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じーさんを作成するってどういう意味だ?
俺は【龍騎士グラン】の詳細を見る。
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【龍騎士グラン】100000pt
【強さ】非常に強い
【特徴】ドラゴンに認められた騎士。忠誠心が篤く義理堅い。ダンジョンマスターに魂を捧げたため召喚可能。
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…そうか。じーさんは剣だけじゃなくて、本当に魂を込めて捧げてくれたんだな。
さすがにポイントは大量に必要だが、じーさんがいれば俺の守りは万全だろう。話し相手にもなるし…どうしようかな。
いや待て。ホワイトドラゴンも見てみなければ。じーさんの龍装備からドラゴンの因子が手に入ったんだろう。
さすがドラゴン、装備になっても主人を選ぶ程強い生命エネルギーを持っている。
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【ホワイトドラゴン(幼体)】50000pt
【強さ】強い
【特徴】龍騎士グランに討ち取られたドラゴン。ダンジョンマスターの影響により浄化と癒しの力を持つ。不完全な因子のため幼体のまま成長しない。
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幼体か。それでも『強い』というあたりがさすがドラゴンだな。
じーさんからは倒したのは緑の龍だと聞いたが、恐らく俺がじーさんに浄化と癒しの魔法をかけたときに魔素が入り込んだんだろう。
ホワイトドラゴンのチビかー。…良いかも。
でも今のポイントではホワイトドラゴンかじーさんか、どちらかしか選べないのか。
あとはドラゴンの因子でトカゲ要素が増えているな。
リザードマンは沼地に生息するからここでは棲家を用意できないため却下。サラマンダーはイフリートと被るかな。
ポイントが増えてヴァンパイアとかエルフが作成できるようになっている。まぁ今更いらないか。女の子なら考えたけど、どうせ男だろうし。
いや、ハーレムにしたいわけでは断じてないけど。
『きゅう』
──という訳で、俺はホワイトドラゴンを作成した。
ドラゴンは浪漫だ。異論は認めない。
…なんて。ダンジョンで作成された配下はダンジョンマスターに絶対服従だから裏切ることはないとはいえ、魂を持つとなるとその心の内までは分からない。
合わせる顔がないなんて、殊勝なことは言わない。ただ、じーさんに騙されたと思われることを想像すると…俺にじーさんを召喚する勇気はなかった。
さて、ホワイトドラゴンだ。サッカーボール大の、トカゲというには丸っこいフォルムに蝙蝠のような羽根が生えている。頭に耳のようなツノのような、微妙に判断しかねる突起があるな。コリコリしている。
首の周りと、背中から尻尾にかけての中央のラインにはモフモフの白い毛が生えている。他の部分は柔らかな鱗に覆われ、しっとり吸い付くような肌触りだ。…なんだこれ、気持ち良いな。
クリッとした眼は庇護欲を誘うし、口元も閉じていれば笑っているように見えて可愛らしいが、口を開けるとさすがに痛そうな牙がずらりと並んでいる。ギャップがすごい。
こんなに可愛いのに『強さ:強い』なのか。どう戦うんだろう。やっぱり牙かな。一応爪はあるけどそこまで硬くなさそうだし。
俺は無意識にホワイトドラゴンを撫でくりまわしながら隅々まで観察した。可愛い。
モフモフとスリスリと両方楽しめるなんてお得すぎないか。
『きゅう?』
まん丸な眼をくりくりさせて首を傾げながら見上げてくる。あざと可愛い。
「お前、魔法が使えるのか?」
ホワイトドラゴンには種族特性で癒しの力があったはずだ。こいつは俺の魔法を受けてホワイトドラゴンになったようだが、何か違いがあるんだろうか?
俺の言葉が分かったようで、ドラゴンはパタパタと飛び上がり身を震わせた。お、全身が光って毛が逆立った。プルプルしてるけど大丈夫か?
ほんのりと温かくなったドラゴンはそのまま俺の腕に身体を擦り付ける。マナの動きを感じるな。魔法とは違うが、これが癒しの力か。怪我してないから分かりにくいけど。
ものすごくドヤ顔を向けてくるチビドラゴン。可愛い。
…正直癒しの力は微妙だな。ライブラリで魔法が使えるから、使い所がイマイチ思いつかない。
「こちらの言葉は分かっているんだよな?言葉は話せないのか?」
『きゅーん』
褒めて欲しそうだったのでわしゃわしゃと首元を撫でてやりながら何気なく訊ねると申し訳なさそうに眉を下げる。
表情は豊かだが言葉は話せないのか。
「まぁよろしくな。…えーと…。」
名前をつけた方がいいのかな。
「シロ。…嫌なの?うーん、ドラゴンのチビだからドチビ。うわ、やめろ。じゃあ、きゅうきゅう鳴くからキュー。…なんだその微妙な顔は。」
意外と好みにうるさいチビドラゴンにどつかれたりしながら俺は必死で名前を考える。
面倒くさいな、こういうの苦手なんだよ。これでも真面目に考えてるよ!
「そうだ、ロノはどうだ。豊穣と平和の神の名だ。他の神に治癒の力を分け与えてもらったという逸話もあるぞ。」
『きゅう!』
ようやく気に入る名前が出てきたようで嬉しそうに飛び回るチビドラゴン。
「よし、ロノ。よろしくな。」
『よろしく、父ちゃん!』
「うわ、いきなりしゃべるなよ。…名前を付けたからパスが繋がったのか?ていうか父ちゃんってなんだ。」
突然頭の中に幼い子どもの声が響く。言葉が伝わったことが分かったロノはくりくりの眼を輝かせて飛び掛かってきた。
『父ちゃんボクの声が聞こえるの?うわーい!ボク、ずっと父ちゃんに話しかけてたんだよ!
ボクを生んでくれてありがとう!ボク、がんばって父ちゃんを元気にするね!』
俺が生み出した配下だから父ちゃんなのか。俺の話を聞いているのかいないのか、子どもらしく伝えたいことを体いっぱいに伝えてくるロノに呼び名を訂正させるのは難しそうだ。
やれやれ。
はしゃぐロノは、ダンジョンに来たばかりの頃些細なことにいちいち驚いたり喜んだりしていたじーさんを彷彿とさせた。
ダンジョンのモンスターだって言うのに平和の神の名を付けるなんて、俺もどうかしてるな。




