中尉から大尉になった
「ねぇ!ねぇ!クロノちゃんが大佐に昇進したんだって!?」
「えっ!そうなの!?」
第35艦隊の、幹部の休憩室でキリエ・ハーツ大尉とマツリ•キリーク中尉が話していた。
幹部の休憩室といっても、椅子と机と自動販売機があるだけで、下士官・兵士の休憩室と変わらない。
ハーツ大尉とキリーク中尉は、クロノとは士官学校の同期なので、階級が違っても普通に会話をしている。
「元帥の孫娘ってのもあるだろうけど、それだけじゃなくて気品もあるわよね!」
「あるある!」
「それに、男性にも人気があるよね!」
「そうそう!お見合いの話が、ひっきりなしにきたらしいね!」
クロノは、人間関係の構築が上手で出世しても嫉妬する者は殆どいなかった。また、共和国軍のアイドル的な存在でもあった。
ハルマは、共和国軍第35艦隊の提督に呼ばれて、クロノと一緒に提督室に向かって歩いていた。
「昇進おめでとうございます。メロキ大佐」
「ありがとう!コウサ中尉!」
クロノの緑色の軍服の右腕には、大佐の階級章が縫い付けられている。特に功績はあげていないが、最高司令長官の孫娘だったので出世が早かった。
「コウサ中尉のお母様から、昇進祝いのメッセージカードが直筆で届きましたわ」
「仲が良いんですね・・・直筆とは」
「はい!仲良しですわ。直筆で、お礼のメッセージカードを送りましたわ」
クロノは、ハルマの実家に行った時に、ハルマの母親と仲良くなっていた。良好な関係でないと、直筆のメッセージカードでのやり取りはしない。直筆でやり取りをするのは、人生で1人か2人程である。3人以上と直筆でやり取りをすると、信頼関係は崩れやすくなる。
クロノの容姿は女性として魅力的で、言い寄ってくる男が多いのと、お見合いの話もあったりするので、ハルマと友達以上恋人未満のような関係を続けていけば、そういった事がなくなるのではないかと考えている。
クロノは結婚願望がないので、ハルマが戦死したらあの人が忘れられない等の言葉を言って一生独身でいるつもりである。
「メロキ大佐」
「コウサ中尉入ります」
ハルマとクロノは、ノックと挨拶をしてから提督室に入室した。
第35艦隊の提督であるコーツ・アソーク准将は、とても計算高い男性で、情勢を先読みして二等兵から准将まで出世した男である。
先読みのアソークと呼ばれていて、出世欲がとても強い。二等兵から出世した方が目立つからという理由で、士官学校に入校しなかった。
兵士はまず、訓練施設に配属された段階で、二等兵の階級が与えられる。半年後には、一等兵として部隊に異動してから、上等兵・兵長・伍長・軍曹・曹長・准尉と出世をしていく。
二等兵から、大尉や少佐まで出世をする者は多いが、将官になった人は少ない。
「座ってくれ」
クロノとハルマは、二人掛けのソファーに座ってから、アソーク准将の方を見る。
アソーク准将は50歳で、少し小太りの体系で黒髪である。
「まず最初に、コウサ中尉には、共和国軍の人事部から昇進辞令が届いてるよ。大尉に昇進おめでとう」
「自分は、特に何も功績を上げてないように思いますが!?」
「謙遜するな!昇進は、素晴らしい事だ!はっはっ!」
アソーク准将は、ハルマが無謀な作戦に参加させられてから戦死する計画を、上層部の動きと情報から推測していた。
ここにクロノを呼んで話しているのは、奇襲のコウサと交流があったとマスコミに話す時の証人の為である。写真やフォログラムだと、準備していた印象を与えてしまう可能性があるからである。
数分後に、階級章の授与式が提督室で行われた。
「ハルマ・コウサを大尉に昇進する!頑張ってくれ!」
ハマルは、敬礼をしてから階級章を受け取る。
「ありがとうございます!」
周りに居るクロノと幹部達は、笑顔で拍手をしている。
ハルマは、大尉に昇進してから10日後に、ハルマの母親のミラノ・コウサにモニター通信で会話をしていた。
幹部・下士官・兵士の各部屋には、モニター通信が出来る設備が管理されているが、コンピューターにより会話の内容は監視させれていて、民間人に軍事機密の情報が漏洩しないように、プライバシーに配慮した対策が取られている。
「もう大尉になったのね!」
「うん、早いよね・・・ビックリしてるよ。何か裏にあるじゃないかな・・・とか色々と考えてしまうよね」
ハルマが、頭に手を当ててため息をついている姿を、モニター越しに見たミラノは少し心配になったが、軍を辞めなさいとは言えなかった。
反乱軍の脅威は強大で、民衆は英雄を必要としている。自分の大切な息子が、とても大きい責任を背負っている事は、母親として複雑だった。
