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最近寿命の近い人間が迷いの森を訪れる。どうやら近くの街でおかしな噂が流れているようだ。

曰く、迷いの森の奥に精霊に祝福された聖域があり、名もなき現人神が住むらしい。

曰く、名もなき神の聖域で息を引き取ると、世界の礎となり肉体も未練も浄化されるらしい。


「…というわけで、名前をつけようと思うんだ。」


「急にどうしたのじゃ。」


名もなき神って言われるのがなんとなくモヤッとするんだよ。


「神と呼ばれる分には良いのかの。」


「神と呼ばれるモノが創造神のおもちゃと聞いたからな。俺の思う神とはイメージが違うんだよな。それならこれ以上自分にコントロール出来ないことを気にするだけ無駄だ。」


何せ出会う人間全てに神の関係者だと思われるのだ。髪と眼の色を変える気がない以上そこは諦めよう。

人間のいう神は人神ルクシアのことだろうけど。そこだけはきっちり否定せねば。


「と言っても俺ネーミングセンスないんだよな。誰か良い案ないか?」


軽い気持ちでエリンたちを見渡しながら声を掛けると、三人は困ったように顔を見合わせている。あれ?何かやらかした?


「あるじ様、名付けというのは大切なものなのじゃ。あるじ様ほど位階が高く名を持たぬなど普通はあり得ぬぞ。一定以上の位階に達すると神の目に留まる。その時名を持たぬ者は真名を付けられ支配されてしまうのじゃ。

 あるじ様に名がないということは、ダンジョンマスターという存在が特殊か、或いはすでに真名を握られているか…。自分に名を付けると強く思えるか?反発する感じや、無意識に避けることはなかったか?」


…言われてみれば、これまで自分に名を付けようなんて考えたこともなかったな。

ただ、今回『名もなき神』と呼ばれることに強い違和感を感じたのだ。ライブラリにコアを埋めたときのように、そうするべきだという焦燥にも似た直感だ。

そう語るとエリンは何やら考え込んでいる。


「そう言えば、エリンの名前は配下として生み出すときにはすでに決まっていたな。ロノとアナンシは俺が付けたけど、サリアとカムラは名を引き継いでいるみたいだし…。

 何が違うんだ?」


「名は魂に刻まれるのじゃ。魂を捧げるは名をも捧げるということ。

 ハイエルフは親たる世界樹から名を与えられて生み落とされるが、大抵の知性のある生き物であれば通常は親が名を付けて各々信仰する神や精霊に祈り魂に刻んでもらうのじゃ。名は神の息吹と言うてな。神に息を吹き込まれて初めて生き物は地上で生きることを許されるのじゃ。

 もっとも人間はただ神殿で洗礼を受けるだけだと思うておるがの。」


『ボクも前は龍の神様に名前を付けてもらったけど、父ちゃんのダンジョンに吸われたときにぐるぐるに混ぜられて名前がなくなっちゃったの。だから父ちゃんが名前を付けてくれて嬉しかったよ!父ちゃんありがとう!』


「我らアラクネ族は族長が全ての者の名を付けますね。地の精霊様に報告することで大地に祝福されると言われております。サリアの名はそうやって付けられました。

 カムラの名は王都のルクシア神殿で洗礼を受けました。慣例に従っただけですから、名にそこまでの意味があるとは驚きです。

 今のアナンシとしての魂はご主人様の御力でサリアとカムラが混ざり合ったもの。元の二人の要素を多少引っ張り出すことは出来ても、魂そのものは別物なのです。」


「ダンジョンが生き物を吸収してその因子を手に入れられるのは、神や精霊が吹き込んだ息吹を取り込んでいるからであろう。

 妾の名も、以前と同じであって同じでない。世界樹の息吹はあるじ様に捧げ、新たにあるじ様の息吹を吹き込んでもらった名なのじゃ。

 ロノやアナンシは、あるじ様に名を貰えなければ魂が定着できずに消えた可能性もあるのじゃ。」


んんん?そうなると生命エネルギーとは神の息吹ということになるのだろうか。


「神に息を吹き込んでもらえなければどうなるんだ?」


「理性のない獣として生きることになるのじゃ。肉体が頑健な種族であれば自我などなくても本能だけで生きられようが、人間のような弱い種族は多くは幼いうちに儚くなるのじゃ。」


確かに名前のない魔獣でも生命エネルギーは吸収できるもんな。あらゆる生き物に生命エネルギーはある。

なるほど神の息吹とは創造主のおもちゃたる神たちの要素そのもの。より多くの生き物の因子を集めたければ名前を持つ生き物を吸収する必要があるということか。


「俺は名を付けただけで、息吹がどうとか何かした覚えはないんだが…。それでも大丈夫なのか?」


『父ちゃんはボクの名前を呼んでくれたよ!』


あ、それでいいのか。いやいや、それ以前に俺の息吹で自我が持てるか、という話だよ。


「それについては妾もよく分からぬのじゃ。言えることはダンジョンの配下がここまで自我を持つことはかなり珍しい部類ということじゃな。上位の存在に息を吹き込まれなければありえぬことじゃ。

 あるじ様の持つ聖なる因子を分け与えている可能性もあるの。」


「…で、結局俺は俺に名前を付けられるのか?」


「やってみなければ分からぬのじゃ。」


余計な要素を排除するために、名前を考えるのも俺がした方がいいらしい。名づける者が持つイメージが名前、ひいては存在そのものに影響するというから、ロノやアナンシのように記憶にある神の名を付けるわけにもいかなくなったぞ。うむむ。



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