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残り火  作者: 天笠愛雅
3/8

キーパーとスプリンター

結局その気持ちを抱き続けたまま六年でも同じクラスになった。

六年生ともなれば心も徐々に大人になっていく時期だ。

恋というものも嘘か真か区別がつく。

けれど私の恋は本物だったらしく、「また一緒のクラスかよ」と嫌そうに言われたときは嬉しくも悲しくもあった。

一緒のクラスになって話し掛けてくれたという事実と、本当に嫌がられているかもしれないという想像。

少し大人びた子供の心は単純には量れないものだった。

そしてその日の夕食もなかなか喉を通らなかった。

初めての経験で、その時は病気なんじゃないかと思ったほどだ。

父にも母にも心配された。

その日は早めにベッドに入った。

そして、今日も。

夕食を残し食卓を立つと、寝る準備をすぐに済ませて一目散にベッドへ向かった。

部屋には風呂上りに心を落ち着かせるために炊いたキャンドルの香りがまだ漂っている。

早く寝ようと思いスマホからは手を引いた。

もう少し彼の投稿を見たいが、見たら絶対に寝られなくなると確信があったからだ。

ただ、残念ながら見ても見なくても同じことで、結局頭の中で考えてしまう。

想像や妄想が勝手に膨らみ、寝たい時に限って先ほどの眠気は姿を現さないのだ。逆に目が冴える。

リラックスのためのキャンドルの香りもとうに消えていた。

 「ちょっとー、ボール行ったよ!」

寝たか寝てないかも分からないくらいの睡眠をし、気が付いたら学校にいた。

今日は日曜、部活が朝からあった。

目の前を白い物体が転がって行った気がする。

「彩羽!体調悪いの?」

自分の名前を呼ばれて現実に引き戻された。

「あ、ごめん。大丈夫」

「無理しないでね。最近暑くなってきてるし」

「うん、ありがとう」

私は足元に転がっているボールを蹴り返した。

そろそろ最後のインターハイの地区予選が始まる。

私たちのサッカー部は毎年県大会の決勝に勝ち進む、いわば強豪校だ。

私はキーパー。ほとんど仕事はこない。

シュートされる前に味方が全て防いでくれるから。

私の頭はボールなんかより、彼にフォローを返されたことでいっぱいいっぱいだった。

朝、カーテンの隙間から差し込む朝日に起こされ、かつ睡眠不足で気分が悪い中スマホの電源を点けるとインスタの通知があった。

朝で日本中の人の血圧が低いときに、私の血液は恐ろしい速度で心臓から送り出された。

私のアカウントを彼がフォローバックしてくれたのだ。

彼が私をフォローするのは星の中の一つを見るにすぎないだろう。しかし、彼は私にとって太陽のような存在。

そんなことを思いながら部活をしに学校まで来たけれど、結局まだ何もアクションはしていない。

普通の恋する女子なら、ここで一発メッセージ何か送るだろうが私にはできなかった。

まさか恋までもキーパーだったとは自分でも笑えてくる。

なぜ送れないか。

忘れられているのが怖い。

気持ち悪がられるのが嫌。

私には、彼の投稿やストーリーをこそこそ見ることしかできない。

昔とは違う、遠い遠い場所から。


 へぇ、サッカーやってるんだ。かっこいいな。

小学校時代、特に何もやっていなかった彼女がサッカーをしているなど想像ができない。

確かに僕と喧嘩したり、時には外で追いかけっこをしたりと何かとボーイッシュだったからおかしくはないのかもしれないけれど。

話したいこともあるしDMでも送ってみるか。

「おい、時間だぞ」

「あ、すまん」

彩羽にDMを送ろうと思ったのだが、ちょうど集合の時間になり、チームメイトから部室を出ろと言われてしまった。

スマホをバッグにしまい、練習用の靴を履いて僕はグラウンドへ向かった。

「今日は暑いけど頑張って!」

話し掛けてきたのは小中学時代の友人、そして陸上部のマネージャーである佳純だった。

「今日ほぼ寝てないからなぁ、やばいかも」

昨日は夜の十時くらいまで佳純たちと食事をした後、帰って色々しているうちに、気が付いたら今日になっていたのだ。

ゲームのイベントが終わらなかったというしょうもない理由なのだが。

そして目が冴えてしまい、よく眠れなかった。

「もう、またー。自覚持ってよね、地区は余裕だろうけどさ」

「まあな」

佳純の言う通り、地区大会は余裕で通過できる。調整の一環に過ぎない。

本当の勝負はインターハイ本戦だ。

推薦でこの学校に入った限り、結果を残さない訳にはいかない。

「そうだ、今日さ、うち来てよ。どうせ暇でしょ?」

他の女子の誘いなら確実に断るが、佳純だと行くかどうか考えるまでには至る。

この学校唯一の幼なじみだから。

「あぁ、考えとくよ。ゲーム…」

「ゲームしなきゃいけないのは分かってるって」

昔から一緒だとそのくらいのことは分かるようだ。

 練習はそこまできつくなかったので睡眠不足でも耐えることができた。

部活後の日曜の午後ほど気持ちのいい時間は無いと思っている。

早めに部活が終わったらなおさらだ。

「今日は飯パスで」

休みの日は大体チームメイトで昼ご飯を食べに行く。

「なんだよ、久しぶりにあそこの家系に行こうと思ってたのに」

僕は結構そこの家系ラーメンが好きだったが、今日は佳純と食べに行くと約束してしまったので仕方ない。

 「お待たせ」

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