「また、家に卵焼きを食べに来なさい。クロノさんと一緒だとお母さん嬉しいわ」
「母さんの卵焼き楽しみだな。後は、焼きとうもろこしが食べたいなぁ」
軍人になってから、連絡がしやすくなったのは、ミラノには嬉しかった。民間や士官学校では、通信料が高いので、あまり連絡をする事が出来なかったが、軍人はかなりの割引がある。
「焼きとうもろこし!良いわ作ってあげる!コウサ家に代々伝わる秘伝のタレで!」
ハルマは、少し話をしてから通信を終えて、勤務の準備をして部屋を出る。
ハルマは、大尉になってからすぐに、共和国軍第35艦隊・空母ストライクの艦長に任命された。
艦長職は、少佐以上が任命される事になっているが、ハルマは特別扱いをされている。
もちろん、英雄的な活躍をさせて民衆を喜ばす事が目的であるが、上層部は英雄として実績を作る事で戦死をした後に武勇伝を広めて、共和国軍の宣伝として使う為である。
ハルマが艦橋に入ると、3人の部下達が敬礼をして迎えたので、ハマルも敬礼をしてから艦長の席に座る。
「艦長!後30分で、目的地のナルド要塞に到着します」
副艦長のコロキ・ゼナール大尉が、ハルマに報告をする。
ゼナール大尉は、31歳とハマルより歳上で目つきが鋭くて厳つい顔をしているが、軍の人事に文句は言わない主義なので、ハルマが年下で同じ階級でも、艦長の地位にいるので敬語を使って話す。
「分かった!乗組員全員に知らせてくれ」
ハルマの指示で、通信士のキリーク中尉が乗組員に伝達をする。
キリーク中尉は、ハルマとクロノの関係について聞きたいと思って、機会を伺をうかがっている。
「艦長、船内放送終わりました」
「了解!ありがとう」
操舵手のトラ・ホーエン准尉が、皆に呼びかける。
「そうそう、艦長!ゼナール大尉!キリーク中尉!ナルド要塞で、美味しい唐揚げのある居酒屋を知っているんで、勤務終わったら行きませんか?」
ホーエン准尉は、35歳で黒髪の男性で人当たりが良くて、冗談もよく言うムードメーカー的な存在である。
ホーエン准尉は、階級をあまり意識せずに誰とでもフレンドリーに話すので、ゼナール大尉からの指導を受ける時がある。
「良いですね。二人は、どうですか?」
「お供します。ですが、艦長と副艦長が酒を飲むのは緊急事態の際に問題があるので、自分はお茶にします」
「私も、大丈夫です!」
「よしゃあ!勤務が終わるのが楽しみだぜぇ!」
艦橋の雰囲気は、和やかであった。
ハマル達は、共和国軍第35艦隊・第1分艦隊に配属されていて、分艦隊の司令官はクロノである。第1分艦隊の任務は、ナルド要塞で開発された新型の戦闘機を第35艦隊に輸送する事だった。
第1分艦隊には、巡洋艦・空母・補給艦の50隻で構成されている。
ハルマ達が楽しい話をしていてると、突然警報が鳴った。
第1分艦隊の旗艦・巡洋艦トールの艦橋では、緊急事態の対応をしていた。
「前方で、ワープの時空の歪みを観測しました!後30分程で、150の艦隊がワープしてきます!」
報告を聞いてから、第1分艦隊の司令官のクロノは、少しだけ考えた後に指示をだした。
「ワープから出た瞬間に狙い撃ちをします。陣形は輪形陣で、前方は巡洋艦、後方は空母及び補給艦。ナルド要塞の要塞司令官に通信を繋いで!」
「了解しました!」
クロノは、ナルド要塞の司令官のサラタ・ナード少将に現状の報告をした。
ナード少将は、クロノの事を嫉妬している女性の1人だった。
ナード少将は、綺麗な瞳と銀色の美しいロングヘアーで、男性の軍人達を魅了している。年齢は、メロキよりもかなり歳上だが、美しさを保つ為に色々と努力をしている。
「反乱軍を待ち伏せですかぁ・・メロキ大佐は、勇ましいですわねぇ・・・ナルド要塞司令官として、ナルド要塞守備艦隊に、50隻の分艦隊の出撃要請をしますわぁ」
「ありがとうございます!心からの感謝を!」
(慌てなさいよ!ナルド要塞守備艦隊は、430隻の艦隊よ!それを50隻しか援軍に出さないのよ!すまし顔で!)
クロノは、ナードの考えている事は容易に想像できた。それを知った上で、心を掻き乱す事を言った。
「反乱軍の狙いが不明なので、戦力を不用意に動かせません。大変だと思いますが、持ちこたえて下さい」
「了解しました!」
ナード少将の要請を受けた、ナルド要塞守備艦隊の提督のサトル・ヒーロ准将は、要請通りに50隻の分艦隊を出撃させた。
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