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センセー殺しは神剣に  作者: ぷー
一年生一学期編・序章
11/38

十   ハロンドとガンムの対立

今回は短め






 午後は剣技の授業だ。午前の実技分野の結果は……まあ、言わなくても察せるだろう。

 シンスが訓練場に入ってくると、ラルクを含めた数人の生徒がシンスに拒否反応を起こして痙攣したり、涙を流したりしはじめた。シンスは


「映える立ち姿だねえ」

 

 と言うだけだった。

 昨日のように奇剣の説明がなかったので、すぐに訓練が始まった。

 十数分も過ぎれば、絶叫の大合唱が響き渡るようになる。シンスは、それを半ば笑顔で躾けるんだ。

 前日と、変わらない辛さ。

 あまりのスパルタ。

 スパルタの語源となったギリシャのポリスも、これを見れば吐き気が込み上げることだろう。

 永遠の数時間が過ぎると、授業が終わる。


「ゆっくり休んでねえ。ばーいばいきーん」


 と言ってシンスは去っていく。

 小一時間ほど、彼らは倒れたままになっていた。






 《ダーラルク視点》




 僕は、とっても弱虫だ。

 それは自分がよく知っている。

 剣技の授業で真っ先にへばったのは僕だったし、シンスに一番拒否反応を起こして唯一お漏らしをしたのも僕だった。

 昔から、そうだった。

 だからかもしれない。

 僕がきっかけを作ったあの騒動は、()も忘れられないよ。




 その日の夜の寝室。あの後、全てをこなして全員寝転んでいた。

 明日も、今日と同じ授業なのだろうか。

 その明日も?

 また明日も?

 もしかして、永遠に?

 やだ、やだ、やだ、やだやだやだやだやだーーー。


「それは、みんな一緒だろーがよォ」


 どうやら、途中から声が漏れてしまっていたみたいだ。

 ガンム君の弱々しい声が耳に届いた。一日目のガンム君とは比べるべくもなかった。


「だ、だだだって、でもぉ……」


 弱虫の僕は、きょどりながら泣き出してしまった。ああ、自分だけ泣いて、なんて最悪な人間なんだろう僕は。みんなの白い目が見えるようだ。


「僕も、苦しいよ!」


 誰かが叫んだ。そうだよね、僕だけ文句言っちゃだめだよね。ごめんね……。


「みんな苦しいんだ。我慢しよう」


 ハロンド君だ。彼はすごい剣技がきれいだったから、一番鮮明に名前を覚えている。


「そうだよな……。我慢するしかないよな……」


 ローファ、だったかな。彼は重い声で言った。重い雰囲気が広がっていく。ああ、死んだ方がなしだと思えるような絶望だ。弱虫な僕は、すぐに死の欲望に縋りついて、結局死ぬのが怖くて辞めちゃうんだよね。本当にやになっちゃう。

 みんな、当初とは比べようにならないくらい弱々しい声をしていた。


 その時、だった。

 ガンム君が、何かに気づいたようだった。


「なあ」


 どうしたのだろう。


「ハロンドよォ、声が……軽くないか?」


 誰かがえっ、と言った。ハロンド君は硬い声で返した。


「どういう、ことだ」


「いやよォ、疑いたいわけじゃねえんだよなァ。そう思っただけだよォ」


「なら勘違いじゃないのか。それか本当に軽かったとしても、慣れてるだけだ。この感覚はもう、味わったことがある」


 二人とも、口調からは警戒の色が滲み出ていた。なんか、バチバチ火花が散っているように見える。やだなあ。やめてよ。


「そうだとしてもよォ、お前、あまりにも声が軽すぎなんだよなァ」


 僕からすれば、確かに少しだけ軽いけれど、大して変わらないように思えるけど……。ガンム君にしか分からない違いでもあるのだろうか。


「お前さァ、シンスと組んでたりすんのかァ?ーーーなんらかの交換条件で、自分だけこっそり軽くしてください、とか」


「……ッ!んなことするわけっ」


 ガンム君は畳み掛けるように言うんだ。


「前からおかしいと思ってたんだよなァ。なんでそんなに剣がうまいんだ?ここの教師に昔から稽古つけてもらってたんじゃないのかァ?入学する時もそうだ。俺だけ四肢を斬られたんだよなァ。昔からのよしみっつーことで、教師たちは遠慮して四肢を斬られずに済んだ。違うかァ!?」


 え……?ハロンド君、本当に?だとしたら、ガンム君かわいそう。いやでも、それがただの推測だっていう可能性もあるし……。


「ふざけるのも大概にしろ!声が軽いとか下らない理由でいいががりをつけるな!」


 だ、だよね!うん、この中に裏切り者も何もいるわけないんだよ!うん、そうだよ。きっと悪者なんていないんだ。

 ガンム君が叫んだ。


「じゃあ証拠出せよ!自分が潔白だっていう証拠をよォ!」


「ガンムだって僕がそうだっていう証拠ないだろ!」


「……あるぜェ」


「何?」


 ハロンド君は眉をひそめた。

 ガンム君は周囲の人間に問いただした。


「なあお前らァ。お前らは俺かこいつか、どっちが正しいと思うゥ?」

 

 生徒たちは迷うように互いに見合うと、半分以上の生徒がおずおずとガンム君に目を向けた。

 ガンム君は勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「だってよ。なあ裏切り者、裏切り者に相応しい応酬はなんだと思うゥ?」


 ハロンド君は悔しそうに歯軋りした。


「…………ッッ」

 

 あれ?

 なんか、ハロンド君が悪いっていうような雰囲気になってない?


「辛ぇ授業で鬱憤溜まりまくってんだよ。何、殺しはしねえ。だからよォ、いいだろ?少しくらいよォ!」


 ガンム君は枕を手に取ると、ハロンド君に向けて投げた。同時に布団を蹴ってハロンド君に近づく。

 弱虫な僕は、仲介に入るどころか悲鳴を上げることしかできなかった。

 ハロンド君は枕をキャッチして、それを盾がわりにしてガンム君を防いだ。


「ガンム!落ち着け!」


「裏切り者が、何が落ち着けだァ?聞こえなかったなァ、ああ!?」


 ガンム君は鋭い蹴りを入れたが、ハロンド君は読んでいたようで、すれすれで避けた。まだまだ応酬が続きそうだったが、別の冷静な声が割って入った。


「止まれ、ガンム。今裏切り者を袋叩きにしても利点が薄い。どっちにしろ、明日受ける授業は変わりはしないんだ」


 サラン君だった。もしかしてサラン君も、ハロンド君を疑っているの……?


「……っち」


 ガンム君はハロンド君から枕を乱暴に取り返すと、自分の布団に戻っていった。

 ガンム君は横になった。

 僕が再びハロンド君の方を見れば、ハロンド君は顔を伏せたまま、悲しげにガンム君の方を向いていた。

 僕は、何の言葉も発することができなかった。


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