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side エリン

※グロ注意※

直接的な表現はありませんが、微量のグロが含まれます。

このページを読まなくてもストーリーの理解に影響はありませんので苦手な方は飛ばしていただいても大丈夫です。

立ち去って行くあるじ様の後ろ姿を見ながら、妾はほっと息を吐いた。


ハイエルフとして永く生きた妾がこれまで出会った何者よりも位階の高いあるじ様は、僅かな感情の乱れであっても空間に影響を与えてしまう。ここはあるじ様のダンジョンであるから尚更じゃ。


普段が温厚なだけに怒らせると天変地異まで起しかねんの。世界樹を内包するダンジョンという前代未聞の代物を創り上げた責任は妾にもあるゆえ、あるじ様の精神を平穏に保つのは妾の役割じゃ。そう、あるじ様の一番お役に立つのは妾なのじゃ。誰にも譲らぬぞ。


そうは言えどもこんなにもチカラを持つのにああまで欲がなく精神が安定しているダンジョンマスターも珍しい。

元がどんなに知能の高い生き物であっても、通常はダンジョンが力を増す毎にダンジョンマスターの意識はコアに侵蝕され、多くは食欲に、または性欲等に支配されて常に生命エネルギーを渇望するようになる。


いくら魂を捧げたとは言え妾やロノがこれだけはっきりした自我を持つのも、配下として普通はありえぬ話じゃ。

あるじ様は本当に稀有な存在である。



それはそうとしてこの者らじゃな。


「其方ら、あるじ様の前でこれ以上醜態を晒すでない。あるじ様の前で自死も禁ずるぞ。お優しいあるじ様の御心が乱れるでな。」


あるじ様は自覚しておらぬようじゃが、あるじ様は愛という言葉を好いていない。このダンジョンの有様を見ればその属性はどう考えてもそちら側(・・・・)だというのに、妙に斜に構えて悪役振るのもその辺りが関係するのかもしれぬの。


「申し訳ありません、ハイエルフ様。

 アラクネとして里を治めることは最後と決めた私の生きるうちに世界樹様が顕現されるなど、神の思し召しと思っておりました。

 世界樹様を目の当たりにしてからは身の内の世界樹様の欠片をお返しすることばかりに目が行き、他のことは疎かになっていた私の責任でございます。」


「私もハイエルフ様と御子様の御前というのにお見苦しい所をお見せして申し訳ありません。」


「ふん。そこのアラクネは夫君の躾をしておくべきであったな。蜘蛛の得意技であろう。」


妾の辛辣な言葉に俯く二人であるが、あるじ様を待たせておるのじゃ。悩ませる時間さえ惜しいわ。


「夫君の希望は聞いた。アラクネはどうしたいのじゃ。一人で逝くか、夫君と逝くか。」


余分な部分を切り落として、必要な部分だけを問う。


「私は…私も、出来ることならば夫と共に逝きたいと思っております。長の務めとして成された婚姻ですが、人ならぬ私には勿体無いほど愛して頂きました。」


「サリア…。」


あー分かった分かった。無駄に見つめ合うのはよせ。本題はここからじゃ。


「夫君殿、其方妻がアラクネでも構わぬと言ったな?その習性の全てを受け入れられるか?」


「もちろんです。私が同じ体になれる方法があるのならば喜んで受け入れます。」


「ならば受け入れよ。アラクネよ、その(さが)に従い今この場で夫君をその身に取り入れ子を成すのじゃ。されば其方らは魂から結びつき、永遠(とわ)に共にいられよう。」


アラクネがひゅっと息を呑む。ヒトの世界で生きて行くために封印していたとは言え、自らの習性だ。驚くことはあるまい。

夫君は分かっていなさそうだな。


「蜘蛛が交尾の際に雄を喰らうことは知らぬのか。生きたまま妻に喰われる覚悟がなければ今すぐこの場を立ち去るが良い。」


「なんと…。」


青褪めた顔で妻を見る男。悲しげに目を伏せるアラクネ。

しかし男は妻を恐れることなく、人間の身体を抱きしめた。


「それで君と永遠に共に居られるのなら、僕は君の血肉となろう。」


「カムラ…。」


二つの個体だったものらが、人間の部分で睦み合い、蜘蛛の部分で雄を喰らい、魂までも捧げ呑み込み、ひとつに溶け合って行く。

妾は余さずそれを見届けた。



「ハイエルフ様、ご助言ありがとうございます。この子らは御子様に捧げさせて頂いても?」


夫君の肉体と魂を取り込み卵を産み落としたアラクネが問う。魔人としてヒトと交わり成す子と違って、雄と雌の生命エネルギーの融合体ともいえる卵にはアラクネの魂の一部が宿っている。


「ああ、あるじ様のお役に立つよう励ませよ。恐らく同行者らの帰還の安全はそれを対価に引き受けてくれようぞ。」


「ハイエルフ様、御心遣いありがとうございます。」


夫君を取り込んだせいか先ほどまでより同行者らへの思い入れが強くなったようにアラクネが感極まる。

そのように良いものではないというのに。妾もあるじ様に似てきたかの。



妾は世界樹を通して館にいるあるじ様に呼びかけた。










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