食品工場を建てる前編
つい先日、オルスさんが菓子パンを食し、大層気に入ったという出来事があった。それでつい気になって、ファーデルの街中の屋台を回った。
「これいくらですか?」
「小銀貨2枚だよ。」
この世界の「パン」つまり小麦を用いたものはイースト菌が使われていないのかミサで食す御聖体のような平べったいものである。別に味は悪くないが、固いせんべいのような感じよりはやはりふっくらしたものの方が好まれるのだろう。そしてこの地域の主食は小麦を轢いて焼いたものであり、生活の質と密接に関わってくる。それから他の屋台も回ったが、まあどこも似たような値段で似たような大きさのパンが売られている。
「これでパンに手を出しても十分な需要があるな。流石に小麦はこっちの物を使わないとこの地の農家を潰すことになりかねないからな。」
私は軽く市場調査のレポートを入力し、オルスさんのいる商館にやって来た。
「オルスさん、こんにちは。」
「おお、康太殿か。あの菓子パンとやらを売ってくれるのか?」
「それもそうですが、パンを一般の市場に流してみたいと思って相談に来ました。」
「詳しく話を聞かせてくれ。」
「私の考えで、この地域の食糧事情を考えれば、我々の作るパンは十分に売れるのではないかと思ったのです。」
「価格にもよるが、康太殿のパンが飛ぶように売れるのは想像に難くない。」
「それでファーデル商会を通して販売するのはどうかと考えたわけです。」
「それは歓迎だが、康太殿の作るパンを製造できるものはおそらく皆無だろう。康太殿のパンが大量に流通すればパンを作っている人々が大量に失業し、治安も悪化してしまう。それに康太殿は無から作り出せると聞いた。そうすると農家も商売あがったりになる恐れがある。」
「それでなんですが、使用する小麦はファーデル商会を通じて仕入れ、それでパンを作ってまたファーデル商会を経由して販売するのはどうでしょうか?価格は通常の2倍にして最初期はそれでバランスを取ります。」
「最初期というのはそれからの展望があるのか?」
「生産量を増やすことになれば主要な街にパン工場を建てて、そこでパン職人を雇うというのはどうでしょうか?」
「確かに。それであれば治安の急速な悪化も防げるな。そこまで考えているのであれば私は賛成だ。早速小麦を納入しよう。そこまで多くは必要ないということは馬車一台分程か?」
「そうですね。試験製造ですからそれくらいで十分です。」
「分かった。それであればこのすぐ近くの倉庫に在庫がある。そこから取って行ってくれ。代金はただで良い。」
「ありがとうございます。」
それから私は2ブロック程北に行ったところにあるファーデル商会の倉庫に向かった。
「康太殿、こんにちは。どうされましたか?」
「オルス商会長と話し合ってここにある小麦を10袋分融通してもらえることになったんだ。だから受け取りに来た。」
「分かりました。こちらにあるのを取って行ってください。」
「ありがとう。」
私はJLTV GPの後部座席に山積みにして第一基地に帰還した。