零 長い長い結末の始まり
新連載!筆者の自信作
無骨な木製の廊下に、一人の男が歩いていた。
足音はせず、細い線をしていて、肌は白かった。袖から出るはずの拳も見当たらず、謎の多い出立ちをしていた。
やがて、大きな扉にたどり着く。
この先にとても偉い人物がいることは、扉を一目見ただけで分かる。なぜなら、その扉がとても大きくていかついデザインとなっているからだ。
男は扉の前に立ち、二回ノックする。「カルセニュートにございます」と声をかけても、返答はない。
だが、カルセニュートと名乗った男は手慣れたように扉を開けた。
赤い絨毯の先の大きな椅子にたった一人の少女が居座っていた。
その少女をうまく例えるとすれば、『美の神が人生を賭けて作った人形』といったところだろうか。世界の何よりも可憐で美しい、究極の少女。
だが、表情も人形のそれだった。人形のように焦点の合わない目、痩せこけた頬、ぼさぼさの髪、ぽかんと開いた口。そう、完全に死んだ顔だった。それでも世界一の美しさと断言できるほどの美貌はさすがと言うべきか。
カルセニュートは少女に近づくと、声をかける。
「今年の生徒について、報告に参りました」
カルセニュートの声には抑揚がなかった。乏しいという概念を飛び抜けている。機械の方がまだ感情というものを感じられるほどだ。そんな彼の言葉に無反応なのもしょうがないのかもしれない。
カルセニュートは資料を取り出し、一枚ずつ紙を見せていった。それには、生徒と思しき人間の似顔絵がずらっとあった。
だが、少女の瞳は何も映さないまま動かない。カルセニュートも何も言わない。五、六枚目に差し掛かった時、少女の瞳が揺れ動いた。
「何か、気になる人物でも?」
その声には、少しだけ抑揚があったような気もした。
少女が何か反応を示すことは、カルセニュートがこの報告をし始めてから初めてのことだった。普段は人形に絵を見せているようなものだったのだ。
少女が、ゆっくりと一人の少年の絵を指さした。
「ハロンド……。この者に、何か心当たりでも御座いますでしょうか」
少女はとてもゆっくりと頷いた。
「過去の全ての似顔絵を拝見しましたが、歴代の生徒にハロンドと似ている生徒は御座いません。ここまで純白の髪は珍しいですから。とすれば……」
カルセニュートは一人ごとのように呟く。少女は、作り物のような小さな口を開いた。
「見、覚え、が、ある……の。でも……きた、いは、しない。そんな、もの、は、とう、の、昔、に……」
聞き取れないほどに掠れた、けれどそれでも分かる、透き通った美しい声。カルセニュートは軽く瞠目して……一礼をした。
「そうですか。ハロンドにはたまに気をかけておきましょう。これにて報告を終わらせていただきます」
カルセニュートが絨毯の上を歩く時には、少女は死人のような顔に戻っていた……。
数千年間もの間停滞していた時が、今動きだす。
一番最初は短めです。次からは五千字前後、一週間に2,3個投稿していきます