プロローグ 霧の空間
投稿頻度は完全不定期ですが、出来るだけ早く投稿するよう頑張ります。
体が熱い。意識はぼんやりとしているが、それだけははっきりと感じた。体の外も中も熱風が駆け巡っているようで身動きすら取れない。
慣れたのか少し熱が和らいできたので目をゆっくりと開けると、そこには真っ白な空間が広がっていた。ただ、厳密には真っ白ではない。霧が辺り一面を覆い尽くしているような感じだった。
目を動かして左右を見ても、霧が続くだけで何も見えない。
ふと、後ろから視線を感じた。もしかしたら誰かいるのか。熱で痛む体を無理矢理ひねり、振り返った。
そこにいたのは、彼が知っている人間だった。しかし、親でも友人でも知人でもなかった。
そこにいるのは彼自身だった。
毎朝鏡で見る彼がそこにいた。霧があるのにはっきりと見える制服を着て学校に通ういつもの姿。違うのはこちらを睨むその目と手に持っている剣のようなものだ。剣と言っても霧が剣の形に集まっているだけなのだが、なぜか恐怖を感じた。
もう一人の彼はゆっくりとこちらに真っ直ぐに歩き出した。
殺される。直感的にそう思うと、痛む体も自然と動いた。熱さと痛みで精一杯走っても小走り程度の速さしか出ない。足が地面につく度に弱った体に振動が響く。
振り向くと、もう一人の彼はスピードを変えず歩いていた。こちらは走っているというのに距離は徐々に縮まっている。
このままでは追い付かれる。だが、どこにも逃げ場は見つからない。恐怖心が募るばかりだった。その時、
「カズキ……カズキ」
少女の声で彼の名を呼ぶのが聞こえた。彼女の声はどこから聞こえてくるか分からない。頭の中で話しているような不思議な響きだった。
「生きたい? それなら助けてあげるわ」
「助けてください!」
彼は思わず叫んだ。
「ここで死ぬより何倍も辛い目に会うとしても?」
彼女が何を言いたいのか彼には理解できなかった。彼は再び振り返り、距離が縮まっていることを確認すると必死で叫んだ。
「死にたくない! 生きたい! だから助けて下さい!」
彼の悲痛な叫びとは対照的に彼女は落ち着いた声で応えた。
「分かったわ。目の前に扉が見えるでしょ?」
ふと目の前に意識を向けるとさっきまではなかった「扉」が確かにあった。「扉」とはいいながら、そこにドアはなくただ向かう側から光が射し込んでいる、人が通れるほどの穴が空いているだけだ。
「そこに飛び込んで」
彼はもう振り返ることはなく、「扉」に向かって駆けると思いきって飛び込んだ。