専属依頼初日
「それでピーシーまで金を王家に届けてほしいのだ。」
「分かりました。」
私はピーシーというおよそ馬車で4日程のところにある運河の起点の街まで届けてほしいとの依頼を受けた。金の輸送はこの商会でも情報が厳重に扱われ、それを知るものは極一部らしい。そして確実性が求められる輸送であることから金を収納できる私に依頼をしたそうだ。
「ナクルを付き添いにつけるがそれでも良いか?」
「構いませんよ。」
監視というわけか。まあ完全には信頼されていないししょうがない。私たちは屋敷の中に停まっているいるぼろい馬車を中庭に引き入れ、中に隠された金を収納した。なんでもこの街のすぐ隣国では金が採れるらしくそれでこの街は古くから金の精錬と金融で賑わっているらしい。
「これで以上ですね。では出発します。」
私はナクルと旅人の恰好をして屋敷の裏門から出た。ここでの金銀の交換比率は1:50だ。フロンティールでは1:100だったから結構違う。ピーシーという町は北東にある街らしい。そこまで悪目立ちしないようにギルドカードを提示し、冒険者として検問所を抜けた。
「それにしてもこの検問所はかなり混んでいたな。いつもこんな感じなのか?」
「いつもであればもう少し空いています。私たちが遭遇したような盗賊とかが身分を偽って街に入り、窃盗をする事件が増加しているのです。この街は金細工とかでかなりの値打ちのあるものが作られていますから。」
「なるほどな。金の成る場所には盗人も集うのか。」
流石に130㎞も歩きで良くのは危険だと思い、マウンテンバイクを使うことにした。
「康太、これはなんだ?」
「自転車というものだよ。ペダルという場所に足をかけてこの歯車を回せばこんな感じに進むんだ。」
「面白そうだな。やってみても良いか?」
「これでこの先進もうと思っている。」
練習を始めてから15分ぐらいは何回も彼は転んだが、運動神経も良いのか、乗りこなせるようになっていた。今回使用しているのは3インチくらいのかなり太いタイプだ。
「ギアの変速も慣れたようだな。」
「ああ、これめちゃくちゃ楽しい!」
「それじゃ、行くか。」
街が馬車に乗っていた時よりもどんどん遠くに消えていく、途中数台の馬車を追い抜いた。
「やっぱ楽しい!」
「日が暮れる前に着きたいしもっと早く漕ぐか。」
「そうだね!」
ナクルはかなりご満悦なようだ。日が暮れる直前になって、ピーシーがよく見えるようになった頃、後ろから武器を持った集団に追いかけられ、矢を打たれた。
「ふー、あぶねー。」
「もう少し速度をあげよう。向こうも少しぬかるみで速度が落ちているようだし。」
それで奴らを振り切り、私たちはピーシーの街の南側の検問所に来た。
「閉門寸前に滑り込むとは実に運が良いな。」
「これがギルドカードです。」
「なんか怪しいな。証書も見せろ。…疑って悪かったな。」
私たちは無事にピーシーに入り、街の東側にあるファーデル商会の船倉庫に来ることが出来た。そしたら支店長がナクルが来たと分かり飛んできた。
「ナクル様、お久しぶりでございます。して、こちらの方は?」
「彼がこの封書にある通り荷物を運んできてくれた康太だ。内容は封書に書いてある。」
支店長がその封書を数分間読んだ後、彼は私たちを誰もいない空き倉庫まで案内した。
「康太殿、お願いします。」
私が異空間収納から金を出すと同時に泥だらけになったマウンテンバイクを収納した。
「素晴らしい魔法をお使いでありますな。さて本題に戻って、このピーシー支店長ノーラス・クライ、確かに金12箱受け取りました。康太殿、引き続き我々ファーデル商会をごひいきに。」
彼が証明書にサインをすると私たちはそのままファーデル商会の別邸に停まることにした。