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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・掌の上で踊れる少女
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一   破剣の通常技訓練①

 






 いつまでもラルクの死を引きずっている訳にはいかなかった。彼の死から数十分も経てば、ハロンドたちは立ち直り、いつも通りのテンションで、自主鍛錬を始める。


「なあハロンド。どうすれば強くなれるんだ?具体的な鍛錬方法を教えてくれ」


 剣術初心者であるロファとタラの質問はごもっともだった。

 そもそも、初心者であるロファとタラが破剣を使えることこそ異常なのだ。破剣が使えて剣技が素人というのは皮肉といえた。


「もちろんだ。まずするべきなのは素振りかな」


「素振り……。剣の稽古の定番って感じよね」


「ああ。剣を握っていると、違和感を感じないか?」


「感じるぜ。両手の力を全部木剣一本に集中させている感覚がどうにも」


 その違和感は初心者にありがちなものだ。

 慣れないうちは上手く剣に力が伝わらず、威力も下がる。奇剣の類いも例外ではないため、この違和感を消し去り、剣の扱いに慣れることは急務なのだ。


「立ち回りや戦い方は、最悪授業で学べばいい。この時間でそれを僕から学ぶよりも教師から学ぶ方が多いはずだし、何より時間が惜しい」


 ロファとタラは頷いた。


「分かった。じゃ、素振りをすればいいな?」


 すると、ハロンドは首を振る。


「いや。それは隙間時間にでもやってくれると助かるな」


「どういうことよ」


 タラが眉を寄せて聞いた。


「今タラとロファってさ、破剣何が使える?」


「特殊技だけだな」


「それってやばくない?」


「なんで?」


 タラは首を傾げる。


「型が一つしかないってことでしょ?その型だとどうしても対応できない奇剣が来たらどうするの?」


「……確かにな」


 ロファは頷いた。


「だから今日は、十ある通常技を全部、覚えてもらいます!」

 


「「ええーーっ!?」」



 タラとロファが叫んだ。


「いや十って!覚えられる訳ないだろ!」


「そうだよ!ハロンドも無茶ぶりすごいよね!」


「ありがとう?」


「褒めてないよ?」


「知ってた」


 ハロンドは苦笑する。自分でも少々無茶をしているのは分かっている。だけど、これだけは間に合わせなければいけない。


「理解してないと色々困ると思うから、まずは解説するね。まず、奇剣のうち破剣と魔剣にはそれぞれ十の通常技があります」


「神剣は?」


「ある訳ないじゃん」


「どうして?」


「神剣ってのは文字通り『神』の領域に踏み入るほどの威力のある、剣の極意中の極意中の極意なの。だから、こればかりは特殊技しか存在しないんだよ」


「ふーん……?」


 ハロンドはまた苦笑する。


「剣を極め続けてたらいずれ分かるようになるさ。どれだけ渇望しても届かない、その高みが」


 ロファはふーんと聞き流す。


「そういうもんか」


「そういうもんよ。解説を通常技に戻すよ。通常技は他の人にも使える仕様になっているせいか、独自の特殊技に威力は劣るよ。さらにその型は相手も知ってるから、特殊技に比べて不利な点が多いね」


「へえ。ちなみに通常技って誰が作ったの?」


 その問いに、ハロンドは思わず呆れ顔を作る。


「タラさあ、話が脇道にそれることばかり聞くよね」


 ロファもハロンドに賛成する。

 

「ハロンドに同意」


「興味が湧くんだからしょうがないじゃん」


 タラがぶーと言った。


「別にいいけどね。通常技は、大昔生きていたらしい女の人が編み出したらしいよ」


「随分曖昧だな」


「大昔の話だからね。本当にこの人が生み出したのかって疑問を持つ人も大勢いるし」


「そうなんだ」


「そもそも奇剣ってさ、まだまだわからないことばかりだからね。使える人が少ないからしょうがないんだけど」


 ロファが不思議そうに言った。


「そんなに少ないのか?このクラスなら全員が使えるけどな」


「この学校が異常なだけだからね?」


「確かに!」


 彼らは笑った。

 ひとしきり笑ったところで、タラが話を戻そうとする。


「で?なんだっけ、ああそう。通常技教えてってところだね」


「そうだったね。うん、解説はもうおしまいでいいかな。実技演習といこうか」


「……ハロンド、実技って言うのやめてくれ。悪夢が……」


 げっそりとしたロファの言葉に、ハロンドとタラがまた笑った。



「まず基本となるのは“散受散龍”っていう受け技だね。攻撃を受けるだけの、基本的に攻撃力はない破剣だ。だから使用頻度はあまり高くないんだけど、どうしても受けたいって時はよく使う技だね。試しにロファ、特殊技で僕に斬りかかってよ。僕は散受散龍使うからさ」


