転性事件
「今回の犯人は恐らく女性の犯行によるものと思われます。」
探偵Mは断言した。被害者の女性は女性用のトイレで化粧をなおしている最中に死亡したとみられる。そして金品なども盗まれておらず女性がトイレから逃げ出したような形跡もみられないため探偵Mがそう推理したのは無理もない。
しかし事件はある人物の自白により一変した。
「私がC子を殺しました」
Aさんが探偵Mの推理を聞き終えると自供したのだ。
「Aさん、犯人をかばっているんですね。しかし残念ながら、あなたが犯人である可能性は否定させていただきます」
Aさんは野球少年のように短髪で髪色は金髪だ。そしてプロレスラーと力士を混ぜ合わせたような体格で顔も力士みたいな人物である。
「あなたが女性用トイレへ侵入すれば少なくともC子さんは驚き悲鳴をあげるはずだ。しかし女性用トイレの近くにいた皆は誰もC子さんの悲鳴を聞いていない。やはりあなたには犯行は不可能です」
「いいえ、私がC子を殺しました」
「そこまで犯人をかばう理由を教えてください」
「かばってなんかいません。本当に私が殺したのです」
両者お互いに主張を取り下げない。
「C子さんは頭を鈍器のようなもので殴られています。しかしAさん。あなたは何も持っていない。手ぶらじゃないですか。一体どうやって殺害したと言うのです?」
探偵Mの反撃が始まった。
「両手の指を組んでギュッと握りしめて、そのまま振り上げて思い切りC子の後頭部へと振り下ろしました。」
探偵Mはニヤリと笑った。
「どんどんボロボロが出てきますね。あなたがトイレへ侵入したのにC子さんが悲鳴をあげなかった点。そして先ほど両手を組んで殴打したと言った。いいですか?そんな簡単に人は死なないんですよ。頭蓋骨というのは人体で1番硬い場所だ。それを素手で……しかも一撃で破壊するなんてことはあり得ない。よって犯人は女性で恐らく自分のカバンの中に重量物を入れて、そのカバンを思い切り振りかぶってC子さんの頭を殴り殺害したということになります。」
そう言うとAさんは何故か泣き出してしまった。予想外のリアクションに探偵Mは驚いた。
「なぜ泣くのです。あなたの無実は証明されたのですよ」
「うぅっ。それでも本当に私が殺したんです。だってC子が私のカレと浮気していたのをトイレで聞いてしまったから……思わずカッとなって殴ってしまったんです。殺すつもりはなかったのに」
探偵Mは驚いて質問した。
「一体どんなトリックを使って性転換手術を行ったのですか?」
「私は生まれた時から女です!」
そう言ってAさんに思い切り殴られた探偵Mは眼窩底骨折したが、現場にいた警察も目撃者達もみんな彼女のことを咎めはしなかった。