信頼
いつも通り部活を終え、阿部達がグラウンド整備をしようとした時、下村から集合がかかった。
「来週の日曜日、練習試合を行います」
「また急に‥‥」
志賀が呟く。
「何処とですか」
北条が聞く。
「エレンシア横浜ユース」
下村がそう言った瞬間、ドリンクを飲んでいた奴が噴き出す。
「な?」「マジですか?」などと下村に疑問を投げかける。
「エレンシア横浜って強いの?」
大石が隣にいた木村に聞く。
「日本屈指の強豪チーム〜。幼稚園生からユースまで合わせると200人以上いるユースの名門〜」
「へぇ」
「あまり興味なさそうですね」
後ろにいた藤原が聞く。
「別になくはないさ。でも人数がいくら多くても結局試合に出れるのは14人しかいないだろ? それにどんなに強いチーム相手にも勝つために最善を尽くすだけだ」
「頑張ってね〜」
「お前もだろ。いい加減秘策っていうのを教えろよ」
「もうすぐ分かるよ〜」
木村がいたずらっぽく笑う。
「‥‥ちょっといいか」
阿部が話し掛けて来た。
「‥‥帰り、ちょっと付き合ってくれるか?」
「別にいいけど」
「‥‥じゃあ玄関で待っててくれ」
阿部はそう言ってグラウンド整備を行うために走って行った。
着替えて玄関で待つ。
何故か木村も隣にいる。
「なんでお前もいるんだよ」
「気になるじゃん〜」
「お前の秘策のほうが気になる」
そんなことを言ってる間に阿部と大竹が来た。
「じゃ、ついて来て」
連れてこられたのはラーメン屋だった。
ちゃっかり木村も付いて来ている。
カウンターに座り、4人共ラーメンを頼む。
「おいしいんだよ、ここのラーメン」
目の前に出された。
確かに美味しい。
木村が褒めちぎると、店主は喜んで、おまけしてくれた。
「で、何でここに連れてきたの?」
隣に座る阿部に聞く。
「‥‥俺は次の練習試合で勝ちたい」
「俺もそう思ってるさ」
「‥‥でもこのままじゃ勝つことは出来ない」
「だろうね。パスが回らないんだから」
「‥‥どうすればいい?」
「何で俺に聞くんだよ」
「なかなかパス来ないじゃん、海外でプレーする日本人って。同じじゃん、俺らと」
阿部に替わり大竹が答える。
阿部が大竹を睨みつけて黙らせる。
「‥‥お前はどうやってパスをもらっていた?」
「簡単だ」
大石がラーメンを啜る。
「信頼すればいいんだ」
「‥‥信頼?」
「そう、信頼。信頼してパスを出す、信頼してスペースに走り込む。そういったことを積み重ねることでパスが出るようになった」
「‥‥そんな簡単なことで、か?」
「他人を信頼するってことは、他人を知らなきゃならないってことだ。他人をしって、初めて信頼関係が結べる。結構大変なことだ」
「‥‥‥」
阿部達は黙ってしまう。
「早く食べないとのびるよ〜」
「‥‥ああ」
阿部と大竹は再び食べだした。
ラーメンを食べ終わり、会計を済ませ外に出た。
冷たい夜風が顔を叩く。
「‥‥信頼か、考えたことなかったな」
阿部と大竹が自転車にまたがる。
「‥‥もう間に合わないか」
「そんなことないでしょ〜」
木村が自転車にまたがりながら言う。
「本気でやれば遅すぎるなんてことはないよ〜。ね、大石〜」
「ああ、そうだな」
木村がペダルを漕ぎ出す。
「‥‥そうだな」
阿部達もペダルを漕ぎ出した。