「いいのか?俺のは少し特殊だぞ」


「一回、見てみたかったんだ」


 ハロンドは微笑して、剣を構える。


「さあ、おいで」


 その構えを見て、ロファとタラはハッと驚く。

 全く隙もない構え。彼の構える剣は細い木剣でありながら、その防御を掻い潜れる未来が一つも見えない。あれは教師たちのような理不尽な基礎体力の差から成し得るものではない。血の滲むような努力の末に手に入るものだ。汗と血の結晶のようなその構えに息を呑みながら、ロファが呟くように言った。


「いくぜ……。破剣・真破剣華」


 ーーーっ、速い!意識していなければ目で追えないほどだった。

 

 奇剣の特殊技は、その性質によっていくつかに分類される。ガンムとファーの合わせ技「凶の煌めき・狂の騒めき」や、サランの「結絆氷角」のように、味方を巻き込む協力系の決め技や、ハロンドの「姿創克顎」のような搦め手を使う技、ロファの「真破剣華」のような単純な速度強化など、様々なタイプが存在する。中でも優秀と言われるのがロファのような強化技だ。一時的ではあるが、圧倒的な能力向上で差をつけられ、単純な威力も高いからだ。


 ロファの大幅に速度が強化された破剣は脅威だが、いかんせん熟練度が低い。なのでまだ、ハロンドなら簡単に受け止められる。


「破剣・散受散龍」


 ロファの一撃はハロンドの木剣に受け止められ、それ以上進むことはなかった。


「……いやー、流石だなハロンド。俺の全力も全く歯が立たんかったわ」


 ロファはからからと笑った。ハロンドは彼に驚嘆の声をあげる。


「お前の特殊技はすごいな。伸び代だらけだ。特に速度の強化率が尋常じゃない」


「そうなのか?」


「有望だよお前。で、僕の散受散龍見てた?」


「ええ。散受散龍って言って普通に受け止めてるだけに見えたわ」


 ハロンドはちっちっちと指をふって否定する。


「それが違うんだなー。通常技を使うには、自分の身体を巡る力を意識しなきゃいけないんだ」


「「……は?」」


 ロファとタラは呆気にとられたようだった。


「冗談じゃないよ。中二になった訳でもない。不思議なことに、通常技を使う時だけ、血管のように体中を駆け巡る力を意識できるようになるんだ。これは究極のゾーン(奇剣)状態って呼ばれてる。ちなみに、特殊技は自動的にこの奇剣状態を維持してるらしいよ」


「「はぁ……」」


 ロファとタラはあまり分かってなさそうに呟いた。そんな彼らに、ハロンドは思わず頭を掻いた。


「物は試しだ。やってみよう」



「破剣・散受散龍!」


 ハロンドの破剣でさえない普通の斬撃を、ロファが破剣を叫んで受け止める。ハロンドの刃がびくともしないくらい上手く受け止められていたが、ロファもハロンドも渋い顔をしていた。


「破剣であって、破剣ではないな……」


 普通の斬撃を破剣で受け止めるとなれば、一目で圧倒的な力量差が分かるくらいになるはずだった。だがロファの破剣はそうじゃない。


「半掛けの破剣ってとこか?ハロンドの言う“血脈のような力”っつーのがよく分からねえんだよなあ」


「私も……」


「そうか……。よし」


 ハロンドはロファの背後に回り、背中を密着させて、後ろからロファの両腕を掴み、「抵抗せずに僕の指示に従ってね」と囁いた。吐息が耳に当たってくすぐったかったのか、ロファは一瞬びくっとする。


「おいっ、こんなにひっつく必要性があるのか?」


「あるぞ。奇剣習得には習得済みの人にできるだけ接してもらうのは結構常識だぞ。習得済みの僕の“血脈のような力”と触れることで、意識しやすくなるからね」


 そう言われてしまえば、もうロファに言うことはない。


「……そうかよ」

 

