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side 呪術騎士ゲイル

我はソードライト王国で密かに受け継がれし呪術師の家系に生まれた異端児である。

呪術師を酷使する癖に表向きは剣こそ至高、騎士こそ最上とするこの国の在り方に嫌気が差し、呪術と同時に剣をも極め、密かに呪術を操る騎士となった。

誇り高く融通の利かない騎士は気付かれぬ程度にほんの少し呪術を織り交ぜるだけで、面白いほど簡単に我に斬り伏せられた。剣が至高など実に下らぬ矜持であることよ。


先王は良くも悪くも凡庸で事なかれ主義だった。慣例に従うだけの王では我の力は活かせない。

我は己の身の程を知らず身分を笠に我儘に振る舞う王子に取り入り、王子が王となった暁には近衛騎士かつ特別顧問という立場を手に入れたのだ。


粗暴な王は少し耳障りの良いことを囁くだけですぐに戦を起こす。呪術で心を操るまでもなかった。

王に一番近い場所で思うように国を動かすことはそれなりに楽しめたが、たった一つの心残りは龍騎士グランに逃げられたことだ。龍の素材を使えば不老長寿も夢ではなかったというのに。

最期まで我に従おうとしなかった、あの忌々しいグランめの悔しがる顔を見られなかったことも興醒めだ。


故にグランを追った傭兵の目を通してホワイトドラゴンを見つけた時は歓喜に震えた。癒しの力を持つという白龍しかも幼龍である。あの素材を使えば、どれほどの呪術を構築できるであろうか。不老長寿どころではない、不死となり呪術の力で世界を支配することも出来るやもしれぬぞ。なんとしても手に入れたい。

教国の第二皇子を誑かして向かわせたところ、ドラゴンだけではなく世界樹の存在まで確認できたという。

一体あの地で何が起こっているのか。主神と同じ特徴の容姿を持つ者が見えたが、本当に神の類なのであろうか?


ああ、だとしても、神の目を欺いて貴重な素材を手に入れることは出来まいか。



我は王を誘導しあの森に向かうことに成功した。何があっても龍を手に入れるために王国と教国を巻き込んだのだ。失敗は許されぬ。

白龍さえ手に入れば我は不老不死を得るのだ。神を敵に回そうと、我以外の軍が壊滅しようとどうでも良い。


我は王国軍を小隊に分け、さりげなく精鋭で固めた隊の指揮官となった。

不気味な森だ。空気は清浄だというのに、生命の気配が希薄だ。植物が先に進ませまいと意思を持つように邪魔をしてくる。

所々に点在する花畑の中、教国の騎士と見られる者らが武器や装備を奪われた半裸に近い恰好で転がっている。あれは眠り草だな。無能な騎士に構っている暇はない。気にせず進むとしよう。


話に聞く通りに一筋縄ではいかない森であったが、我の隊の前にはさしたる問題もない。植物の魔物など大層興味深いが今は些末事だ。不死の肉体となった後にじっくりと採取しよう。

逸る気持ちを抑えつつも先を急ぐ。白龍は森の最奥であろうか。



突然魔物が襲ってきた。これまで植物の魔物ばかりであったから少し油断していた。普通に戦えば死者が出る。魔物が跋扈する中戦力を減らされるのは面倒だ。

我は瞬時に判断し普段はあまり見せないようにしている呪術で魔物を屠った。

しまったな、狼か。仲間意識の強い魔物は厄介だ。仲間を屠られいきり立つ魔物から呪術で身を隠そうとした瞬間、白く輝くものが目に入った。


白龍だ。


どこから現れたのか。以前傭兵の目を通して見た時よりも成長した白龍の姿。なぜか狼の魔物の襟首を咥えて飛び去ろうとしている。我を睨みつけてはいるが暴れる狼に手を焼いているように見える。

好機ではないか。


「白龍に網を。」


隊の者に告げながら再度呪術の剣を振るう。狙うは白龍の翼。飛んで逃げられるのは面倒だ。


術が白龍に届く直前、何かが白龍を庇うように現れたのが見えた。我の術は空間を超える。身を挺したところで無駄である。知らず口元が緩む。

手ごたえを感じたその瞬間、視界を炎が覆った。


なんだ!?

咄嗟に呪術で身を守るがあちらこちらから隊の者の悲鳴が聞こえ、炎に巻かれて消える。何が起こっている?

空間が歪む。我の呪術の比ではない。呼吸が出来ないほどに濃密な魔素。森が慟哭している。我は何をしてしまったのだ?


地が揺れ、森が割れ、怒り狂った炎が我を飲み込まんと嚙みついてくる。

我は嵐に耐える大海の木っ端のようになされるがまま、強化と防御の呪術を維持し続ける。



轟轟と燃え盛る業火が静まり、広がっていた濃密な魔素が一処に収縮していく。収まったのか…?地に這いつくばったままで辺りを見回す。


なんということだ。先ほどまで豊かな森であった場所が、焼け野原となっていた。焼け焦げた地表のあちらこちらが裂け、地獄まで繋がっているかのように暗い底が口を開けたままになっている。


いったい何があったのだ。

我が隊の者も見当たらない。炎と地底に皆呑み込まれてしまったのか。


何もかもが黒く染まる大地で、不自然なほどに輝く一団だけが何事もなかったかのようにそこに立っている。

小さな姿に戻った白龍と、緑の髪が特徴的な幼いハイエルフ。闇の中にこの世の光をすべて閉じ込めたかのような、神秘を感じさせる黒髪黒眼のヒトに似た何か。

そしてその者を護るように、収縮した魔素が人影を形造ってゆく。


あれは…あの男は…。


それは確かに神の御技。我の持つ呪術の知識も力も及ばない、不可知の領域。

収縮した魔素が鼓動を打ち、生命が生まれ、その眼が開かれる。


死んだはずの男が、真っ直ぐに我を見据えていた。









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