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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・序章
18/38

十七  脱皮に失敗した寄生虫

キリがいいので今回は短め

「……お前たちー、よーく頑張ったねぇ」


 気怠げに引き延ばされた語尾。なのに場違いにピリピリとした雰囲気は、もう慣れたものだ。


「僕の目論見通り、破剣は扱えるようになったんだねえ」


 ハロンド君の言った通り、シンスの目的はそれだったんだ。


「いや、よく頑張ったねー。いやー、うん、すごいと思うよー?」


 全くすごいと思って無さそうな口調でそう言った。僕らはシンスの言葉の全てを無表情でやり過ごす。


「まずは破剣。この学校の第一関門といっても過言ではないねえ。これができなければここで生き残るのは不可能だ。ここまでは努力やら何やらで誤魔化せるからなあ。第二関門として授業の実技内容。これから徐々に難易度が上がるよ。誰かが魔剣を使えるようにならないときついかもねー。ここで君たちがふるいにかけられるんだー」


 シンスは面倒臭そうにしながら言う。シンスは長いこと喋ると、よりだるそうな素振りを見せる傾向がある。


「最終関門。精鋭三十人での一人の先生討伐だー。授業で雑魚から死んでいき、先生殺しで馬鹿から死んでいく。いいシステムだよねえ。ちなみにー、最終関門は失敗すれば生徒全員撫で斬りになるからねえ。ふつーは成功しても五人以上は死ぬから、人選はちゃんとした方がいいよー」


 言い切ると、シンスは大きな欠伸をする。寝起きのように、目をこすった。


「あーあ、疲れたー。で、最終的に何が言いたかったんだっけ?……ああ、そうだ。第一関門さえ突破できない奴はいらねえって言いたかったんだー。ねえ、ダーラルク?」


 そう。

 この七日間で、唯一僕だけが破剣を習得できなかったんだ。

 どんなに頑張っても。

 どれだけ激しくママのところに帰りたいと思っても。

 どれほど強く剣を握ろうと。

 その奥義は、ついぞ出せなかった。

 みんなは、ハロンド君やガンム君の叱咤激励のおかげで覚醒できたのに。


 僕は、シンスの()()()()という意味が分からなくて、つい聞き返してしまう。


「……え?」


「いやー、え?じゃなくてさー。最初に破剣使えなかったら生き残れないって言ったじゃーん?それってつまり、死ぬまでずっと仲間の足引っ張るってことじゃーん?だったらさー、足引っ張る前に死んだらどうですかって提案ー。別にちょっと死ぬの早くなるだけじゃん」


「あ……いや、」


 冗談、だよな?


「と、いうことで、死刑執行でーす」

 

 シンスは手を振り上げた。

 嫌だ。死にたくない。僕はもう誓ったんだ。生きて、ママを抱きしめるんだって。今度は僕がママを守って、幸せな家庭を作るんだって。


 けど、仲間の足を引っ張るのは、もっと嫌だ。

 脂汗が止まらない。口を開けてもまともな言葉が出てこない。ああ、もう、終わりなのか……?


