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残り火  作者: 天笠愛雅
8/8

残り火

「どういうこと?」

「思い出したんだよ、小学生の時のこと」

「待って、ちょっと何?」

佳純がどこか焦っているように見える。

「卒業式の日に君が理不尽なゲームで僕を負かせて、未琴に嘘告白しろって女子のほとんどで僕に強要したこと」

それって、私が零斗への告白を諦めた日のこと?

あの零斗の告白が嘘だったってこと?

「あれはね、ノリじゃん」

佳純が軽い口調で零斗に言う。

「君らがノリだとしても僕は違ったよ。あの後僕はいやいや告白したさ。フラれたけどね。あの時は本当に悔しかった」

「昔の話じゃん。やめようよ」

佳純のさっきの焦りがさらに増している。

「うるさい!」

周囲の通行人が数名振り返るくらいの声で零斗は佳純に言い返した。

「何よ、彼女に向かって!」

「彼女なんかじゃない!また僕を陥れたくせに」

「なにそれ!?」

「まあまあ二人とも落ち着いてよ」

さすがに周囲の目が気になり始めたので私は二人を制した。

「てか彩羽どっか行ってよ」

怒りの矛先が私に向いてきて、やってしまったと思った。

恐る恐る零斗の顔を見ると彼もまた私を睨んでいた。

誰も何も言えない静寂が訪れた。

だが、数秒後に零斗が言った。

「僕がその日、本当に告白したかったのは彩羽だったんだ」

私は耳を疑った。

零斗が放った言葉は鮮明に頭の中でリピートされているが、いまいち理解できない。

「えっ」

私の口から疑問の音が漏れた。

「今まで忘れていただけかもしれない。僕が今までずっと好きだったのは彩羽だ」

「何普通に浮気しようとしてるの!」

「黙って。君は最悪な女だよ。なんかおかしいとは気づいていたさ」

彼のあまりにもストレートな言葉に私でさえドキッとした。

「もう、最悪。せっかく上手く行ったと思ったのに」

その言葉を発した時、佳純の表情に悪が宿った。

「小学生の時、零斗が彩羽のことを好きだって知ってた。だからせめて邪魔してやろうと思って無理やり零斗を未琴に告白させた。邪魔は上手く行った。だから今度は私のものにしようと思って仲良くなって高校まで一緒にした」

まるで犯罪者の動機を聞いているようで私は鳥肌が止まらなかった。

「最近また彩羽とインスタで繋がりそうになってたから邪魔した。それと同時に零斗を落とそうって考えてた。最初は零斗のインスタを勝手に更新して彼女がいる感じに匂わせたの」

あの二人分のパスタのだ。

「で、今日はアイシングの。で、とうとう彩羽からDM来たからブロックしちゃった。彩羽が零斗に嫌われたと思わせるように」

徐々に辻褄が合ってきた。

「いつやってたんだ?」

零斗は操作されていたことに恐怖を感じたのか声が震えている。

「零斗が寝てた時」

「まじかよ…」

「今日はダメ元で媚薬を飲ませたの。それが案外効いちゃって」

私は開いた口が塞がらなかった。

それがさっきの零斗の様子の違和感だったのだろう。

そこまでして、零斗を我が物にしようとしていたなんて。

「酷過ぎる…」

ついに思っていたことが口に出た。

「でも彩羽はなーんにもしなかったじゃん」

「それは…」

そう言われると上手く言い返せない。

けれど彼が代弁してくれた。彼の気持ちで。

「関係ない。そんな馬鹿げていることをする方がおかしい。しかもこうやってここで会えたのは彩羽が僕を待っててくれたからだ」

私の目には運動会で見たようなヒーローの零斗が映っていた。

「遅くなったけど、もし今でも良いなら…、僕と付き合ってください」

遅いかもしれない。けど彼の仕草も、すぐ耳が赤くなるところも変わってない。

私は今でも零斗のことが好き。

「はい、お願いします」

精一杯の可愛い声で私は返事を言った。

零斗は一瞬真顔になったがその後すぐ笑った。

本当に昔を思い出すその笑顔。

時が戻ったようだった。

佳純は泣いていた。

そして泣きながら言った。

「ごめんなさい…。おめでとう…」

二人で彼女のことを許した。


火は人類の進歩に大きな影響を与えた。ただ、使い方によっては良いことばかりではない。火事だって起こる。

一気に激しく燃やすキャンプファイヤー。

細く長く穏やかに燃やし続けるキャンドル。

どちらにせよ残り火には注意しなければならない。操作の難しい火は、形大きさを変えることができる。幸せをもたらすことができるが意図せず牙を剥くこともできるということだ。

彩羽と零斗編終了です。

もしかしたら別の章を書くかもしれません。

読んでいただきありがとうございました。

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