「タラ、試しにゆっくり斬りかかってきてくれ」


「ちょ、何する気なんだよっ」


「オーケー。任せてっ!」


「ちょ、ま」


 慌てるロファに対して、タラはばっちぐーと言った感じで、ゆっくりとこっちに走ってくる。実際には早足程度の速度だが。


「ロファ、詠唱だ」


「お、おう……。破剣・散受散龍。これでいいか?」


「ああ」


 一秒が経った。


「おいハロンド、いい加減に早く受け止める動作をしないと!」


 元々タラとは十数メートルの距離があったとはいえ、もうすぐタラの刃先が届くレベルのところまで来ていた。


「ハロンドッ!」


 焦ったロファが思わず叫ぶと、ハロンドはロファの耳元に甘く囁くように言った。


「目の前にさ、危ない刃をもって僕らの密着する最高なひとときを邪魔しようとしてる不届き者がいる。僕らを邪魔するなんて有り得ない。そうだろう?だから弾き返すんだ」


「……」


 ロファは答えられなかった。

 同性だというのに、完全にハロンドの色気に呑まれていた。

 気づけば煌めく刃が目の前に迫っている。


「強く意識して。君は一人じゃない、僕と二人で跳ね返すんだ。僕らのたった一週間で築き上げた、最高の友情の力で」


 友情。

 熱く、楽しく、愉快で、固くて、最高でーーー青臭い絆で結ばれた、尊いもの。

 ロファはハロンドと接している背中が熱くなるのを感じた。

 タラの軽い一撃が肉薄する。

 その刃がもう自分に到達すると思った。

 もう足掻けない。木剣を合わせるにはもう間に合わない。

 どうすればいいんだ。

 


「受け止めるんだ!切り返せ!僕らは終わらない!こんなところで終わらせていい物語なんて、誰も望んでいないし、僕が許さない!!」


 

 ハロンドが叫んだ。

 受け止める。そして切り返す。

 ハロンドと接しているところを意識しろ。そこから自分の全力、いや世界の全てから自分の奮える力を絞りだせ。

 ハロンドに助けられるのは、今日だけはもう終わりにしようと、ロファは思った。

 ロファも雄叫びを上げて破剣の凄まじい剣速で木剣を振り上げる。


「おおおおおおおおお!!!」


 その瞬間、全ての動きが止まった。

 ロファがタラの一撃を完全に止めた。けれどタラはなお力を込め続ける。だが、びくともしない。おかしいとタラは思った。普通なら、力の押し合いで少しだけ剣先が震えるはずなのに、それがびくとも動かない。

 これが破剣かと、タラは痛感した。ロファの方が自分よりも早く習得したことに少し悔しく思いながら、もう終わりだと思って力を緩めようとしたその時だった。


「ーーーっ」


 いつの間にかロファは、タラの剣をかわして、タラの首に剣先を突きつけていた。

 速、過ぎる。

 何、今の。全く見えなかったんだけど。

 まさか、破剣の残り香でここまで速く動いたの!?

 首筋に変な汗が滲んだ。


「おい、ロファ、やり過ぎだ」


 ハロンドが今のロファの動きがさも当然かのようにたしなめた。


「あ、すまん。つい乗せられちまってな」


 ロファはタラに一言謝ると、バツが悪そうに口をすぼめて頭を掻き、木剣を鞘におさめた。


「タラ?」


 ハロンドが心ここに在らずといった感じのタラに声をかけると、タラは今気づいたと言わんばかりにびくんとして、あわてて茶化すように言った。


「もー、ロファさ、もうちょっと早めに受け止めてよ。いつ受け止めるのってどきどきだったんだよ?」


「あー、それはすまん」

 

 ロファが目を逸らしながら謝った。

 まさかハロンドの甘言に惑わされていたとは言えないだろう。ハロンドはロファの内面を想像してくつくつと笑った。

 タラは調子が戻ったのか、ぷりぷり怒るように抗議した。


「てかあそこまでやんなくていいじゃん!木剣なのに命の危機感じたんですけど!?」


「あー……。それもすまん」

 

 それも、僕の言葉に惑わされただけなんだよなあ。

 ハロンドは愉快そうに笑った。

 


 

 

評価諸々よろしくッ!!(正直に乞食)

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