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ダンジョンの名称はともかく…
俺は自分が吸収するはずのダンジョンコアをライブラリに埋め込んだのだ。
なぜと言われたら、そうした方が良い気がしたから、としか言えない。だがそうしたことでライブラリの閲覧レベルが上がり出来ることが増えたので正解だったと思っている。
これからはコアの充填率が上がるほどライブラリの閲覧レベルも上がるだろう。
充填率が0%のコアでもレベルが上がったのだ。コアのエネルギーの凄まじさが分かるな。
閲覧レベルⅡではこの世界における各職業の専門知識や他人のステータスのようなものが見れたりする。人間がいないから森に住む生き物や魔物のステータスを見てみたが、小さなウサギのような魔物であるホーンラビットですら『強さ:並』なのは凹んだな。俺、ウサギ以下。
この状況でどうやって生き物の生命エネルギーを集めるのかというと、ノームにそれこそウサギ穴を掘ってもらっているのだ。
この辺りは雪深い環境だが、木の柵の内側は俺のダンジョンの範囲内だ。あったかポカポカ小春日和な適温に設定してある。
魔物とはいえ温もりに惹かれて次々入り込んでくる。入れ食い状態だ。
環境が変わりすぎると人間にダンジョンだってバレるんじゃないかって?
くくく。偽装は完璧だぜ。俺はライブラリにコアのエネルギーを取り込ませることによって、充填したエネルギーを使ってライブラリに表示させた物を具現化することに成功したのだ!まるで通販カタログだな。
せっせとホーンラビットをダンジョン内に引き込んでイフリートにこんがり焼いてもらうことで貯めたエネルギーで人間にとっては秘宝レベルの結界セットを手に入れ、それをダンジョンの四隅に設置した。
この結界は物理と魔法攻撃を反射させるというものだが、人間にとっては伝説級のアイテム。こういう効果があると言い張れば誤魔化せるだろう。
ちなみにホーンラビット100匹分を、その際は一時的に配分率100%でコアに充填したのだが、充填率は1%も上がらなかった。
まぁ結界セットは具現化できたのでエネルギーが流入しているのは確かだ。容量が大きすぎてその程度じゃ小数点以下ってことだろう。
ここまでしてこのアイテムを手に入れたのには訳がある。この結界セットは見るからに秘宝級。ここまで辿り着けた人間なら一目で只者じゃないことが分かるだろう。
人間というのは最初に度肝を抜いておけば理解を超えた脳が考えるのを放棄して、多少の違和感も納得してしまうものだ。
そもそも本来ならこんな魔境に人が住んでいる時点でおかしいからな。
俺には戦闘力はほとんどない。今ならライブラリ経由で疑似的に魔法を使うこともできるし、実際に自分を保護する結界魔法は常時発動させているが、歴戦の猛者にはとてもじゃないが叶わないだろう。
それならば最初から敵対せず、かつ『なんかスゲー奴』『戦ったらヤバそう』と思わせることで相手の戦意を削ぐことは立派な戦略の一つだ。
ところで人間の目を欺く上で実はちょっと困っていることがある。
俺はログハウスの裏手に周り、宿屋の食材確保(偽装)のため畑にする予定だった土地を見る。
魔物、魔物、魔物。動物園さながらの光景が広がっている。
地竜め、穴を掘るんじゃない。お前は土竜か。
おいおい。魔狼なんて子育て始めちゃってるじゃないか。いくら暖かいからって春はまだ先だ。うちの庭を勝手にマイホームにするのはやめてくれ。
あそこでワイバーンがうずくまっているのはまさか卵を温めているのか。こんな平地に巣を作る習性じゃないだろう。どこから飛んできた。
そう、俺のダンジョンは森の魔物の憩いスペースになってしまっていた。どうしてこうなった。
いや分からんでもない。ダンジョンは基本的に生き物を誘い込むようになっているからな。なんか入りたくなるようなフェロモンでも出ているのかもしれない。
ダンジョン内は魔素が安定しているので魔物にとっても居心地が良いのだろう。
それに俺はダンジョンをデザインする際にいかに訪問者にくつろいでもらうかを意識していた。そんなお・も・て・な・しの心が魔物にも伝わってしまったんだな、うむ。
魔物どもがここに住むようになってから、ダンジョンを顕現させて以来ずっと感じていた飢餓感が薄れている。どうやらダンジョンマスターという生き物は生命エネルギーを吸収することが食事と同義らしい。
ブラウニーが作ってくれたホーンラビットの焼肉も普通に食べたけど飢餓感はなくならなかったから、むしろこっちが主食だな。生命エネルギーがあれば食事はしなくても平気そうだ。
こいつらはログハウスには近寄ろうとしないし、なぜか俺に警戒するそぶりもない。別に俺の配下という訳でもないんだけどな。
その分生命エネルギーが手に入るから放置しても良いのだが、人間がこの様子を見たらどう思うかを考えると非常にまずい気がする。
とはいえ俺の元にある戦力は一番強いイフリートでさえ『強さ:並』だ。『強い』『非常に強い』が居並ぶ魔物どもを追い払うすべがない。魔狼の子どもはかろうじて『並』だが、攻撃したら親が激怒するのが目に見えているしな。
俺は足元にしっぽを振ってじゃれつく魔狼の子どもを眺める。…可愛い。
親の方を見るも気にしている様子はない。
ちょっと抱き上げてみる。つぶらな瞳が俺を見つめている。…可愛い。
もふもふもふもふもふもふもふもふ……もっふもっふもっふもっふ。
うん、まぁ、いいか。