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「アナンシ、どうだ?」


「はい、ご主人様。通信は良好です。」


ログハウスのリビングにテレビ代わりの壁掛けスクリーン。そこに映っているのはガタゴトと揺れる馬車、隊列を組んで歩む騎士、長閑な街道の風景など様々だ。


これは以前ここに来た傭兵の目を通して遠くを見る禁呪を応用した遠隔通信。ロノの祝福の(しるし)とアナンシの子どもたちを使った情報収集魔法だ。

このためにアナンシにはせっせと卵を産んでもらいゴルフボール大の小さな蜘蛛の大群を用意し、騎士どもに見つからないよう先回りして馬車に仕込んでおいたのだ。

馬車の下がどうなっているのかは想像してはいけない。


ロノの徴を基点としているのでどこでも見れるという訳ではないが、少年の周りの状況くらいは知れるだろう。第二皇子とやらの動きも把握できれば尚良いな。


子蜘蛛たちの安全は保証できないが、あれは子どもというより意思のない分身体のようなものらしい。爪を切る感覚で作れるしプチっと踏み潰されても問題ないとのこと。

そういうことならと遠慮なく量産してもらった。



森を抜けた頃には騎士のリーダーも我に返ったようで、時折他の騎士と第二皇子怒るんじゃね?的な会話をボソボソとしている。

まあ普通の状態であれば祝福受けるなら主君に、と考えるよな。


少年はというと、意外と普通に新兵として行動していた。祝福を貰ったことでもっと腫れ物に触るような扱いだったり、やっかみで辛く当たられたり、逆に少年自身がくだらない自意識に芽生えたりという状況も想像していたのだが、本当に普通だ。

雑用もするし、朝食や見張りの当番じゃないときは早朝の鍛練も欠かさない。勇者の剣は俺が頂いたので馬車にあった予備の剣を借りたようだ。


うーむ。普通すぎる。



「あるじ様、これ以上見てはダメじゃ!情が移るぞ!」


「うわ、エリン。なんだよいきなり。」


ソファで寛ぎながら何とは無しに少年の様子を見るのが日課になってきた頃、エリンが突然俺の膝の上に飛び乗ってきた。やめろ!事案だぞ!


「あるじ様のことじゃ。毎日がんばってえらいな、とか思うておるのじゃろ!いかんぞ、褒めるなら妾をもっと褒めフガフガ…。」


微妙に俺の声真似をしながら憤るエリン。う、図星だけどちょっとイラッとするぞ。

俺はエリンの鼻を摘んで黙らせる。


「分かった分かった、エリンもがんばってるよ。えらいえらい。」


確かにエリンはがんばっている。

うちの裏庭のサイズの関係で世界樹をこれ以上大きくできない分、取り入れた魔素で地下茎を伸ばして森中に世界樹の根を張り巡らせているようだ。どうやら地下茎から所々に普通の木に擬態した中継地点を設置しているらしい。

最近ではジリジリと森の情報を書き換え、ダンジョンの範囲を広げるまでになっている。ポイントも使わずにダンジョンを拡張できるなんてかなり驚いたのは内緒だ。


アナンシも迷いの森の外まで子蜘蛛たちを散らばせていたり、ロノも農村や街の付近まで空を飛んで偵察しているようだし、うちの子らはどこを目指しているんだ。

そしてなぜ俺に報告しないんだ。


「あるじ様は甘すぎるのじゃ。あの小僧はともかく、第二皇子とやらは必ずまた厄介事を持ってくるぞ!」


「いっそ本人が来てくれたらダンジョンの餌にできるんだけどな。命令に従っているだけの職務に忠実な騎士を帰らぬ者にしても仕方ないじゃないか。」


俺ってば社畜だったのかなぁ。どうもあの聖騎士のリーダーのような中間管理職には厳しくするの可哀想になっちゃうんだよな。


「ふん、本人がのこのこ出張って来おったら、森に入る前に事故にでも遭ってもらうのじゃ。あるじ様に手を掛けて貰おうなど一万年早いのじゃ。」


ん?うちの子たちが勢力範囲をこっそり広げてるのって、もしかしてその為なのか?

膝から頑なに降りようとしないエリンの髪を、ロノにするようにわしゃわしゃにしてやった。



そんな話をしているうちに騎士どもがルクシア教国に入ったようだ。旅の風景も中々オツなものだったぞ。

騎士どもは無駄なく進むためあまり街の様子などは見られなかったが、それでもこの世界の景色をあちこち見られたのは楽しかった。

中継機があれば世界中の様子をリアルタイムで掌握できるんじゃないか?情報だけで天下取れそうだな。


皇都に着いてまず向かったのは第二皇子の離宮か。

…予想通り怒られてら。なんかごめんな、リーダー。とりあえずアナンシの子蜘蛛を離宮に数匹放つ。


第二皇子は神経質そうな優男だった。ふん、王の器ではないな。


ん、少年とは元々知り合いなのか。そうだよな、あんないかにも新兵ですみたいな少年、普通は聖獣を確保しに行く精鋭部隊には入れないよな。それで他の騎士たちも大っぴらに反対したり嫉妬を露わにすることがなかったのだろうか。


それにしてはかなり険悪というか第二皇子が一方的に嫌味を言いまくっている。かと言って少年が皇子(おとうと)だと知っているという感じでもない。

うーむ。知らないとしたら余計に、あんな子供にキーキー嫌味言いまくる上司(皇子)って…嫌だな。



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