「待ってください」


 その声の主はハロンド君だった。ああ、いつだって君は、僕を、僕たちを助け、守ってくれる。それがパララのためだったとしても、僕はたまらなく嬉しいよ。


「んー?どうしたー?」


「確かにラルクは破剣を使えません。ですが、彼は僕を何回も助けてくれた戦友です」


「確かにそうかもしれないねー。けどさー、君、ダーラルクのこと何回助けたのー?」


「……」


 そうだ、ハロンド君が僕のことを助けてくれた回数の方が圧倒的に多い。そして今回も助けようとしてくれている。僕はまだ、『寄生虫』のままだった。


「おい、ハロンドよォ」


 今度はガンム君が絡んできた。


「そろそろ善人ぶるのはやめたらどうだァ?本当は裏切り者のくせによォ」


 違う。彼はそんなんじゃない。共闘しながら僕は気づいた。あれは彼だけの、優しい、最高の剣技だと。

 だけど、今回はハロンド君にも味方がいた。


「授業中に突っかかってくるのはやめてくれよ」

「鳩尾かこめかみか、選ばせてあげる」


 ロファ君とタラさんだ。とっても頼もしい、ハロンド君の友達だ。彼らはガンム君のことを睨んだ。


「あァ?」

「やるの?二対一だけど」

「こっちには従者のファーもいるぜェ」


 だが、ロファ君とタラさんは戦闘経験に乏しい。ガンム君を相手にしては勝てないので、気持ち消極的だった。

 一触即発の状態に、シンスが介入した。


「喧嘩しないでよー。今はダーラルクの処遇について話してるんでしょー」


 それを聞き、彼らは大人しく引き下がった(ガンム君は舌打ちしていた)。


「さてと。じゃあ死刑っつーことで。斬っちゃうよ?」


 ――ああ。

 僕は、死ぬのか。

 当たり前、なのかもしれない。

 寄生虫は寄生主にとって生きる価値はない。だから僕は死ぬべきだ。

 きっとシンスの判断は間違っていない。


「だめだ!」


 ハロンド君は叫び、柄に手を当てる。

 どうして彼はそこまで僕を助けようとするのか、考えてしまう。

 寄生虫を助けても利点はない。パララさんのためか。いや、違う。そういうのとは少し違う気がする。


 ――そっか。これは『優しさ』だ。ハロンドの先天的な優しさ。後天的な何かじゃなくて、ハロンド君の人格によるものだ。


「先生には敬語を使おうねー。あとこれはもう決まったことだから。昔の物語の台詞で言うのならーーーお前はもう、死んでいる」


 ハロンド君の優しさが沁みて、涙が出そうになる。

 だからこそ、ハロンド君は、僕が殺されるのを止めてはいけない。

 僕は死ぬべき存在で、ハロンド君は今後永劫生きるべき存在。

 それは覆らないのだから。


 シンスは僕の首の真上に剣を振り上げた。ハロンド君は尚も迎撃しようと構えるが、僕は手で控えさせた。


 ああ、でも、まだ死にたくないな。

 まだまだしたかったことも沢山ある。お花を摘んで、初恋の人に手渡して、告白してみたい。いじめられていたから、自信がなくてできていなかった。

 ママを抱きしめたい。彼女の優しさを一身に受け止めて、自分の全てを彼女に捧げたい。


 そう望んでしまうのは、罪だろうか。

 

 ハロンド君は怪訝そうに僕の顔を見てーーー絶句する。何故ならそこには、がくがくと震え、恐怖に涙や鼻水を垂らし、顔をぐしゃぐしゃにした、壮絶な顔があったから。


「お前ーーー」


 それでも、僕はハロンド君に微笑んで見せた。絶対にきちんと笑えていない。でも、そんな顔だからこそ、ハロンド君は僕の顔にある覚悟を読み取った。ハロンド君は悔しそうに歯噛みしながらも、引き下がってくれた。


 これから僕は、死ぬ。

 

 怖くて怖くてたまらない。それとママに申し訳なく思う。真っ先に、ママよりも早く逝ってしまうことに。

 そんなぐちゃぐちゃな感情の中、僕は一つだけ、ハロンド君に言いたいことがあった。


「いいかい?じゃあ、お別れだ」


 シンスが剣を振り下ろす。僕の首を掻っ切るまでに、僕は近くにいたハロンド君に囁いた。ハロンド君は大きく目を見開いた。

 その剣は僕の首を容易く落としていった。真っ赤な血が飛沫を上げ、近くにいたハロンド君にもかかる。けど、ハロンド君は避けようとはしなかった。真っ白な髪を、僕の真紅の血が染めていく。まるで、僕のことを血で髪に刻むように。

 ハロンド君は、僕よりも力強い覚悟を目に宿して、もう動くことのない僕に目を向ける。


「それは違う。僕は、ラルクという一人の人間さえ守れない、ひ弱な人間だ。ーーーだが、その言葉は一生、この胸にしまっておく」


 その目は誰かを射抜けるかのように強く。生徒たちは初めて見る死に騒然として。シンス先生は顔を伏せながら、愉しそうに顔を歪ませて。

 本当のデッドエルブ学校生活が、幕を開けることになった。

 

 

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