クロノ・メロキ中佐
ハルマが、トランズ星系で活躍してから2ヶ月が経過した。
ハルマは、共和国軍第35艦隊の旗艦の宇宙巡洋艦・ホニーの司令部に配属されて、マスコミの取材がある時以外は雑用をメインに業務を行っていた。
宇宙巡洋艦・ホニーの内部にある自室で、ハルマは、勤務の為の身支度をしていた。
「今日も勤務かぁ・・・まぁ、明日から三連休だし頑張るかぁ・・・」
ハルマは、ため息をついてからクローゼットから共和国軍の軍服を出した。
ハルマは、右腕に中尉の階級章が縫い付けられている緑色の軍服を着てから自室を出る。
艦内は、人工重力発生装置の効果で無重力ではないので、ゆっくりと歩いてホニーの艦橋に着いた。
ハルマは、上官のマナタ大佐に敬礼と挨拶をしてから業務を始めた。
「コウサ中尉は、資料の送信が終わったら、艦橋で通信装置のテストに行ってくれ」
「了解です!」
ハルマは、学生から飛び級で中尉になったので、知識や経験が足りなかったが、業務の殆どはコンピューターがやってくれるので、やる事は多いが仕事の殆どは、タッチパネルの操作と表示された指示通りに行う事がメインだった。
ハルマの現状は、マスコミ対応がメインなので怪我をしないように、レーザーガンの訓練や格闘技の練成は月に数回だけの勤務になっている。
ハルマは、資料の送信が終わったので、通信室に移動した。
タッチパネルを操作して、テストプログラムを起動してから5分程するとエラーが表示されたので、タッチパネルに表示された対処法通りに修理を行う。
装置の構造はとても簡単になっていて、重大な損傷以外は、誰でも簡単に修理やメンテナンスが出来るようになっている。
「コウサ中尉、昼休憩の時間ですよ」
「メロキ中佐。もうそんな時間ですか」
金髪の長い髪を三つ編みでまとめていて、とても美しい顔立ちのクロノ・メロキが、ハルマの後ろから話しかけたので敬礼をした。
クロノは、共和国軍最高司令長官サマール・メロキ元帥の孫娘で、士官学校を卒業して4年間で中佐まで昇進をした。
通常は特別な功績を上げなければ、4年間で中佐にはなれないが、元帥の孫娘という理由で昇進が早かった。
ハルマは、右腕の小型の通信装置を操作して、司令部に通信装置のテストと修理が終了したとメッセージを送ってから、クロノと一緒に幹部食堂に行ってから昼食のカレーを食べた。
幹部の食堂と下士官・兵士の食堂は分かれているが、メニューは一緒だった。
「そうそう、昨日発売したコナズタイム情報誌のインタビュー記事を読んだわ。かなり過激な内容だったわね」
「まぁ、軍人ですからね・・・はっはっ」
ハルマは、右手を頭の後ろにやって、苦笑いをしながら答えた。
クロノは、インタビューの内容は共和国軍の広報官が考えて、ハマルは渡された原稿通りに話している事も知っているし、自分の祖父達がハマルを英雄に仕立て上げてから、無謀な作戦に参加させてから戦死する計画がある事も知っている。
クロノは、ハルマが無謀な戦いで戦死をした後に、英雄のハマルと友好的な関係だったとマスコミに話して知名度を上げる計画を個人的に実行している。
クロノは、共和国軍最高司令長官の地位を目指しているので、軍内部のコネだけでたどり着くのは難しいので、ある程度は民衆の人気も必要になる。
ハルマは、クロノから2人だけの時は階級を気にしないでいいわと言われているが、ハルマは基本的には真面目な性格なので戸惑いが多くあった。
ハルマは、午後からの業務を終えて、三連休の休暇を過ごす為に実家のある、カターシ星に向かう為に小型の宇宙船に乗り込む。
移動中の宇宙船の中では、誰もハルマに話しかける者はいなかった。
奇襲のコウサとして有名になっているから話しかけづらい者、有名人みたいな扱いをされて気に入らない者と人によって理由は様々ではある。
