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いやー、これって人間なんかもてなさなくても生命エネルギーを得られるんじゃないかなー。
とは言っても人間はダンジョンを発見したらコアを得るまでわらわらわらわら湧いてくるから、やっぱり人間にはダンジョンだとバレたくないしなぁ。
…こいつら、訪れた人間を襲ったりしないよな。襲うならしっかりがっつり全滅させてくれよ!
幸いここは迷いの森、行方不明者は天井知らず。ヘタに情報を持ち帰られて討伐隊は勘弁だぞ。
なんてことを考えていたら、ダンジョン周辺の俺(正確にはライブラリ)の感知範囲に新しい反応があった。
ダンジョンが顕現して約1か月。この反応は初めてだ。
恐らく人間。一人だな。かなり強そうだ。だが弱っている。
俺はライブラリをあえて具現化させて、読み取った情報をひとつひとつ確認する。
…あぁ、緊張しているんだな。
文字をなぞる指が震えているのを目にして、俺は自分が緊張していることにようやく気付く。
そうだな、生まれたてのダンジョンマスターにとって人間に見つかることは死を意味する。
人間対策は万全にしてきたつもりだが、実際にどう反応されるかは未知数なのだから緊張するのも無理はない。
俺は自分にそう言い聞かせてなんとか冷静さを取り戻した。
ダンジョンシステムで読み取った周辺情報をライブラリに映像として映し出す。
おお、いかにも歴戦の猛者って感じのじーさんがボロボロになって歩いてくる。真っ白な雪に赤い血が点々と続いてるじゃないか。魔物が来るぞ。
まだ距離はあるけどこの家に気付いて警戒しているな。当然か。すげーガン見してる。
ん?なんか装備からもすごいオーラを感じるんだけど。げ、もしかしてそれドラゴンの素材使ってません?
この世界のドラゴンって素材になってもやたらプライドが高くて、自分を倒した相手だったりドラゴンに認められた者じゃないと装備品にしても装備できない仕様になっているんだよな。
だから城とかに昔のドラゴンスレイヤーの装備が飾られてたりして、それが王様の権威付けに使われたりするわけだ。誰も装備出来ないのに自慢する意味は分からないけど。
つまり…初っ端からドラゴンスレイヤー来ちゃったよ。マジかー。
しばらく警戒心バリバリに隠れてこちらを見ているじーさん。
心臓バクバクするからやめてくれ。来るなら早く来いよ。注射の針を刺す直前で止められてる気分だ。ぞわぞわする。
俺のそんな気持ちが通じたのか、じーさんはようやくこちらにじりじりと近付いてきた。
と思ったら木の柵の前でまた立ち止まって様子を見ている。それは当然か。あからさまに結界が張ってあるからな。
攻撃を防ぐものだから敵対の意思がなければ普通に入れるんだけど、知らなければ怖くて触りたくないよな。
あっ、ノームが相変わらず土を運んでいる。じーさんガン見してるじゃん。大丈夫かな。
ノームが穴を掘ることで結果的に土に栄養を与えてるみたいで、なんかやたら植物がイキイキしてるんだよな。ちょっとした薬草園のようになっているけど、ウサギ穴があちこちにあるから立ち入り危険な天然トラップだ。
ノームに穴掘りやめさせて違う仕事してもらおう。畑だな。裏庭では出来なくなったからどこにしようか。
おっと現実逃避してるうちに柵に沿って歩き始めたぞ。周回しようとしてるのか。裏庭の魔物を先に発見されても面倒だし、すげーイヤだけど声を掛けてみよう。
今ならじーさんは結界の向こうだから攻撃されても大丈夫だしな!
俺は何食わぬ顔で玄関から表に出た。庭の薬草を摘みに来ただけですよー。ほらほら、籠持ってますからー。
なるべく自然にじーさんを見て、驚くふりをする。涼しい顔をしているが内心はバクバクだ。
「おや。旅のお方ですか。このような所でどうされました。」
うわー緊張のあまりめっちゃ芝居がかった口調になってしまった。恥ずかしー。このような所でどうかしてるのはお前だよ!って俺かー。これはもうこの浮世離れキャラを貫くしかないな。
俺のパニクった心の声は幸い伝わっていなさそうだ。
じーさんも驚いて固まっている。強そうなじーさんがこんなに目を丸くしてるとこなんてなかなか見られないぞ。
「ここは…神の家か?」
…はい?