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「導きの鈴…ですか。」


「ええ、この鈴の音が目的地まで案内いたします。またロノの魔力を染み込ませてありますので、この森の魔物であれば近寄ってこないでしょう。

 目的地に着くか、この鈴を悪用するなどの企み事をすると消えてしまいますので、せめて森を抜けるまでは気をつけてくださいね。」


カムラを伴い宿泊施設の方に赴き、同行者に説明をする。

サリアは持病が悪化したので俺の住居で預かっていることになっている。元々歩くのがやっとな程に弱っていたしな。

カムラも妻を看取りこのままここで余生を過ごすことにして、同行者らは街に帰るようカムラ自ら伝えさせたのだ。


希望する者かつそれ相応の理由があれば土産を与える。

せっかくここまで来たのだからと世界樹に触れたい者にはエリンの許可を得て触れさせた。なんか震えてたけど。

病気の妹のために金が必要で、あわよくば世界樹の葉を持ち帰れたら薬になるかもしれないと同行した冒険者には、すでにエリン製の霊薬を持たせてある。



「皆、ここまでよく努めてくれた。心より礼を言う。

 私と妻はこのまま御子様の元で余生を過ごさせてもらうよ。皆が戻った際の手配は街で済ませてあるから、私たちの不在を咎められることもないので安心してほしい。

 無事に馬車まで戻れるよう御子様のお力添えを頂けることになった。御者には交互に街で補給をしながら半年は待ってもらうことになっているが、なるべく早く戻って任務の完了を伝えてくれないか。」


聞けば帰れなかった場合残される遺族には同行者の希望に沿った充分な補償を支度してきたようだ。帰れた場合もそれは報酬としてそのまま受け取れるし、かつ本人への依頼達成報酬が加算される。

同行してくれる者たちへせめてもの償いのつもりだったようだな。

償いをするからどうだという話でもないが、俺が最初に思ったような人を人とも思わない貴族でなくて本当に良かったとは思う。


「ここから私たちが出会った場所あたりまでは、精霊が多く住んでいるため貴重な素材もあるでしょう。採取は自由にして構いません。

 ただし、森を出たならもう二度と私の助力はないものとお思いください。今回はたまたまお救い出来ましたが、貴方方もそれ以外の方であっても、私の力を当てにして森に立ち入ることのないようくれぐれもお願いいたします。」


無謀な人間に押し掛けられても困るしな。もう無駄な人助けなどしないぞ。


「あの…御子様、森の浅い部分で狩りをすることは許されますか?私は東の農村の出身でして…不作の年はそうして飢えをしのいでおりました。」


「構いませんよ。人の営みを咎めるつもりはありません。森に入れるだけの能力があるのなら、自由に過ごせば良いのです。

 …しかし私にとって不都合があれば、その際は止めさせて頂くこともあるかもしれませんね。」


冒険者の女の問いに応えてにこりと胡散臭い笑顔を貼り付ける。

ダンジョンの外は本来なら俺のテリトリーの範囲外だからなんの権限も権利もないけれど、迷いの森を荒らされると俺も困るからな。あまり好き勝手しないようにチクリと刺しておく。

…なんかものすごく喜んでるけど警告は伝わってるのだろうか。



ムルスイ領から同行してきた世話係などはサリアの体調を心配したりカムラとの別れを惜しんだり、残りたいなどと主張する者もいたが丁重にお帰り頂いた。

カムラが自分たちが世話になるだけでもご迷惑なのにこれ以上の負担は頼むべきではないと一喝したんだけどな。


ここに残ったとしても世話はどうせブラウニーや精霊たちがするし、俺の負担などないが煩わしいのは確かだから助かった。

配下たちは俺の一部のようなものだから近くにいても気にならないし、魔物どもが裏庭にいたときは結構騒がれても気にしたことはなかったのにな。人間って何で居るだけでああも煩わしいんだろうか。


そーいやじーさんは平気だったな。あまり顔は合わせてないけど同じ家に住んでたから今より距離は近かったというのに。

じーさんを召喚するには割とポイントが必要だから、俺はなんだかんだ理由をつけて他のものを優先することで未だにじーさんを呼び出せずにいる。


魔物といえば最近子狼たちを見てないな。ロノも可愛いけどたまにはあのコロコロモフモフした感じが恋しいぞ。

…とふと思っただけなのにロノが悲しげに俺を見ている。


『父ちゃん…ボクじゃダメなの…?』


あ、いや、ロノがいてくれるだけで幸せだぞ。ロノが一番可愛いに決まってるだろ。ほら、わしゃわしゃわしゃわしゃ。よーしよしよし。

うちの子たちは俺の心の声に敏感すぎじゃないでしょうか。そんなに顔に出てるかなあ。


一頻り撫でられて満足したロノは、その後子狼を連れてきてくれた。うっ、なんて良い子!



「あるじ様、アラクネに名を与えてやってくれぬか。」


「名前?サリアとカムラで良いだろう。」


エリンはアラクネを配下にした責任を感じているのか、それとも単に自分より後から配下になったアラクネに姐さん風を吹かせているのか、妙に面倒見が良い。


「それはヒト型のときの名前じゃ。アラクネ型のときは何と呼ぶ。」


「サリアが元なんだからサリアで…ダメなの?アラクネ…もダメ?サリカムは…あ、なんかごめん。」


既視感のあるやり取りを経て、俺はうんうん唸る。だからこういうの苦手なんだって。


「アナンシはどうだ。蜘蛛にも人にもなれる神の名だ。ついでに子だくさん。」


「ほう、良いではないか。あるじ様、やれば出来るのじゃ。」


アラクネが反応を示す前にエリンが勝手に決定したため、アラクネの名は決まった。

これ以上考えずに済むなら何でもいいや。









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