再びファーデルからピーシへの輸送後編
ファーデルを出発した私たちは一直線にピーシーに向かった。助手席にはオルスさんが座り、私が召喚した軽食の菓子パンを食べている。
「このパンは素晴らしい!康太殿はいつもこのようなものを食べているのか?」
「ええ、種類も色々とありますし、本当に様々なものを口にしていますが、これ以上においしいのが多いですよ。」
「このパンは売ってもらえないだろうか。言い値でも買いたいぐらいだ。」
「そうですね。一袋当たり小銀貨5枚でどうでしょうか?ただし、袋は必ず回収させてください。それと転売は禁止です。」
「良いだろう。それにしてもなぜ条件に袋の回収があるのだ?」
「これは自然の中に捨てても分解されないからです。例えば小麦を入れた袋を外で放置すれば腐って土に還るでしょう。それがこの袋では起こらなくて有害なんです。」
「よく理解できていないが、有害だから回収しなければならないということか。」
「そういうことです。」
プラスチックがこの時代の地層から見つかってトラブルになったり、私が召喚したものが放置されたらどうなるのか心配であるというのが本音だ。
「これだけ早く輸送できるということは海で取れた鮮魚を直送して内陸で売ることはできないだろうか?」
「それは可能ですし、時間がかかるにしても冷やしておくことが出来ますので、そうすれば日数は伸びます。」
「ずっと川の水にさらしたりするのか?」
「いえ、冷やすための専用の箱があってその中に入れるのです。」
「そうか。私の商会は当然食料品も広く扱っているのだが、魚、そして果実の品質劣化はどうしても避けられなくてね。遠い南の地で採れた果実は損害が少ないのだが、北側で栽培される果実はすぐに腐ってしまってとても仕入れることが出来ないのだよ。もし康太殿が可能なのであれば食料品の分野でも手を貸してほしい。」
「我々としても可能な限り安全、かつ確実に商品を輸送する所存です。」
「それはありがたい。過去に隣国の王への献上品で運河に住む大魚を釣って輸送したことがあるのだが、この国の最上級魔法士5人が氷魔法を交互に使って何とか腐らせずに献上することが出来たんだ。ものを冷やすというのはそれだけ大変なことなのだ。」
「我々はそんな手間を必要としません。」
「そうであろう。この馬無し馬車一つとっても康太殿は我々とは次元の異なる技術を有しておる。これだけの力があれば多くの人間は奢るだろうが、そうではない。ここまで謙虚でいるのだから。だから康太殿に是非お願いをしたい。」
そうやって、再び商談をしている内に我々はピーシーまでやって来た。この国の街は日没から日の出まで閉門するのが規則であるが、ファーデル商会などの馬車は特例で通行できることになっている。だからオルスさんが証書を門番に見せることで我々は通ることが出来た。
「これはこれはオルス様、康太殿もいらっしゃるということはまさかの例のお品物でしょうか?」
支店長のノーラス・クライが鉄砲で撃たれた鳩のように動揺を隠せずにいた。
「そうだ。康太殿に無理を承知でお願いしたのだ。」
「私からもお礼申し上げます。」
「いえいえ、仕事ですから。それとは別でノーラスさんに渡すものがあります。」
「なんでしょうか?」
「電話というものです。これでいつでもオルスさんや私、ゆくゆくは他の支店長と遠くに離れていても話すことが出来るものです。詳しいことは添付の説明書をよく読んでください。」
「私も今でも戸惑っているが、相当便利であることは間違いない。これからは使いをよこす必要がなくなり、今回のようにすぐ康太殿に輸送を依頼できるようになるのだから。それで康太殿と今まで出来なかった鮮魚の輸送を始めようかと検討している。君の役割はかなり重要になるから頼んだぞ。」




