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「おいでなすったぞ。ロノ、大人しくしてろよ。」


少し前からライブラリの感知範囲に入った人間の気配が、一週間ほどかけてようやく目視できる距離まで近付いてきた。

ライブラリの感知範囲が広がったのもあるけど、じーさんはかなり移動速度が速かったんだな。ダンジョンに滞在してる間も周りの魔物を狩りまくっていたもんな。

この人間たちは、なるべく魔物を避けてここまで来たようだ。まぁそれが普通か。


ロノが無意識なのかぐるる、と唸り牙を剥く。俺が怖いからやめなさい。

今回の客はじーさんの追手、愚王に雇われた傭兵だ。

奴らに気付いてからロノがピリピリしてるなーとは思ってたが、もはやダンジョンの外まで飛び掛かって行きそうな勢いだ。


『だってあいつら、じーちゃんをイジメたんだ。ずーっとずーっと追いかけて来て。ボクじーちゃんを守ったけど、じーちゃんは死んじゃった。』


じーさんが死んだのは老衰だが、ロノにはよく分からないようだ。というか死ぬ時にそばにいたのは俺だったんだがその辺はどう思ってるんだか。


「それでもこちらから攻撃しちゃダメだ。どうせアイツらだって雇われただけなんだし、やるなら元凶を叩かないとな。」


『父ちゃん、じーちゃんの仇を討ってくれるの?』


「それはまだ分からん。あちらさんの出方次第だな。」


ロノやじーさんから受け取った剣をしつこく狙ってくるようなら、俺は戦う覚悟でいる。

諦めてくれるならこちらから仕掛けるつもりはないけどな。

今回の戦力を見る限り、数人の傭兵がちまちま来るくらいならなんとかなりそう。全面戦争にならないように祈るばかりだ。



傭兵どもはダンジョンの敷地から死角になる木の陰で野営をすることにしたようだ。実は丸見えだけどね。こっそりこちらを観察してるのもバッチリ見えてるよ。

見つからないようにか、雪の中だというのに火も焚かないのが可哀想になっちゃうな。


暗くなったら庭のサラマンダーが時々ポッと燃え上がってふよふよ移動するのがよく見える。普段は赤いトカゲ姿でちょろちょろしてるけど、たまに火の玉みたいになるんだよな。

ロノの仲間のつもりで数体呼び出してみたけど、ロノ以外の配下はあまり意思を感じないというか、言われたことをするだけだから遊び相手にはならないみたいだ。

暖炉と竈にはイフリートがいるし、ノームと力をあわせると良質な土造りが出来るようなので、庭に放しておいたのだ。

そのサラマンダーが燃え上がるたびに傭兵どもがソワソワするんだよな。なんか本当ごめん。


さてさて、朝になって奴らがようやく結界の前に来たので俺も玄関から庭に出る。良い朝ですねー。

ロノが俺を守るように腕に絡みついているので少し重い。可愛いから良いけど。

人が出てくるとは思わなかったのか傭兵どもが慌てふためいている。


「おはようございます。何かご用ですか。」


この世界だと黒髪黒眼は神の子孫だと思われるようなので、それっぽいキャラは継続だ。()の威を借るなんとやら。神だろうがなんだろうが使えるものは使ってやるぜ!


しばらく固まったりごにょごにょ相談したりしていた傭兵どもだが、やがてリーダーらしき男が一人前に出てきた。


「あ、貴方様は神の御使様とお見受けします。私どもは怪しいものではありません。

 とある男の消息を追ってここまで参りました。数日前に年老いた武人が一人、迷い込んではおりませんか?」


「そうですね…。貴方方はそのご老人にどのような御用向きでしょう?」


やはり神の関係者という認識なのか。助かるな。

丁寧な対応に安心しつつ、あえて質問に質問で返す。


「…さる高貴なお方より、その男を連れ戻すよう申しつかっております。もしも御使様の元におられるのでしたら、身柄を渡していただけませんか。」


身柄を渡してもあのじーさんをこいつらがどうにか出来るわけがないだろ。まぁどちらにしてももう無理だけどな。


「残念ながらそれは叶いません。龍騎士殿は天寿を全うし、その装備とともに世界の礎に還りました。骨の一片たりとも存在しませんよ。」


「装備と共に…?失礼ながら、世界の礎とは?」


「そうですね。貴方方にも分かる言葉でお伝えするならば、この世界に遍く(あまねく)漂うもの…魔素、が近いでしょうか。」


「人が…魔素に…。」


当然それは人智を超えた所業だ。傭兵どもの顔色がはっきりと変化した。畏怖。

実際には魔素化してダンジョンに吸収されただけだが、人間にとってダンジョンは『喰らう』ものであって魔素化するという認識はないからな。


「ええ、ここはそういう場所ですから。」


にこり、と笑顔に圧を掛けて謎めいた感じを演出してみる。

ライブラリの情報を見て気付いたんだが、このリーダーの男の片目は呪術で入れ替えられていて、どこか違う場所にこの光景を伝えているようだ。十中八九、件の愚王のところだろうけど。

そうやってじーさんの位置を常に把握しているから追手が途切れなかったんだな。

人間社会では禁呪に類されるものなんだけど、このリーダーはそんな呪術を受けたことさえ気付いてないっぽい。


ここの情報が愚王に伝わってしまっているが、まぁいいか。

じーさんも装備ももうないのだから、これ以上追う意味もないだろう。

俺は傭兵どもをダンジョンの敷地に入れることなく、丁重にお引き取りいただいた。じーさんの追手なんぞにうちの敷居は跨がせません!




     *****


「ホワイトドラゴン…だと!?」


「ええ、龍の装備が永遠に失われたことは大きな損失ですが、生きたホワイトドラゴンを手に入れれば装備など些細なものです。幸いまだ子供のようですし、手に入れてしまえばなんとかなるでしょう。」


「しかし、神の遣いはどうする?神の怒りに触れるぞ。」


「そうですな…。神聖ルクシア教国を利用するのはどうでしょう。なんでも後継者争いの最中だとか。付け入り易い者を選んで、神聖なるホワイトドラゴンを浚うよう唆すのです。」


「それで手に入れた後に横から搔っ攫うというわけか。お主も悪よのう。」





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[一言] いえいえお代官様ほどでは
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