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side 隠されし皇子レオンハルト

僕は母の胎内に宿った瞬間から『いらない子』だった。


創造神に人の世を託されたという神聖ルクシア教国。その第二皇子ドルトイスタ様の乳母という立場であった母は、ドルトイスタ様と自らの息子が神学校に進んですぐに、僕を身籠った。


誰も僕には詳しく教えてくれないけれど、それが発覚したときはそれは大変だったらしい。母と父の関係は冷え切り、第二皇子は荒れた。どうやら母に裏切られたように感じたらしい。当時十二歳の皇子の幼い嫉妬だ。乳兄弟であり側近候補だった兄はずいぶん辛く当たられたらしい。

とにかく、僕の存在は皇族と僕の家族の間に埋められない亀裂を作った。


そして産まれた僕の髪と目は、法皇様と同じくらいに黒かった。


それは紛れもない皇族の直系の証。法皇の子の誰よりも闇に近い色。


母は法皇様に僕の誕生を知らせた。すでに父との関係は破綻寸前だったから、寄る辺としたかったのかもしれない。

しかしそれを聞いて法皇様がしたことは、髪と目の色を変える魔道具と夫婦で赤子を大切に育てるようにという勅令を密かに送っただけだった。


こうして僕は生まれた時から榛色の髪と目を持つ子供として、会話のほとんどない家庭で育てられた。

幸い教育は惜しみなく与えられたから、進学の頃には神学校も騎士学校も魔術学院も自由に選べる程度の能力は身に付けていた。

僕としては成人後に国を出られる可能性が高い魔術学院に進むつもりだったのに、なぜかそこで唐突にドルトイスタ様の横槍が入った。騎士となりドルトイスタ様にお仕えするように、と。


家族はそれはそれは喜んだ。

通常なら乳兄弟は側近となり取り立てられるはずの乳母の家系が冷遇されていたのだ。ドルトイスタ様から歩み寄りの姿勢を見せてくれたというのに、断るという選択肢は僕には許されなかった。


結局騎士学校に進み十五の成人と同時にドルトイスタ様の私設騎士隊へと入隊したものの、ドルトイスタ様は僕を扱いかねているようだった。表面上は親しげにしてくるけど、言動の端々に嫉妬や妬みが滲み出ていた。

僕自身もそのように扱われても困る。距離を置こうにもあちらから絡んでくる状況に辟易してもいた。


今考えると、もしかしたら法皇様からドルトイスタ様へ進言があったのかもしれない。魔道具を外せば一目で神聖ルクシア教国の皇族と分かる容姿を持つ僕を、万が一にも他国に出る機会を与えないように。



母はほとんど僕と話をしなかったけど、時々何かが乗り移ったかのように、古の聖女様について捲し立てることがある。

なんでも母の家系は聖女様の流れを汲むらしい。共に召喚された勇者様と愛し合っていたのに、政治的な策略により勇者様は当時の姫と結ばれて法皇となり、聖女様は有力貴族に嫁ぎそれ以来姿をお隠しになった。勇者様は永遠の愛の証として、聖女様に神より賜った聖剣を託したとか。


母は心底信じているけど、僕は眉唾だと思っている。

そんな陳腐な三文芝居のようなお話が実際にあるはずがない。


それでも僕がドルトイスタ様のご命令で迷いの森に行くことになったとき、母が僕に伝承に残る聖剣を渡してくれた。

柄にもなく期待なんてしたのが悪かったんだ。もしかしたら、心配してくれてるんじゃないかって。


だけど母はギラギラと光る目で僕を見て言った。

あの森には神の遣いを騙る不届き者が、聖獣たるホワイトドラゴンを無理やり隷従させている。この剣で神敵を討ちホワイトドラゴンを救って勇者の力を見せつけるのだ、と。


心底バカバカしい。くだらない大人ばかりだ。

神に選ばれただとか、勇者だ聖女だと過去の何者かに縋って、一体今生きる僕になんの因果があるというのか。

因習に縛られたこの国が大嫌いだ。


僕は密かに任務の間に出奔する計画を立てていた。

魔物が怖くて逃げるフリ、乱戦の中行方不明になるフリ、迷いの森で逸れるフリ…今思えば恥ずかしくなる程杜撰な計画を真面目に考えていたものだ。

その全てが不要になったんだから。


そう、僕は神に出会った。


隊長は知られざる神と呼んだけれど、あれは信仰するルクシア神がいるので名前を聞くつもりはありませんという意思表示だ。

僕はあの神の名を知りたいと思った。その名を口にすることが出来たらどれほど素晴らしいだろう。僕を選んでくださった神の御名を。


白龍様から頂いた徴を通して、声なき声が聞こえて来る。強くなれ、賢くなれ、そして主の役に立て、と。

僕は淡々と日々を過ごす。あの神を主と仰ぐために何が出来るだろう。


白龍様からの徴と、この髪と目の色を最大限に利用させて貰おう。

僕の神に出会って初めて自分の本当の色を誇らしく思った。きっとこの世界の人間の中で、僕が一番あの御方の色に近い。


偶像のままこの地上を支配し続けようとする神よりも、地上に顕現した現人神たる僕の神に、この国の全てを捧げよう。






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