休日
大石が日本に来てから初めての土曜日、部活を終えてからナビ役に木村を連れ、町を散策し始めた。
始めに自転車を買い、自転車を漕ぎながら町をうろうろする。
「さっきここ来なかった?」
「そうだっけ〜?」
もとい迷った。
「ってかなんでお前が迷ってんだよ、地元だろ?」
「あ、阿部だ〜」
阿部が自転車に乗って角を曲がる。
「ついてこ〜」
木村が自転車を漕ぎ、阿部を追跡し始めた。
「おい、待てよ」
大石が後を追う。
阿部はあるかなりでかい建物の前で止まった。
「ここは?」
「町の体育館だよ〜」
阿部が中に入る。
「ってか何でついてきたんだよ」
「俺らも行くよ〜」
木村が中に入る。
「おい、人の話聞けよ」
中に入り、阿部を尾行する。
阿部は二階に上がり、ある部屋に入る。
「ここは?」
「まぁジムみたいなもんだよ」
木村がドアを開けた。
阿部がドアに背を向け一人でトレーニングをしている。
「凄いね〜」
誰も寄せ付けない雰囲気を纏っている。
トレーニングを終え、こちらを向く。
「‥‥どうした?」
「道に迷った」
「‥‥そう」
阿部は表情一つ変えない。
「何してるの?」
「‥‥トレーニング」
「それは分かるけど」
「‥‥筋トレ」
「だから分かるって」
「‥‥練習の不足分を補ってる」
「不足分?」
「‥‥俺の欠点はフィジカルの弱さだ‥‥ある程度はないと高校ではやっていけない」
阿部は汗をタオルで拭き、椅子に座る。
「長所を伸ばそうとかは、思わないの?」
「‥‥思ってるよ。でもジュニアユースでしか通用しなかった」
阿部が視線を落とした。
「‥‥試合にもそれなりに出ていたし、テクニックなら誰にも負けない自信があった‥‥でもユースには昇格出来なかった」
「フィジカルのせい?」
大石が聞くと阿部が頷く。
「‥‥そう伝えられた」
「ならフィジカルの低さに目をつむってもいいくらいテクニックを磨けばいいだろ?」
「‥‥中学から唐冲に入ったやつはフィジカルがそれなりに高かった。‥‥でも俺は身体能力そのものが低い。‥‥せめて接触プレーで吹っ飛ばされないだけの筋力は最低限必要だ。‥‥長所を活かすにはベースがある程度なければ出来ない」
「そうかもね〜。俺達が鈴木先生が個性活かす戦い方をするために、俺らに基礎を徹底させてたし〜」
「基礎がなければ積み上げられないからね」
大石が呟く。
阿部が立ち上がる。
「‥‥もう始めたいんだけど」
「あ、道教えて〜」
「‥‥」
阿部は紙と鉛筆を取り出し、地図を書いた。
「あいつがここに来てるの知ってたのか?」
自転車に乗りながら木村に聞く。
「うん〜。北条達も知ってる〜。だからこそ阿部達の力なしで勝とうとしてるんだけど〜」
「どういうことだ?」
「北条達は阿部の努力は欠点をなくすための努力だと思ってる〜。だから阿部に活躍されるとさらに個性を殺すサッカーが流行ると思っているのさ〜。北条達は個性を活かすサッカーをやりたいからね〜」
「阿部はミスキャストってわけか」
「そゆこと〜」
「それても、チームにならなきゃ試合に勝てない」
「だからそのために大石を呼んだんだ〜。北条達の意識をちょっとだけ変える秘策が俺にはある〜。大石は阿部達の意識を変えて欲しい」
「阿部達の?」
「もうほとんどパスを出す気が無くなってる〜。返ってこないんだから当たり前だけどね〜」
「その意識を変える‥‥」
「奇跡の男の力を見せてよ〜」
「分かった、やってみる。だけどお前の秘策って何だ?」
「すぐに分かるよ〜」
木村が不敵に笑った。






