第3話 魔人の国の戦い2
遠く彼方から聞こえる楽士隊の演奏は進軍の合図だろう…
士気高揚と行軍疲れを忘れさせるには、もってこいだ…
迅速な進軍は将が優秀な証だ。
噂には聞いている、魔神殺しを従えて要るのだろう、そんな超越者が味方にいたら損害なんてゼロに近い…指揮官の将を叩くか?最高戦力の魔神殺しを叩くかだが…
ふむ、やはり魔神殺しが演奏など無意味とばかり単騎で先行してきたか、妥当といえば妥当だろう…
南の壁門を無表情で通過する人影は、間違いなく魔神殺しだと思える、英雄に相応しい白い全身鎧に神々しい聖槍、纏う空気が明らかに普通じゃない…
効いて2割…頑張ったら3割くらいは効果がだせるだろう…
使いたくないのだが仕方ない、あたしだってお人好しのバカじゃない余裕を見せて良い敵ではない。
南の区画の一番高い建物から見下ろすオキシルが古代秘宝の杖をを空間収納から召喚すると強く握りしめ感度を確かめる。
「ふぅ、問題は無し…制限…解除…いや…」
軽く息を吸い込み、体に酸素を行き渡らせるとオキシルが杖に魔力を流し、目下に映る強敵に対し古代秘宝の杖を最適化していく。
おかしい、解除コードが一つ増えている
あいつにメンテナンスを指示したのはあたしだ…
解析…
[--Σ質--φ-の-Ж-解---Ψ-魔--収]
不安定だな…文字化けで、表示しきれていない…面白いが却下だ…
実験もしていないのに使える機能じゃない…
ジール、あまり手を加えるな。
好奇心と探求心、あいつもあたしも似た者同士だな…
一通りの長い詠唱をキャンセルする、この杖は、そこいらの魔法の杖ではない範囲を決めて魔力を注いで放つだけだ…
魔力の5割りを注ぐ…流石に後の事を考えると気が重い、勝てたとしても疲労は残りそうだ…
流石に気づかれているか…
十分な距離を取ったつもりだが…
杖の先端を目標対象に向けると魔力を濁流の如く一気に流す。
対象を呑み込め…!!
「痛っ…」
発動体の古代秘宝の杖が高熱を帯び始め、自身の手が皮手袋を通して火傷してゆくのが伝わってくる。
超高熱の白球が魔神殺しの頭上に召喚されると一瞬で目の前がホワイトアウトし楽士隊の演奏すら呑み込む轟音と振動が辺りに響きわたる。
自身を覆う防御魔法に地表を抉った岩や、建物の瓦礫がぶち当たっては弾かれてゆく。
身体的には問題ないが攻撃魔法、防御魔法の二重展開の疲労感が押し寄せ、気を抜けば飛ぶであろう意識をギリギリで繋ぎ止める。
視界が戻るには数十分はかかるだろう…
爆風と砂煙を裂いて高濃度の魔力を帯びた刃が迫ってくる!
ヒュン
オキシルが古代秘宝の杖を空間収納に戻すと魔剣が利き手に召喚され魔神殺しの神槍による刺突を受ける。
「痛っ!そりゃそうだろうな!」
魔剣に魔力を注ぎ弾き返すとあたり一面に魔力が放電し、さらに地形がかわってゆく。
「わかっているよ、お前の頑丈さはっ!」
滞空するオキシルに瓦礫の建物に着地する魔神殺し…
ほぼ全壊した全身鎧を捨て去ると大人とは言い難い容姿の人間が現れる。
どこの戦場だって似たようなもんだ、子供だろと年寄りだろうと戦争は戦争だ…
再度跳躍力を生かして魔神殺しが刺突をくりだしてくる。
「魔神殺しが造られし者か…趣味の悪い玩具の兵隊だな」
刃を交えるとさほどの強さは感じない、繰り出される攻撃も驚異ではないとすると……
「陽動か…」
本命は施設とメレディアか…
高性能な造られし者だが、完成体はさらに上をいくだろう…こいつはシリーズの一つか…
「状況は見ての通りだ、こっちは陽動だ、戻って主の手助けをしてやれ!」
メレディア配下の者が様子を伺いに来ていたようだが、こっちは何とかなりそうだ。
状況を理解した配下の者達がお互い頷くとハンドサインで何かしらのやり取りをした後、気配を消して行く。
「さて、研究者としてお前は興味深いがそうも言ってはいられないようだ…
そうだな、十合の打ち合いで終わらそうか…」
遠くで聴こえていた楽士隊の演奏がすぐそこ迄聴こえている…
やれやれ、民間人の私が何をやってるんだか…




