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魔素を駄々洩れにしながらハイエルフがダンジョンに近付いてくる。

ロノも来客の気配に気が付いたのか早々に帰ってきてくれて少し安心した。


『父ちゃんはボクが守る!修行して強くなったんだ!』


なんて健気で可愛いんだ。俺は思わずロノをギュッと抱きしめる。もふもふ。


落ち着いてよく見てみると、位階が高く多くの魔素を内包しているはずのハイエルフだというのに中身がスカスカだ。もちろん魔素的な意味で。死期が近いのか。

世俗に関わらないハイエルフがじーさんの追手という可能性もないだろう。たまたま迷い込んだんだろうか。


一説によるとハイエルフの遺体からは世界樹が生えるという。本当ならものすごい生命エネルギーだろうな。喰いたい。


森の魔物もハイエルフは襲わない。何か世界の決まり事でもあるのかな。ライブラリでも分からないことはたくさんある。

まだまだ進化が必要だな。



ハイエルフが感知範囲に入ってから三日目、ようやくダンジョンの前にハイエルフが姿を現した。待ち侘びたぜー。

うーん、にしてもざわざわざわざわ。森が何やら騒がしいな。

寂しがっているような、でもどこか嬉しそうな、これまで静かだった迷いの森の木々がやけに饒舌だ。


ハイエルフが結界の前で立ち止まる。何か様子がおかしいぞ。

警戒したり様子を窺っているというより、力尽きたような…って魔素化しちゃってるじゃん!


俺は慌てて玄関から表に出る。ハイエルフは苦し気にしながらも、俺を見て目を見開き礼を取ろうとする。


「神の御子よ。御前で立ち尽くす非礼をお詫び申し上げます。ハイエルフ族のエリン、この場で世界樹へと変態させていただきます。意識あるうちに貴方様にお会いできた幸運に感謝いたします。」


いやいやいや、ここで世界樹になられちゃ困る。せめてあと一歩!ダンジョンの敷地に入ってくれ!

とはいえハイエルフはもう動けそうにない。

えーい。初対面だけど、神の子と勘違いしてくれてるみたいだし、運んでもいいよな!?


「ハイエルフ殿。このような場所ではなんですから、ひとまず中に入りませんか。失礼ながら抱き上げてもよろしいでしょうか。」


質問の形を取りながらも有無を云わせず抱き上げる。

お、ダンジョンの敷地に入ってから魔素化が止まったぞ。とはいえもう風前の灯って感じだな。

俺はハイエルフをリビングのソファに座らせ、庭からハイエルフにくっついて来たノームをその膝に乗せた。

よく分からないけどノームがわらわら集まってくる。逆にサラマンダーは逃げて行ったし、暖炉のイフリートはハイエルフが怖いのかそれとも気を使ってるのか、小さくなっている。


あ、ノームがハイエルフに吸い込まれた。え、敵対するようには見えなかったけど、うちの子吸収しちゃったのか?

でもノームの方から近付いて行ったようにも見えたし、ハイエルフはなんかハラハラと金色の涙を流している。


「おお御子様。なんとお優しい…。けれどもう良いのです。この世界で魔素の濃い土地など、もはやそう残されてはおりませぬ。

 妾を憐れと思し召さば、どうか御子様の御許で世界樹へと成り変わることをお許しください。」



…えーっと、ハイエルフは自主的にノームを吸収したんじゃなくて、多分ノームが自分から吸収されたんだな。それはハイエルフの生命を長らえさせる行為で、どうやら俺の指示だと思ったようだ。

そしてこのハイエルフはこれから世界樹に変わろうとしている、と。やはりハイエルフって世界樹の種のような存在なんだな。


普通の生き物はほぼマナを吸って瘴気を吐き出すわけだが、世界樹は主に瘴気を吸ってマナを吐き出す魔素の光合成をする植物のような役割をするものだ。まぁ実際植物なんだけど。

ハイエルフと同じく魔素で呼吸をするので、魔素が薄いと枯れてしまう。ライブラリによるとダンジョンが出来る前はいくつもあったようだがダンジョンとの生存競争に負けてしまい、現存する世界樹は一本のみ、という超希少種だ。

下手したらハイエルフも最後の一人という可能性すらある。


うーん、これって俺のダンジョンで吸収しちゃっていいんだろうか。


俺は世界の崩壊の危機を前に完全にビビっていた。

世界樹がなくなれば世界からマナがなくなり、魔物以外は生きられなくなるからな。その魔物だって他の生き物が居なければやがて滅ぶだろう。

待て、そんな重要な決断をここでくだすんじゃない。


しかしハイエルフは完全にその気(・・・)だ。

なんならこのままリビングで溶け出すつもりじゃなかろうか。ノームたちを抱いて満足そうな顔しちゃってるし!

けれどこの辺りの魔素は俺のダンジョンが吸収しているから、ダンジョンの外では確実に世界樹は枯れてしまうだろう。


…仕方ない、せめて裏庭にしてもらおう。魔物どもの居場所はなくなるかもしれないが、あいつらも元々居候だ。知らん。

世界樹には俺のダンジョンと命運を共にしてもらうことになるが、もう知らんぞ!

むしろ人間に倒されそうになったら交渉材料にしてやるぜ。まぁ人間は視野が狭いから、世界樹さえ気にせずに自分たちのものにしようとするかもな。

それならそれで、世界が滅ぶのも人間の責任だ。俺は知らんぞ。


「ハイエルフ殿。それではせめて陽の当たる庭にて新しい生命を育みましょう。

 貴方の旅立ちに幸多からんことを。」


俺は心中で無責任な言い訳を並べ立てながらハイエルフを中庭の中央に横たえる。

ハイエルフはすでに身体の末端から少しずつ魔素に解け、葉に枝にと変わりながら地面に落ちては消える。


「御子様、世界樹となりて永久(とこしえ)に貴方様にお仕えいたします。ありがとうございます。」


最期の言葉を残してハイエルフは完全に姿を消した。



ドクン。

ダンジョンが歓喜に打ち震える。腹が満たされ、エネルギーが溢れる。

コアがハイエルフの生命エネルギーを最後の一滴まで飲み干した。


…あれ?世界樹、生えてこない…な?






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