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アナンシの子どもたちも無事に孵化し、カサカサと森に散っていった。今はロノと同じくらいのサッカーボール大の蜘蛛の姿だが、アナンシが率いることでいずれはアラクネ程度にはなれるという。

しばらくは森の魔物どもと縄張り争いが繰り広げられそうだ。俺のダンジョンなんだから配下なら顔パスじゃないのかとも思うがその辺りは色々あるんだろう。ロノの助けも要らないというので好きにさせることにした。 


様子を見てると縄張り争いをしながらも、まだダンジョンの中を進んでいる人間どもを遠くから見守ったり、通るであろう場所に自ら織った糸玉を置いたりしている。律儀な奴だな。

ちなみにその糸玉は俺も貰った。エリンが言うには人間なら王族さえ喉から手が出るほど渇望する最高級品だそうだ。


「はっ!もちろんご主人様にお渡ししたものよりランクは落としてありますよ!」


だから俺の心を読むなよ。しかも遠隔ってどういうことだ。



来たときは四日だった道のりを十日以上かけて素材を集めながらダンジョンを抜け、一か月かけた迷いの森は魔物を避けたり戦う必要がないため二週間程で足早に通り過ぎ、アナンシの同行者らは無事に馬車と合流したようだ。

アナンシが森を出るまで見守ってたこともあり俺はほとんど様子を見ることもしなかった。

導きの鈴が上手く機能したことを確認したくらいだな。導きの鈴が魔素へと分解するのをライブラリ越しに見届けた。


あれはライブラリから具現化させた導きのベルにエリンが悪用防止の細工をし、ロノの魔力を染み込ませたものだ。

導きのベルは自分のいる地点と目的地を繋ぐ魔道具だが、作り手によっては転移機能を持たせることもある。世を偲ぶ隠遁中の魔導士などが自分の住まいを隠し、ベルを持つ者しか訪れられないようにするときなどに作るのだ。珍しいが全くない訳ではない、という程度のレア度だな。



馬車が去っていくのをアナンシがじっと見送っている。

…アナンシは本当に配下にして良かったんだろうか。今さらながら了承も得ずにヒトならぬものにしてしまったことを申し訳なく感じる。


「あるじ様、大丈夫なのじゃ。妾たちが望まなければ、召喚できるようにはならぬのじゃ。」


「そうなのか?」


「当然じゃ。あるじ様と永久に在りたいと願わなければ魂までは捧げるものか。

 妾とて世界樹を継ぐためだけに魂を捧げたわけではないぞ。あるじ様だからそうしたかったのじゃ。」


どこか誇らしげな表情でエリンが笑う。その表情はいまが本当に幸せだと告げていた。


「ありがとう、エリン。俺もエリンたちが一緒に居てくれて嬉しいよ。」


「あるじ様が珍しく素直なのじゃ。ホレホレ、撫でてくれて構わぬぞ。」


ぐりぐりと押し付けられるエリンの頭を必死に抑える。やめろ、それはもはや頭突きだ。


『父ちゃん、なんだか楽しそう!ボクもボクもー!』


ロノも乱入してきてわちゃわちゃとぶつかり合いながら、ダンジョンマスターになってから初めて心から笑った気がした。



「ご主人様、迷いの森を掌握いたしました。森のどこへでもすぐに転移可能です。」


アナンシがそう報告しに来たのはそれから一月ほど経った頃。森の紅葉もすっかり落ちてちらちら雪の舞う日も出てきた所だ。

いつの間にかダンジョンの森だけではなく迷いの森の全地点に子どもらを配置し、それを基点にすることで転移が可能になったという。寒いのは平気そうだな。

ダンジョンの中はどこへでも転移できるし意識すればすべてを把握できるが、ダンジョンの外の迷いの森はライブラリを経由しないと様子が分からないのでこれは助かる。


森に来訪者があった際もずっと監視する必要がなくなるな。優秀な配下を持つと楽が出来ていいなあ。

アナンシたちが来たときは気になって様子を見てばかりだったが、これからは森に入るところを確認したらあとは何か気になることがあったときだけ報告してもらうことにしよう。



そう思っていたのに目を離せない奴らが来てしまったぞ。


物々しい完全武装集団。やたらキラキラしく聖なる気配を漂わせているからどこかの宗教の聖騎士団だろうか。斥候を放ち魔物を避けてはいるが、真っ直ぐここに向かっていて邪魔になる魔物はサクッと倒している。

え、なにこいつら。怖いんですけど。


目的の分からない武装集団が自分の居住地にわき目も振らずに向かってくるのはかなり怖い。

普通はあちらこちらに蛇行しながら磁石に引き寄せられるように徐々にこちらに近付いてくるんだが、この進み方は明らかに迷いの森の特性を理解した上でここを目的地としている。目的は、世界樹か、ダンジョン()か。

エリンとロノもピリピリしながら俺の近くにピッタリ張り付いている。俺の不安が伝わってしまってるんだろう。不甲斐ない主人で申し訳ないがありがたい。


最近は世界樹に巣を張って森を見渡していることの多いアナンシにも来訪者の存在が伝わったらしく、サリアの姿になって俺の元に来た。

子蜘蛛たちには連中の進軍を邪魔しないように伝え、遠巻きに監視してもらう。森の魔物はともかく配下の身内を殺されてしまったら冷静な対話など出来る気がしないからな。


さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。出迎えの準備をするとしよう。








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