ハルマは、共和国軍の英雄の孫だと小さな頃から色々な人に、素晴らしい軍人になれと言われたり、あいつ調子に乗ってるなとか色々と言われて、良い意味でも悪い意味でも他人からの注目を集めていたので、深い付き合いをする人はあまりいなかった。
宇宙船の中は、軍人達の会話やイヤホンから漏れる音がしていた。
ハルマは、窓の外を眺めながら眠って夢を見ていた。
『そうだな。共和国歴89年は、忘れられない年になりそうだ・・・共和国軍の英雄には、感謝だな。ふっふっ』
夢の中では、最高議長のサムラの声が繰り返し聞こえていた。
声が止まったと思うと、戦艦・ゴースの艦橋の爆発が見えた。
人間を殺した感覚が、2ヶ月経っても脳裏から消えなかった。
ハルマは、人間の人生を終わらせた事実を、相手が悪人だからと自分に言い聞かせながら生きている。
また、英雄のハルマが、精神科に通院するとイメージが悪くなると、上層部から言われていた。
上層部は、ハルマを英雄にしてから戦死をさせる計画なので、ドクターストップがかかると面倒なので、精神科には通院をさせないように動いた。
3時間後に、カターシ星のカターシ共和国軍基地に着陸した。
ハルマは、士官学校に入校してから一度も実家に帰ってなかったので、とても懐かしい風景に感じた。
両親とは、通信費が高額な事や士官学校の厳しさも関係していて、新年の挨拶にフォログラムやモニター通信でやり取りするぐらいだった。
カターシ星は、VR技術がずば抜けていて、共和国の80の星系の中で常に1位に輝いている事が有名であるが、VRを扱った大企業が2社あって、他は下請けの中小企業があるだけで、それ以外で有名なのは、共和国軍の英雄のマッサ・コウサ少将の出身だというくらいである。
カターシ星の3割の人間は、VR企業の関連の仕事をしている。VRに関連した仕事をしている人間が、収入が太くて威張り散らす事が多い。
さらに、共和国の税金の高さに悩まされているが、反乱軍の侵略に対応する為の防衛費や生活インフラの維持の為だと言われて、我慢しているのが現状である。
ハルマは、共和国軍の中尉の階級だが、入隊したばかりで給料が少ないので、タクシーには乗らずに電動バイクをレンタルしてから実家に向かって走った。
バイクのリアボックスに荷物を入れて、バイクのエンジンのスイッチを押す。
ハルマの実家は3LDKの平屋で、周りは田んぼだらけの田舎である。
実家に着くと、共和国軍の英雄の息子であり、奇襲のコウサの父親であるカコノ・コウサの出迎えがあった。
「ハルマ!帰って来たか!おかえり」
「父さん、ただいま」
「母さんとハルマの彼女さんが、美味しい料理を作って待っているぞ」
ハルマは、自分の恋人を勝手に名乗る人物が表れたのかと思って困惑した表情になった。
「彼女?恋人なんて、いないよ!?」
「え?」
2人が、疑問に思いながら家に入ると、テーブルの上に味噌汁と卵焼きとサラダが用意されていた。
台所から、よく知っている人の声が聞こえてきた。
「メロキ中佐!えっ、なんで実家に?」
クロノは、ハマルの母親のミラノ・コウサと一緒に食事の準備をしていた。
「ハルマさん、おかえりなさい。この前、実家の近くに樹齢100年の大木があると言っていたでしょ♪それが見たくなって、来ちゃった」
「クロノさんとは、そこの大木の前で出会ってね。話したら、ハルマと同じ職場だったから驚いたわ!」
ハルマは混乱していたが、手洗いとうがいをしてから、両親とクロノの4人で食事をした。
クロノはハルマが戦死した後に、ハルマの両親とマスコミの前に出てから、ハルマの生前の事を一緒に語る計画を立てていたので、ハルマの両親との交流を強引に行った。
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