。


「ロファ!」


 ハロンドは叫んだ。

 幸い木剣だったので死にはしなかったが、かひゅー、かひゅーと今にも死にそうな呼吸音で、死体のように転がっていた。

 きちんとロファが呼吸しているのを確認すると、ハロンドはタラに呆れた目を向けた。


「おいタラ。何突いちゃってるんだよ」


「……はっ。私は一体何を」


「うん派手にロファを転がしたよね。謝った方がいいぞ」


「いやあれはハロンドが……その、あの……」


 初めは勢いよく突っ込もうとしたタラだが、その時のことを思い出したのか急にしどろもどろになる。ほんのり頬を染めて、指をうじうじさせているのが可愛らしかった。


「お、おい、タラ。うつつ抜かしてる暇があれば、俺をいたわれ……かひゅっ」


「あ、マジのまんじでごめんねロファ!」


「謝るならせめてふざけずに言ってくれ……かっひゅ」


 ハロンドは、聞こえてはならない呼吸音が聞こえたのは気のせいだなと思いながら、哀れなロファと、彼に駆け寄るタラを、満足げな笑みを浮かべて見つめていた。


 ロファが落ち着くと、彼はタラを睨みつけた。こればかりはしょうがないと思ったタラは、手を合わせて謝った。


「ごめん!」


 すると、意外にもロファは神妙な顔つきで何も返事をしなかった。


「ロファ?」


 心配になってタラがもう一度聞くと、ロファは聞いてきた。


「好きなのか、お前」


「は?」


 突然の問いにタラはつい反射的に言った。何を聞かれたのか理解が追いつくと、顔が熱を持ったことがわかった。


「ハロンドのことだよ。まー惚れちまってもしょうがねえよなー。授業の実技分野で何回もピンチを助けてくれて、一人で教師に立ち向かったこともあって、何よりラルクの対応もかっこよかった。おまけにさっきの超密着プレイだ。これで好意を抱かない女がいれば聞いてみたいってもんだ」


「……」


 ロファの言っていることは間違っていない。自分が少なからず好意を寄せているのは確かだし、超密着プレイは心臓がとてもうるさくなって仕方がなかった。


「な、聞かせてくれよ。これでも恋バナは好物なんだわ。俺を突いた謝礼としてさ」


 そのことを持ち出されては、タラは答えない訳にはいかなかった。

 タラはため息をつき、目線を逸らして言った。


「好きだよ、私。ハロンドのことが」


 ロファは目を丸くしたが、ようやく素直になったか、と口角を上げた。


「へーえ。それは恋愛的なものなのか?」


「よく分からない。もしかしたらそうかもしれないね。一回も恋したことないし」


 それを聞いたロファは、ここぞとばかりに揶揄ってくる。


「おっ、それはいいことを聞いたぜ。それは恋だぜ、間違いなく。いつ告るんだよ、なあ」


 タラは苦笑いを浮かべた。


「告白するにしてもさすがに早いでしょ。それに……私はいくらハロンドのことが好きになったって、付き合う気はないわ」


「ふーん?」


 ロファは適当に相槌を打ったが、興味津々なのは間違いなかった。


「私はね、憧れたの。かっこよく私を守ってくれて、培った技術でがむしゃらに教師たちに食らい付く彼を心から尊敬した。ロファも、だからハロンドと一緒にいるんでしょ?じゃなきゃいるメリットがないもん」


 ハロンドは強い。おそらくはクラス一だろう。

 だが、味方がロファとタラ以外にいない。対して、ほぼ敵対関係にいるガンムには大勢の生徒が群がっている。これはハロンドが積極的に誘致してこなかったせいなのだが、あまりに不利すぎるのだ。

 ほぼ一カ月後に控えるバトルロワイヤルに、恐らく()()()()()()()()()()()()()()。つまり、このままいけば三対二十の構図が出来上がり、敗北は必至となる。三人死ぬ、とシンスは言っていたので、ちょうど全員死を避けられない。故に、ハロンドについていくことは死ぬのと同義だった。


「ま、そんな感じだな、俺も。この学校で初めての朝に最初に話しかけて、ちょっとばかし仲良くなってたのにこの一週間何もできなかった。俺は恩返し的な想いのほうが強いな」


 尊敬と、恩返し。

 それは二人に共通する友情(想い)なのかもしれない。


「彼は強い。私が隣にいて、何ができると思う?足を引っ張ることだけだよ。そんなのは私が許さない。私はハロンドの邪魔にならないでハロンドの手助けをする、そんな存在になりたかったんだから」


 ラルクが死んだ時、タラはつい思ってしまった。

 私の尊敬するハロンドにはこうなって欲しくないな、と。

 思った瞬間に、死なせてしまったラルクに申し訳なくなってすぐに霧散した。

 自分は弱いから、できることは限られる。だったら、強いハロンドの邪魔は一番してはいけないことだと思った。すると、ハロンドのことを好きになってはいけないなとも思う。恋は盲目というが、そのせいでハロンドの障害になりたくなかった。そう思ってから、まるでもうハロンドのことが気になってると自覚したようで恥ずかしくなったのは別の話だ。


「ふーん?」


「……納得しないの?」


「それ、本心じゃなさそうだったからな」


「……変なところで鋭いのね、あなた」


 タラはため息をついて、一応本心だったわよ、と付け足してから、


()()()()()()()()()()()()の。ロファなら分かるんじゃない?」


「……どういうことだ?」


「分からないかー」


 そう言って、タラは曖昧に笑った。


「ハロンドに向ける尊敬の念が愛情に置き換わった時を想像すると、どうしても怖くなるんだ。私の求めたハロンドが、どっかに消え去っちゃうんじゃないかって」


 相手への印象というのは、相手へ抱く感情によって大きく左右されるものだ。その感情が愛一色に染まり切った時、尊敬した相手が自分と同格に()()()()()()()()()()()()()()()、と思って、ぶるっと震えたものだ。

 尊敬とは、自分より格上の相手を尊び、敬うこと。己と同等だと驕り、抱いてもらうのとは全く違うのだ。


「そか。難儀な性格してんだな、お前も。もっと愚直になりゃいいのによ」


 タラは無理だとでもいうふうにふっと笑う。


「それは親が決まって産み落とされた時から決まってしまったこと。あんたも、私と似たようなもんじゃないの」


「どうしてそう思う?」


「私には、私とあんたがとても酷似しているように見えた。それだけが理由ね」


 ロファはタラの眼を見た。全てを見透かされているような気がして、ロファは目をそらす。


「男に生まれて来て良かったって、心底思ったわ」

 


 

 

ただ今中間テスト直前だということ、ここまでの本文を推敲し直したいのもあり、やや投稿が遅れるかもしれません……


書いてなかったらいらないと思われるらしいので、評価諸々よろしくッ!!

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